Report&Reviewレポート・レビュー

【イベントレポート】萬福寺芸術祭-EN-(2)

2011/01/21

実際の展覧会やイベントの様子をご紹介するレポートコーナー。
先月アートイベント「萬福寺芸術祭」のレポートを掲載したのですが、今回はその補足という形で、参加アーティストさんの作品をもう少しご紹介させて頂きたいと思います。
(本当に大分間が空いてしまって申し訳ありません...!)

flyer_manpukuji-en2.jpg

 萬福寺芸術祭-EN- @黄檗宗大本山萬福寺
(2010/11/26-28)

因みに、以前掲載したイベント全体をプレイバックした感想レポートはこちらから。
「このイベント何?」という方は是非、(1)からご覧下さい!
【イベントレポート】萬福寺芸術祭-EN-(1)

前回はイベント全体の様子をご紹介したのですが、今回は特に、方丈に展示されていた現代アート作品展「EXHIBITION SPACE」から気になったものをピックアップしてご紹介したいと思います。
色々写真も撮影させて頂いていたので、そちらをご紹介したいというのもありますが...
普通の会場とは違う、「文化財のお寺」の中での展示なので、他にはない独特の雰囲気が漂っています。
その感じを、少しでも味わっていただければ幸いです。




nomoto piropiro さん


manpukuji-en13.jpg
大阪出身のフォトグラファー、nomoto piropiroさん。
ご自身で開発したという、特殊なカメラで不思議な「青」の写真を撮影されています。
モチーフはどれもどこか見覚えのあるような日常の風景なのですが、全体がモノトーンがかった「青」で撮影されることで、それがどこか異質な静寂さ・静謐さを醸し出しています。
まるで、その写真の枠の中にだけ、「ここに似た別の世界」が広がっているかのような、そんな感覚を思い起こさせてくれます。

manpukuji-en14.jpg

manpukuji-en15.jpg

会場では、写真は畳の上に直接置いて並べられていました。
会場の扉は開け放たれており、ちょうどそこから外、庭の景色を眺められるようになっていました。
そのため、外の景色がちょうどよく、つるつるとした写真の表面に写りこんでいたのです。
まるで、写真は鏡か、もしくは庭の中にある池の水面のようでした。

どこかにあるようで、でも無いような、不思議な世界。
少し離れて眺めれば、青空や鮮やかな紅葉が。覗き込めば不思議な「青」の世界が。
畳の上の写真の部分だけが切り取られ、別の世界への入口になっているようでした。

通常のギャラリーでの展示では絶対にできない、お寺という会場ならではの演出。nomotoさんの写真と「萬福寺芸術祭」が出会わなければ生まれなかった、「ご縁」の奇跡を強く感じた瞬間でした。感動です!(S)

■ nomoto piropiroさんのホームページ:http://piropiro.jp/
  → 当日展示されていた作品も見られます!


水澤 結衣 さん


manpukuji-en16.jpg
「萬福寺芸術祭」の前に開催されたArtDive#3でも展示(SHAKE ART!EXHIBITION 2010)に参加されていた水澤結衣さん。
水澤さんは、仏教の「禅」の思想、特にそれに基づいた庭である「枯山水」に用いる「石」に興味を持ち、京都にあるあちこちのお寺を巡り、庭の石の写真を撮りためて作品のモチーフとしています。
萬福寺も禅宗に属するお寺。まさに「ハマリ役」です。

展示されていたのは、銀色に輝く鉄板に印刷された、石の大きな写真。
写真を引き伸ばし、何枚もの板を繋ぎ合わせて一枚にした大作です。
ArtDiveの時は蛍光カラーの鮮やかな作品でしたが、今回はモノクロームで落ち着いた感じ。お寺の風情にも違和感無く溶け込んでいました。

manpukuji-en17.jpg
実は作品に使われていたこの石、ちょうど展示場所の方丈の前にある、枯山水の庭(上写真)にある石のひとつなのだそう。ご案内下さった塩谷さん(SHAKE ART!代表)に教えて頂いて、思わず探してしまったのですが...見つけられずじまいでした。残念!

「枯山水の庭」は、禅の思想を庭の形で表現しようとしたもの。すなわち、禅の世界そのものを形にしようとしたものといえます。
禅の思想、悟りとは「無になること」。雑念を払い、無心になることで心が惑わないようにすることが禅の悟りです。無心の、ゆるぎない世界。それは、宇宙にも関係あるとも言われるとか。
また、禅宗では、分かりやすく教えを説くための手段として、しばしば「禅画」が描かれてきたという歴史もあります。
要するに、言葉では説明しにくい禅の教えを、目に見えるビジュアル的な形で表現することを昔から行ってきたのです。

水澤さんの作品、黒の背景の上に浮かぶ石の姿は、宇宙に漂う小惑星のようにも見えます。
禅の教えが、ぎゅっとこの石に凝縮されている。いわば新しい「枯山水」であり、現代の「禅画」のひとつのカタチ。そんな印象をうけました。


■ 水澤結衣さんのホームページ:http://mmmmyy1013.blogspot.com/



森太三 さん

manpukuji-en18.jpg
「京都で遊ぼうART」でもご紹介させて頂いているギャラリー「neutron」所属のインスタレーション・アーティストさん。京都を拠点に活動されているそうです。

manpukuji-en19.jpg
展示場所に足を踏み入れると、そこには畳の上に大量にちらばった丸い粘土の粒!ひとつひとつ綺麗なパステルカラーで色づけがされています(これ、実はひとつひとつ手作りだそう!)
ころんとしたカタチは、川の流れで小さく丸くなっていった河原の小石のようにも見えます。
それがまるで川ののように、帯状に畳の上に這っているのです。川と考えると、一粒一粒が水の粒であるようにも感じられます。

水は一滴も使っていないのに川や水を思い起こさせる。これはまさに「枯山水」!

manpukuji-en20.jpg
また、畳の上に展示しているので、物凄く近くまで寄って見ることも可能。
周りに「これ以上はいらないで下さい」といったような線引きもされていないので、ギリギリまで近寄って、それこそかがんだり、畳の上に転がって(!)見ることもできるんです。
こんな見方、ギャラリーでは絶対できない!

