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※この記事は掲載時(2013年10月)の情報に基づきます。

特集記事

京都MUSEUM紀行。第十六回【京都府立堂本印象美術館】

京都ミュージアム紀行 Vol.16 京都府立堂本印象美術館

具象から抽象、絵画から工芸、建物空間まで―
京都が誇る“マルチアーティスト”の世界へようこそ。

京都市の北西部にある衣笠山は、平安時代から景勝地として貴族たちに愛された場所でした。その麓に位置する金閣寺から龍安寺、仁和寺へと至る「きぬかけの路」の中央に、ひときわ個性的な外観の建物があります。

全面に不思議な浮き彫りが施された白亜の外壁が目立つこの建物が、今回ご紹介する「京都府立堂本印象美術館」です。

美術館の設立経緯

この建物を建てたのは、堂本印象(どうもと・いんしょう)。大正・昭和に活躍した、日本を代表する芸術家のひとりです。

明治24年(1891)に京都で生まれた印象は、西陣織の名門・龍村織物で図案デザインの仕事をしていましたが、画家を志して大正7年(1918)に京都市立絵画専門学校(現:京都市立芸術大学)に進みます。その翌年、第1回帝展に初出展した「深草」でいきなりの入選。その後第3回展で特選、第6回展で帝国美術院賞を受賞し、一躍、画壇の中心的地位を確立します。

第二次世界大戦の後、印象は昭和27年(1952)に約半年間ヨーロッパを巡り、各地の芸術に触れて大いに刺激を受けます。帰国後は風景画や人物画・仏画といった日本画の伝統的なモチーフを描きつつも装飾的な色彩や抽象表現を持ち込んだりと次々と画風を変遷させ、世間を大いに驚かせました。その後も昭和50年(1975)に亡くなるまで精力的に活動を続け、数多くの作品を世に遺しました。

印象の作品は絵画だけでなく、陶器や漆器などの工芸、彫刻、金工、ガラス絵、広告デザイン、そして現代アートともいえる造形作品にまで及び、同じ一人の作家によるものとは思えないほどです。

堂本印象美術館は、そんな印象が昭和41年(1966)、75歳のときに、自らの作品を展示するため自宅兼アトリエに隣接して設立した美術館です。京都には数多くのミュージアムが存在しますが、堂本印象美術館のように、個人名を冠し、作家が生前に自らの手で設立したという美術館は他にありません。

堂本印象の没後、美術館は印象生誕100周年を機に京都府に寄付され、現在は京都府立の美術館となっています。

見どころ案内

建物・敷地がまるごと作品!
一歩入ればそこはもう”印象ワールド”。

堂本印象美術館の最大の特徴。それは「全てが堂本印象の作品である」ということです。全てというのは、展示・収蔵されている絵画作品だけではありません。

外壁の浮き彫りも、柱に施されたレリーフも、休憩用に置かれている椅子も、そしてドアノブや階段の手すり、欄間といった細かいところまで、美術館を構成しているありとあらゆるものが、印象自ら設計・デザインしたもの。美術館がまるごと、堂本印象の立体造形となっているのです。
また、印象は建物や造形・装飾などほぼ全てのものに対し、詳細なスケッチや下絵を自ら描いていたそうです。

「日本画では本番前に必ず下絵を描きます。その手順を立体造形にも装飾にも行っているのは、日本画家である印象ならではですね」と当日ご案内頂いた学芸員の山田さんは仰っていました。
印象の美術館設立にかける熱い想いの表れともいえる膨大な数の下絵は、現在も大切に保管されています。

一歩敷地に足を踏み入れれば、そこは既に堂本印象の世界。絵画や工芸といった枠に囚われることのない、自由で果てのない創造のパッションが凝縮されています。


ここに注目!鑑賞ポイント

入口のステンドグラス

入口ホール真ん中には、抽象画風のステンドグラスが展示されています。墨色の線を中心に、金や赤、緑、青など様々な色がちりばめられ、とてもにぎやかな作品です。実はこの作品をよく見ると、折紙やデパートの包装紙なども素材にされています。美術館を訪れた際は、まずこの作品をじっくりと観察してみてはいかがでしょうか。

ちなみに印象は包装紙のデザインを手がけた経験もあり、現在も使用されているお店もあります。

アクリル板のステンドグラス

入口ホール内には他にもステンドグラスがいくつか展示されています。
入口から入って右手にあるステンドグラス「楽園」は、福井県の地方裁判所の正面玄関に実際に置かれているものをそのまま縮小して作ったというミニチュア版。
当時はまだ珍しかったアクリル樹脂をガラスの代わりに使ったというもので、新しい素材にも果敢に挑戦する印象の姿勢が感じられます。

(福井地裁の実物は年月の経過で劣化してしまったため、平成23年にガラスに取り替えられています)

椅子

美術館のあちらこちらには不思議な形の椅子が置かれています。背もたれに施された抽象的な文様や造形は、もちろん印象のデザインによるもので一点ごとに異なっています。どれも自由に座ることができる点もポイント。館内にも外の敷地内にも設置されているので、ぜひ探してみてはいかがでしょうか。

美術館にきらめくシンボルカラー「金」と「墨」

印象の抽象画の特徴には、伸びやかな線とともに金・墨色が多用されている点がよく挙げられますが、美術館のあちこちにはその特徴が見られます。ロビーの壁面や扉には金色のラインや不思議なオブジェがあちこちに埋め込まれていますし、窓にも墨の線を思わせる線状の枠が取り付けられています。

金と墨色は、障壁画などに見られるように、日本では昔からよく用いられてきたいわば伝統的な色です。変幻自在にさまざまな画風の作品を描いた印象ですが、彼はこの金と墨色は生涯一貫して使い続けています。いわば印象のシンボルカラー。印象の作品が確かに日本画に根ざしたものであることを感じさせます。

