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嵯峨釈迦堂お松明式と嵯峨狂言特別公演

投稿:2013年4月 2日

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毎年、春3月15日の夕刻、京都の嵯峨釈迦堂(清凉寺)では「お松明式(おたいまつしき)が行われますが、皆さんはご覧になったことがおありですか?
遠くに住んでいる方はそんなにたやすく見に行けないので、写真やテレビで知っているくらいの方も多いでしょう。私も今回知人に勧められてはじめて見に行くことにしました。
もっとも、社寺の行事は見るのではなく、拝観させていただくというような信仰心が必要で、小さい方や学生さん達も皆さんまず本堂にお参りしていたのには感心しました。

この「お松明式は、大文字の送り火(8月16日)と、鞍馬の火祭(10月22日)と並んで京都の三大火祭りのひとつと呼ばれていて、郷土の歴史ある伝統行事として地元民によって今も受け継がれているものなのです。当日の午前中から行事は行われていて、午後8時の「お松明式おねり」までいろいろ細かな儀式(行事)が進んでいきます。一方、その日は境内に多くの屋台が出て、普段とは一変する様子に驚かれることでしょう。夕方にはどこからか人が湧いてくるように集まってきて、大松明に火が入るのを心待ちにしています。

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ところで、その日は同じ境内の狂言堂で重要無形民俗文化財の「嵯峨狂言」が三番も奉納されました。私は六時三十分からの『土蜘蛛』を拝観しましたが、すでにこの日は午後3時30分から『花盗人』、五時から『釈迦如来』が演じられていて、鎌倉時代から続く無言の仮面劇に、多くの人が魅せられていました。聞くところによると、これは保存会の人々の素人芸だとのことですが、言葉を使えないのが特徴のお芝居なので、からだ全体で喜怒哀楽を表現するなどなかなかの出来映えで、初めて見る私などは絶妙な演技に非常に感動しました。また素朴な会場なのも、手づくり感があってよかったです。

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境内に戻ると、中央に三本のかなり大きな松明が突っ立っています。松明はそれぞれ「早稲(わせ)」「中稲(なかて)」「晩稲(おくて)」に扮して立っているのです。約七メートルの大きさですが、若干大小があるものの、下から見上げるとそんなに差を感じないのです。夕暮れどきの濃い青墨の空に、巨大な松明が点火の時を静かに待っている…という感じでした。

松明を取り巻く屋台の周辺は次第に賑やかになり、若者たちの歓声がお祭りの雰囲気を盛り上げています。普段見られない種類の屋台があって、懐かしさから中高年の大人たちも嬉しそうです。

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午後8時を少し過ぎたころ、いよいよ「お松明式おねり」が始まりました。マイクの案内もなく、しずしずと提灯が境内に入ってきました。この提灯は高張り提灯と呼ばれるもので、読経する僧侶や関係者の間に13本が続きます。(この提灯の高低によって毎月の景気が判断されるとのこと。何事にも京都では意味があるのですね。それによると、13本とはひと月を28日と考えると1年が13か月になります。今年は4月を除いて上半期の景気は低調ですが、下半期は良くなるとのことでした)

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このおねりは松明の周りを約二周して、少し松明との距離を保つようにして輪になって止まりました。それは松明の火が熱いので、あまり近づいて火傷をしないようにとの配慮のようです。

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そしていよいよクライマックスに入りました。すでに別に焚かれている護摩木から種火を取出し、竿の先に引っ掛けて大松明のてっぺんに落として点火です。同じ作業が三本の松明に順番よく行われるのですが、少しの加減でそれぞれ火の勢いが違うのです。これは壮観です。火祭りは火の勢い、つまり火の明るさや竹のはじける音、そして舞い上がり風に流れる火の粉が、一種の恐怖心と共に美しさをも我々に感じさせるのでしょう。あちこちから歓声が上がっています。

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3本の火の粉はひとつになって流れていきます。しかしよく見ると、そのうち1本の松明が特に火の勢いがいいのです。それがどの稲籾なのかはその時はよくわからなかったのですが、後日お寺に問い合わせると、今年は晩稲を植えると豊作だそうです。これは今年の苗籾を何にするかを決める重要な占いの行事でもあったのです。

「お松明式」は嵯峨野の人たちの祭りではありますが、こんな勇壮な火祭りにもっと多くの人達がやってきて、感動してもらいたいと思いました。
つまり、あの境内のコンパクトな屋台群も、伝統をを守ろうとする嵯峨狂言も、厳粛なおねりも、そしてなによりあの勢いある火柱が、ほかにはない感動をくれたからなのです。

関係された皆さん、本当にご苦労様でした。そして寒い中をありがとうございました。

 



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