視点を低くすると、川のように見えていた粒の帯は、今度はまるで山脈のようにも見えてきます。帯に高低差がつけられているんですね。
限られた空間に、山の景色を表す。これも枯山水の庭に用いられる表現です。

カラフルな粒たちは、小石で、川の水で、山でもある。
いわば、これも現代の「枯山水」のカタチといえるかもしれません。

ちょうどすぐ横に広がるのは枯山水の庭。建物の外と内で、ふたつの「枯山水」が呼応していました。

■ 森太三さん プロフィール(neutron ホームページ内):http://www.neutron-kyoto.com/gallery/09_03_dm/MORI_TAIZO/statement.htm

三瀬夏之介  さん

manpukuji-en21.jpg
十曲一隻屏風「肘折幻想」


イムラアートギャラリーに所属されている日本画家・三瀬夏之介さん。
通常の距離で鑑賞すると、あらゆる空間から光や、煙や、生命体のようなものが、その余りある力を持って、今にも屏風からぬけ出てきそうなほどに力強く配置してあります。
近距離からみると、作者のもつ独特の創造性で描かれた幻想的で細かな描写が私たちを魅了します。
どこまでも細かく、どこか女性的なタッチで描かれる美しいパーツの集合体に目を奪われました。
抽象的な表現で描かれる作品ではありますが、その緻密さやものの空間配置の正確さが鑑賞者に対して前のめりになってコミュニケーションをとろうとしてくれているような気がします。

manpukuji-en22.jpg

manpukuji-en23.jpg

ところで私は、抽象的な絵画を目にしたときに、その絵画の意図に対してタイトルなどから想像を巡らし、1枚の絵の鑑賞にものすごくエネルギーを使ってしまう事があります。

この作品は、ひとつひとつ描かれた緻密なパーツのなかから好きなものを選んでそこから想像を膨らませることもできますし、
一定の距離を置いて描かれている大きな物体から鑑賞のヒントを得ることもできる―
どんな鑑賞者でも想像力を膨らませやすいテイストの作品であり、私自身、作品の迫力に圧倒されながらも、柔軟な考え方で作品を鑑賞することができました。
彼の作品は抽象絵画と距離を置いている方にも、なんらかの感情を生み出しやすいのではないのでしょうか。(K)

■ 三瀬夏之介さんホームページ:http://www.natsunosuke.com/


高橋あづさ さん


manpukuji-en24.jpg
高橋さんは香川という遠方からこのイベントに参加した女性のイラストレーション作家。
女の子とうさぎをメインモチーフに、ほんわかしたイラストを描かれています。
温かみのある手描きテイストで、見ている方もわくわくしながら背景のストーリーを想像してしまいます。
私たちが話を聞いていると、どこからか小さなこどもがやってきて、高橋さんの作品を興味深々でみつめていました。
こどもも思わずわくわくしてしまうような、ひだまりのようなあかるさが印象的なイラストでした。(K)

■ 高橋あづささんホームページ:http://sky.geocities.jp/rakkaotibana/

鳥人計画 鳥彦 さん


manpukuji-en25.jpg

manpukuji-en26.jpg

以前「京都で遊ぼうART」でもレポートさせていただいた、ArtDive#02、#03にも参加されていた鳥彦さん。
シャープペンシルを使った細やかな質感描写と、鳥人間という独自のキャラクターは一度みたら忘れることができません。
様々な意図やメッセージを含んだ鳥人間は、しっかりと紙の上に存在しつつもどこか情緒的で体温をもったいきものとして私たちの前に向かってきています。

今回はアートフェアの方に作品が展示されていました。
まだ大学生なのに関わらず、東京から京都まで作品発表を行っている鳥彦さんの活躍をみていると身が引き締まる思いです。(K)

■ 鳥人計画/鳥彦さんホームページ:http://magatu.karakasa.com/



このほかにも、様々な作品が展示されていました!
全てを紹介しきれないのが大変申し訳ないです...
実際の展示全体の雰囲気は、前回のレポートでもご紹介しています。
また、公式サイトのスタッフブログにも準備や当日の様子(写真が本当素晴らしいです!夜のお寺の様子とかは必見)、他のアーティストさんの紹介や、ライブステージ出演者さんの紹介も掲載されていますので、気になった方は是非ご覧になってみて下さい。
ツイッターに書き込まれた関連のツイートのまとめも、当日の様子が楽しめて面白いですよ!

京都にありそうでなかった、お寺とアートのがっちりコラボイベント、萬福寺芸術祭。
このご縁にまた出会える日が楽しみです!

関連リンク

萬福寺芸術祭-EN-
公式ホームページ:http://manpukuji-en.moo.jp/
スタッフブログ:http://manpukuji-en.jugem.jp/
ツイッターまとめ(Togetter):http://togetter.com/li/74203

最近の記事