訪れるたびに違う表情が味わえる展覧会

堂本印象美術館の所蔵品は、調度品の数々も含めると約2,200点に上ります。そのほとんどは、印象が美術館設立のために手元においていた作品と、ご親戚からの寄贈品だそうです。

常設展の形式はとらず、春と秋に開催する特別展を中心に、年5回ほどテーマを定めた展覧会を開催しています。ひとりの作家をメインに展覧会を頻繁に開催することは簡単なことではありません。堂本印象の作品が実にバラエティに富んでおり、様々な視点や切り口からアプローチができるゆえんです。また、時期によっては京都画壇で印象と同時期に活動した作家作品の展示も行われています。

取材時には主に水墨画を中心とした展示が行われていました。別の機会には、全面に色が溢れたカラフルな作品が展示されることもありますし、歴史・人物画や仏画に絞ってみたり、抽象画のみのまるで現代アート展のような展示が行われることもあります。訪れる度に、全く違う表情の「堂本印象」に触れることができるのです。

ちなみに、展示の際に作品とあわせて注目したいのが額縁です。実は絵を収めている額縁も、全て印象がデザインしたものなのだそうです。絵を鑑賞する際には、ぜひ額縁にもご注目ください。

母のための美術館設計

展示室内には随所にスロープが設けられ、無理に階段を上らなくても展示作品を楽しめるように工夫されています。車椅子でも足の悪い方でも無理なく館内を回ることができる、まさにバリアフリー設計です。

この設計は、最近の改修によるものではなく、開館当時のままなのだそうです。
「印象が美術館を構想した当時、印象には高齢の母親がいました。足の悪い母親も作品を楽しめるようにと、設計時から考えていたようです」と山田さん。
堂本印象の生家は造り酒屋を営んでおり、兄弟が多かったこともあり両親は非常に多忙でした。印象が20歳のときに父親が亡くなり、その後は母親が家業をやりくりしながら女手ひとつで子どもたちを育てあげました。そんな母を、印象は生涯大切にしていました。

「美術館の外壁のレリーフには人の顔が刻まれているのですが、これも母親をモデルにしているといわれています」と山田さんは仰っていました。堂本印象美術館は、印象の母への想いを形にしたものでもあるのです。

芸術家の里を一望するサロン

二階の展示室の奥に、もう一つ上階へ続く階段があります。ここを上ると、こじんまりとしたサロンに出ます。東側に設けられた大きな窓からは、周辺を一望することが出来ます。天気の良い日は、比叡山を中心に左大文字から大文字山までのパノラマが眼前に広がります。また、眼下には印象が暮らした邸宅の姿を望むことができます。

新しい表現を追い求めた印象のように。
未来と地域に向けた新たな活動

堂本印象美術館は、2013年の春に一部リニューアルを行ったことを契機に、新しい試みにも取組んでいます。

そのひとつが「現代作家の展覧会開催」。
企画を立ち上げたのは、現在館長を務めている三輪晃久さんです。実は三輪さんは堂本印象の甥にあたり、ご自身も現役の画家として活動されています。そのこともあり「今、京都で頑張っている作家を紹介する機会を作りたい」として、現代作家展を開催することにしたのだそうです。

印象も、京都を拠点に新しい美術の表現を探求し続けた作家です。この企画は“現代の堂本印象たち”に目を向ける機会ともいえるかもしれません。
この他にも、夜間に館内を公開する「夜のミュージアム」や、展示室を会場にしたコンサートイベントなども行われています。
山田さんも、「ジャンルの枠を超えて新しい表現を模索し続けた印象のように、美術館としても新しい試みにチャレンジしていきたいですね。それに、美術館の周辺はもともと、京都の芸術家たちが数多く暮らしていた地域です。その地域性もぜひ今後の活動に生かしていければと思っています」と仰っていました。

実は堂本印象美術館のある衣笠地域は、大正から昭和にかけ、印象をはじめとした日本画家が数多く家やアトリエを構えていた場所でした。それも小野竹僑、木島櫻谷、福田平八郎、山口華楊、村上華岳…など、京都画壇を代表する人物ばかりです。誰かが引っ越した場合も、その家にまた別の芸術家が移り住んでくるなど、いわば「芸術村」の形を成していました。

堂本印象美術館の開館時には近所に暮らしていた印象と親しい画家たちが祝いに集まるなど、交流も盛んだったといいます。現在も当時の名残をとどめており、周辺には邸宅跡のほか、画家のアトリエや絵画教室が多くあるのだそうです。
美術館を訪れた際には周辺にも足を伸ばして、印象の芸術世界と暮らしに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

(取材にあたっては、副館長・入江 錫雄様、学芸員・山田由希代様、及び総務課・山本俊光様に多大なご協力を頂きました。この場を借りて厚く御礼を申し上げます)

京都府立堂本印象美術館

所在地

〒603-8355
京都市北区平野上柳町26-3

開館時間

9:30~17:00(入館は16:30まで)

休館日

月曜日(祝日の場合は開館・翌日代替休)
年末年始(12/28~1/4)
展示替期間

お問い合わせ

TEL:075-463-0007
FAX:075-465-3099

公式サイト

http://insho-domoto.com/

■料金

大人:500円(団体:400円)
高校・大学生:400円(320円)
小・中学生:200円(160円)

■交通のご案内

【京都市バス】
12、15、50、51、55、59系統にて「立命館大学前」下車、すぐ
101、102、204、205系統にて「わら天神前」下車、徒歩5分

【JRバス】
*JR京都駅発・高雄・京北線「立命館大学前経由 周山」行にて「立命館大学前」下車




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