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【レポート】酒井抱一と江戸琳派の全貌(細見美術館)【3】キュレーター・抱一/抱一とその弟子たち

2012/04/17

4月10日より細見美術館にて始まった「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展。
琳派関連作品の展示に定評のある細見美術館ですが、今回の展覧会は千葉市立美術館、姫路市立美術館との3館合同による特別企画展!
いつも以上に盛りだくさんのボリューム&豪華内容の展覧会になっています。
スタッフさんも大変気合の入ったこの展示の様子をでご紹介します!

【1】琳派と出会った大名子息・酒井抱一 はこちら
【2】江戸のマルチアーティスト・抱一 はこちら

光琳をもっと知ってほしい!キュレーター・抱一の奔走

「酒井抱一の最大の功績は、尾形光琳のフィーチャーだったといえます」
と、企画担当の岡野さんはおっしゃっていました。

というのも、尾形光琳は抱一が紹介をするまで、ほぼ忘れられた存在になっていたのです。

光琳に私淑(直接教えられたわけではないが、師として尊敬し学ぶこと)した抱一は、光琳の作品の収集と研究を熱心に行います。それは、絵を描くことだけではなく、落款やサインを年代別に調べていったり、尾形家の家計図を取り寄せてその人となりや略歴を調べたりと、まさに美術の研究者さながらだったそうです。
そしてその調査は光琳だけでなくその前の世代にあたる俵屋宗達や本阿弥光悦らにも及んでいます。

同時に抱一は、光琳の作品を集めた展覧会を開催することを考えます。

「光琳の百年忌に合わせて、光琳の作品を100点集めてお寺に展示して見てもらおう!」

抱一は方々に手を尽くし、自ら作品の借主になって光琳の作品を借り集めに奔走します。
今回の「酒井抱一展」にも、展覧会を開催したいので世話人として手助けしてほしい、急いで江戸まで会いにきてくれないか、と友人の豪商に懇願する抱一の手紙が展示されています。

その思いは報われ、1815年の6月2日、光琳の百回忌の記念法要と遺墨展が開催されました。

抱一は展覧会のために、今まで調べた資料をまとめた本の出版を準備したり、展示品や自分の知っている光琳の作品の縮図をまとめた一種の展覧会図録の作成もしていました。
結局展覧会には間に合わなかったそうですが、後にその図録は「光琳百図」として出版され、ベストセラーになります。

これは日本初の「個人の画集」でもありました。
言ってみれば、抱一は、今でいう展覧会の企画者、学芸員やキュレーターといった人の役目を担ったのですね。
本当にマルチな活動をしていたこと、そしてその情熱がよく伝わってきます。

抱一とその弟子たち

展覧会には、抱一のほかにも、彼の弟子筋にあたる絵師たちの作品も併せて展示されています。
酒井の工房は大変お弟子さんが多く、一時は100名近くの在籍者がいたといいます。

抱一の弟子といえば、一番有名なのは鈴木其一(すずき・きいつ)でしょうか。
最近人気が増してきた彼ですが、抱一に比べ、其一の方がよりグラフィカルで平面的なタッチが強く感じます。

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こちらの作品は、屏風の裏面を飾っていたものだそうですが、「これ、現代の作家の作品ですよ」といってもしっくりきてしまいそう。本当にモダンなデザインになっています。

こちらの右端の「描表具」の技法を使った作品。これは、掛け軸の本来は布を貼っている部分もすべて絵として描いてしまうというもの。隣の通常の掛け軸と見比べると、違いがよくわかりますね。

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雨の中の紫陽花(あじさい)、そして赤とピンクが鮮やかでかわいらしい撫子の花。描かれている鳥は水辺に住む水鶏(くいな)。皆、夏場のモチーフです。全部夏づく しで単体の絵を描くことは少ないそうで、おそらくは春夏秋冬の4枚シリーズだったのでは、とのことです。まるで着物の絵柄のようなデザインからが印象的です。

彼のほかにも、池田弧邨(いけだ・こそん)などの様々な弟子の作品が展示されています。抱一の「江戸琳派」がどのように受け継がれたのか、共通点や違いなどを見比べながら見るとより楽しめるかもしれません。

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特に注目したいのが、こちらの酒井鶯浦(おうほ)の作品。
あまり知られていない彼ですが、抱一が大変大事にした弟子であり、養子です。抱一が亡くなった後には、彼のアトリエだった寺院を受け継いでいます。

彼はもともと寺院の住職だったこともあり、早いうちから仏画を描いていたそうで、この作品も仏画。
小さな画面に、非常に緻密な筆致で丁寧に仏様の姿が描かれています。
しっかりお経の文も描かれており、その技量に驚かされます。
この絵の作業が元で、鶯浦は目を悪くしてしまうほどだったそうで、抱一がそんな弟子を案じる手紙も残されているのだとか。本当にそんな心配をしたくなるほどの細かさ!ぜひ現物を見て確認してみてください。

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最後に、企画担当の岡野さんにお話を伺いました。

「今回の展覧会では、江戸琳派だけでない、酒井抱一のさまざまな面を見てもらいたいと思い、いろいろな作品を集めた構成にしました。細見美術館の所蔵品も琳派のイメージが強いですが、実は抱一の作品は琳派的な作品もたくさんコレクションに含まれているんですよ。
小さな作品、プライベートな作品に素晴らしいものが多いので、ぜひ実物を見に来てください」

ちなみに、岡野さんのお勧め作品は後期(5/2-13)に登場予定の「四季花鳥図巻」。
めくるごとに次々に四季の草花が広がっていき、その中に無視や動物の姿がちりばめられている色鮮やかな絵巻です。
「まるで植物園のようなにぎやかさです。作風も、琳派らしいものもあればとても写実的な筆致のものもあって、抱一らしさの詰まった作品だと思います」
なんとせみの抜け殻まで描いてあるとか。(しかも気合が入りまくりだそう...)
登場が楽しみです!

(取材にご協力いただいた岡野さん、スタッフの皆さん、本当にありがとうございました!)

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【番外編:ミュージアムショップ】

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今回は特設「酒井抱一&琳派コーナー」がミュージアムショップに登場!
絵巻全部をそのままミニチュア化したものなど、ユニークなグッズがそろっています。
一筆箋やクリアファイルの種類も普段よりずっとたくさん取り揃えられていますよ!
また、今回は特別にハードカバーの立派な図録も用意されています。
普段はあまり図録を出すことがない美術館なので、これは大変レアものです。

展覧会の後はぜひこちらもチェック!

展覧会情報

酒井抱一と江戸琳派の全貌(細見美術館)4/10~5/13(三期構成・展示替有)

※ 途中で展示替がございます。ご紹介している作品が展示されていない場合もございますので、あらかじめご確認下さい。

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