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【レポ】特別展「ゆかた 浴衣 YUKATA すずしさのデザイン、いまむかし」(泉屋博古館)

2021/06/18

yukatayukatarepo (22).jpg泉屋博古館で開催の特別展「ゆかた 浴衣 YUKATA すずしさのデザイン、いまむかし」の展覧会レポートです。

元は2020年夏に開催予定だった展示ですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により延期となり、1年を経て開催となりました。
夏のカジュアルなお洒落着、ファッションとして現在も人気を集めている浴衣は、最も親しまれている和装といえます。
しかし、意外なことに浴衣単体にスポットを当てたまとまった形での展覧会は今まであまり行われていなかったとのこと。今回は、その様子と見どころをご紹介します。

※展示内容は2021年6月4日の取材時の内容に準拠します。来場時期により展示内容が異なっている場合がございますのでご注意ください。


染織の技とデザインが生み出す、和の「すずしさ」

展覧会は、浴衣の誕生と普及の歴史を、デザインの変遷とともに辿ることができる構成となっています。
浴衣のルーツとなった蒸し風呂用の肌着「湯帷子(ゆかたびら)」から、江戸時代に庶民に広がった木綿の浴衣、そして明治以降の近代の浴衣まで、普段はなかなか見られない浴衣をたくさん見ることができます。

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湯帷子は、主に武士などの上流階級の人々が用いていました。それが後に庶民にも広まり、江戸時代・17世紀後半になると、銭湯の普及とともに現在の湯船につかるお風呂が一般的になるにつれて湯上りの涼み着として浴衣が用いられるように。そして銭湯が人々の憩いの場・遊興の場となると皆がファッションを気にするようになり、洒落たデザインの浴衣が増えていきます。また、湯上りの熱さが夏の暑さに通じることから、次第に夏場の外出着として浴衣が展開していったそうです。

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浴衣と普通の着物のデザインにおける大きな違いは「リラックス感」。
湯上りのゆったりした時間や暑い時に着るものだからこそ、かしこまらない遊びのあるデザイン、見た目で心理的な暑さをやわらげるようなデザインが求められたそうです。

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よく見ると、水辺の景色を柄にしたり、雪輪模様の中に鯉を泳がせたり、モチーフの組合せで「涼しい」イメージができるような工夫が感じられます。
「その点を承知して模様を診てもらうと、より理解が深まるでしょう」と、展覧会を監修された長崎巌先生(共立女子大)は仰っていました。

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明治以降~昭和(戦前)の浴衣は、アール・デコなどの影響を受けたデザインはとてもモダンで、100~80年近く前のものとは信じられないくらい。今でも人気が出そうなお洒落なものばかりです。

展覧会では、そんな「ゆかたをつくる流れや技」も紹介しています。

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こちらは浴衣の柄をまとめた見本帳。昔は浴衣は、客が店に出向き、見本帳に載っている様々な柄から好みのものを選んで作ってもらう形式だったようです。いわばオーダー制のカタログ方式ですね。

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紙に型を丁寧に切って模様を表す型染は、その超絶技巧からヨーロッパでは型紙そのものを美術品として集める人がいたほどです。型紙の中でも特に「中型」とよばれるものが浴衣に多く用いられ、繊細な技と浴衣としての遊び心の両面の魅力を持ちます。型染は小紋のように着物の染にも用いられますが、浴衣によく使われる木綿生地と相性が良いことから好んで使われたため、型染を別名「浴衣染め」と呼ぶようになったほどです。

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会場では、特に伊勢型紙にスポットを当て、実際に使われた型紙や、人間国宝の職人さんによる作品、そして型紙作りから布を染めるまでの制作の様子も動画で見ることができます(動画は展示会場近くと休憩室にあり、内容が異なります)

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一方の絞りは、模様となる部分を糸でひとつひとつ絞ることで染め分けて柄を作る技法。型紙に比べるとそこまで細かい表現はできませんが、独特のおおらかさと風合いがあります。大きな柄ほど、絞りの味わいが引き立っているように感じますね。
型紙と絞り、二つの異なる技法の作品を見比べることで、双方の雰囲気の違いや魅力が楽しめます。

他にも、鏑木清方をはじめ有名な日本画家がデザインを手掛けた浴衣も展示されています。当時はしばしば日本画家が着物のデザインをすることはあったそうで、今で言うアーティストコラボ商品といったところでしょうか。

なお、今回の展示は、普段触れる機会の少ない和装の世界にも親しみを持ってほしい、ということもコンセプトにあったとのこと。
知っているようで意外と知らない浴衣の歴史をたどりながら、それを生み出す人たちの丁寧な手仕事、そしてファッションの中に込められた色々な思いが味わえる、そして浴衣が着たくなるこの時期にはぴったりの、涼しさの感じられる展覧会でした。

ちなみに、この展覧会は着物や浴衣など和装で来場した方には「ゆかた割」、そして2度目の来場の方にはリピート割という割引制度があります。
両者は併用できないので、1度目は浴衣を着て、2度目はリピート割を利用するとオトクに楽しめます。
この機会に浴衣を着て、展覧会にお出かけしてみてはいかがでしょうか?


展覧会は7/19まで。(展示内容は前期・後期で入替があります)

■ 特別展「ゆかた 浴衣 YUKATA すずしさのデザイン、いまむかし」https://www.kyotodeasobo.com/art/exhibitions/yukataYUKATA/

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