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【レポート】酒井抱一と江戸琳派の全貌(細見美術館)【2】江戸のマルチアーティスト・抱一

2012/04/17

4月10日より細見美術館にて始まった「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展。
琳派関連作品の展示に定評のある細見美術館ですが、今回の展覧会は千葉市立美術館、姫路市立美術館との3館合同による特別企画展!
いつも以上に盛りだくさんのボリューム&豪華内容の展覧会になっています。
スタッフさんも大変気合の入ったこの展示の様子をでご紹介します!

【1】琳派と出会った大名子息・酒井抱一 はこちら

江戸のマルチアーティスト・抱一

琳派だけじゃない、抱一の人間像。

尾形光琳の画を熱心に学んだ抱一が、自分のアレンジを加えて生み出した画風は、「江戸琳派」として京都のそれとはまた違った流れとなります。
しかし、「江戸琳派」のイメージが強い抱一ですが、彼は琳派以外にも様々な流派の画を学び、自分の中に取り入れていた「マルチアーティスト」でもありました。

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たとえば、抱一はあまり知られていませんが、仏画も手がけています。37歳で出家した抱一は、その後アトリエと住居を兼ねた小さな寺を持ち、そこで画業に励みます。仏画は抱一にとって大切な仕事のひとつだったことでしょう。
もちろん、抱一らしい、やわらかく繊細な線のタッチは健在です。
そしてもうひとつ特徴的なのは青や緑などの色の鮮やかさ。

「とにかく絵の色が素晴らしくいい。物凄く高価で質のいい絵の具を手に入れていて、それを惜しげもなく使っているんです。これはやはり実家が裕福だった抱一だからこそできること。出家したとはいえ、やはり大名家の出であることは抱一にとって大きなバックボーンになっていたんです」(企画担当・岡野さん)

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そんな装飾的な絵を描いたかと思えば、こんなユーモラスな作品も。
こちらは「吉原月次風俗図」(の一部)。吉原の行事やかかわりの深いものなどを、十二ヶ月分に分けて描いたもので、さらりと勢いあるタッチはなんとも楽しげです。
装飾美あふれる大作も良いですが、ささやかな小品には抱一の人間味があふれています。

「若いころから吉原の遊郭に頻繁に出入りしていた抱一にとって、吉原はとても心地よい、素の自分を出せる場所だったのでしょう。だからこそ生まれた作品といえるかもしれません」(岡野さん)

ちなみに抱一は後に吉原の花魁を身請けして妻としています。当時、花魁と初めとした位の高い遊女は舞や芸事の他にも文芸にも長け、大変に知的な人たちでした。小鶯女史(しょうらんじょし)と名乗った抱一の妻もとてもできた人で、しばしば抱一の絵に書や漢詩を書いて合作をしています。
(その作品も見ることができます)

また、吉原は江戸時代において文化サロン的な役割を果たしていました。抱一も豪商や漢学者、料亭の主人など様々な人と交流しており、その出会いによって生まれた作品も数多く展示されています。
まるで絵巻物のような、雅なやまと絵(平安時代の風俗行事を描いた月次図)は豪商からの注文品。
面白いものとしては、料亭・八百善の出版した料理本にはハマグリやわさびの絵を描いています(この本には抱一のほかにも、葛飾北斎や谷文晁など当時の売れっ子絵師が数多く参加しています)。

抱一の交友関係の広さが伺えます。

「抱一が様々な画風の作品を描くことができたのは、一つの流派に弟子入りというわけではなく、自分の興味のあるものを自由に学ぶことができたからこそでしょう。
江戸琳派、としてのイメージが強い抱一ですが、それだけではない抱一の姿を知ってもらいたいと思います」(岡野さん)

デザイナー・酒井抱一

実は抱一は数多く、デザインの仕事も受けていました。
細見美術館の展示では主に第三室で抱一のデザインによる工芸作品を見ることができます。

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こちらの「蔦梅擬目白蒔絵軸盆」は、知り合いの豪商の注文で作成されたもの。
作品本体のほか、注文票や抱一が描いた下絵も残された、由緒のはっきりとした品です。
「これはもともと、別注の巻物2点の収納用に依頼されたものです。ちゃんと巻物2点分のサイズにぴったりと合うように寸法がとられています。右半分、左半分だけが見える状態でも、絵的に成立するように計算されたデザインになっているんですよ」(岡野さん)

確かに、下絵の真ん中には黒い線が引かれています。左側を隠すと、蔓の絵に。右側を隠しても枝にとまった目白の絵としてしっかりと成立っています。巻物を置いて使うことを前提に、それをうまく利用したデザインになっているんです。巧い!と思わず唸ってしまいます。

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ほかにも、こんな小さなかわいい作品も。これも皆抱一のデザインによるものです。
抱一のデザインによる工芸品、特に漆器類は塗師の原羊遊斎とのコラボレーションで多数製作され、人気を集めたといいます。「抱一デザイン」は江戸において一種のブランドとなっていたのです。
抱一は、絵師としてだけでなく、デザイナーとしての才能も素晴らしかったのがわかります。

<つづく>

展覧会情報

酒井抱一と江戸琳派の全貌(細見美術館)4/10~5/13(三期構成・展示替有)

※ 途中で展示替がございます。ご紹介している作品が展示されていない場合もございますので、あらかじめご確認下さい。

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