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【レポ】国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話(京都市京セラ美術館)

2021/04/16

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――ようこそ、古代エジプト神話世界の旅へ。

京都市京セラ美術館で開催の「古代エジプト展 天地創造の神話」の内覧会レポートです。京都市京セラ美術館としては、リニューアル後初となる大規模な海外コレクション品の展覧会。京都市美術館時代から数えても古代エジプト展は45年ぶりと久々の機会です。今回は気になる展示の様子や見どころなどをご紹介します!

※この記事は4/16開催の内覧会の内容をもとにしています。観覧時期により内容が変更となっている場合がございます。予めご了承ください。

※京都府への緊急事態宣言発令に伴い、京都市京セラ美術館が臨時休館となっております。最新情報については公式ホームページ等をご確認ください。


今回展示される品々は、ドイツ・ベルリンにある国立ベルリン博物館群、世界遺産にも指定されている"博物館島"にある「新美術館」に収蔵されるコレクション。ヨーロッパにいくつかあるの世界有数の古代エジプト・コレクションの一角です。

以前にも日本で所蔵品が紹介されたことはありましたが、今回は出品物の大半、100点以上が日本初公開の品で占められています。(初公開の品は解説パネルに初公開マークがついているのでご確認を!)

今回の展示はサブタイトルに「天地創造の神話」とあるように、古代エジプト神話の世界をベースに、ファラオの役割や庶民の文化、死生観や世界観に触れながら作品が紹介されていきます。随所に神話についての解説アニメーションもあるので、あまり古代エジプトを知らない方やお子さんでも楽しく展示を見られるように工夫されています。
解説パネルの文章もコンパクトに抑えられているので、詳しく知りたい方は音声ガイドと合わせて楽しむのがお勧めです。

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入場してすぐに迎えてくれるのは、アヌビス神の像。山犬(ジャッカル)の姿をした神様で、エジプトでは墓場の守り神、ミイラづくりの神様、死者の魂を冥界へ導く案内役とされていました。アニメーションでも彼が登場し、展覧会のガイド役を担ってくれます。

最初はエジプトにおける天地創造、世界がどうやって生まれたのかという物語からはじまり、続いて冥界をつかさどるオシリス神をはじめ、エジプト神話に登場する様々な神々が作品を通じて紹介されています。いわば登場人物・キャラクター紹介パートです。

印象深いのは、動物や虫など生き物の姿をした神様が多いこと。
古代エジプトでは日本の神道と同じく自然に存在するあらゆるものを神様としてあがめていました。猿(マントヒヒ)やワニ、カバ、ライオン、犬や猫、鳥などその姿は様々ですが、エジプトの人々にとってどんな生き物が身近だったのかが伝わってきます。

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こちらは雌ライオンの姿をした女神・セクメトの像。エジプトには野生のライオンが生息しており、ファラオがペットとして飼っていたこともあるなど、よく知られた存在だったようです。外敵から国を守る荒々しい戦神としての姿と、その強さから悪いもの=病を払う癒しの神としての姿の2面性があったそうです。

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可愛らしくお座りをする猫の像は、バステト女神。こちらも元はライオンの姿で表されていたのが、後に猫の姿で表現されるようになったとか。セクメト神と同じく癒しの神様と信じられ、当時から大変人気だったといいます。リアルな造形からも、猫が身近な存在だったことが感じられます。

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続いては古代エジプトを語る上では欠かせない、エジプトの王・ファラオについて。ファラオは神の作った世界の秩序・節理を人間社会で遂行する代表者であり責任者でした。こちらにはエジプトにおけるファラオの捉え方がわかる品々が並びます。

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こちらはハトシェプスト女王の顔をデザインしたスフィンクス(の上半身)。顔は女性ですが、コブラをあしらった頭巾や独特のかたちの付け髭は男性のものに倣っています。ヒエログリフや神話を表した絵をあしらった描かれた柱が飾られているなど、本当にファラオの邸宅や神殿に訪れたかのような雰囲気です。

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ベルリン・エジプトコレクションの特徴でもあるアマルナ時代の作品も紹介。アメンホテプ4世(アクエンアテン/ツタンカーメン王の父)の治世にだけ作られたもので、あまり数を見る機会が少ない貴重なコレクションです。ファラオがそれまでと違う神様を信仰するように文化を改めようとした影響で、それまでと雰囲気の違う、どこかギリシャやローマ美術を思わせる写実性の高い表現の作品が生まれました。神話と文化の密接なかかわりが感じられます。

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そして展示は死後の世界の物語へ。死者に死後に起こること・行うことを記した「死者の書」を横に進みます。

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ミイラが身に着けた装飾品やミイラが収められていた棺がずらりと並ぶ光景は圧巻。まるで海外の美術館に行ったような雰囲気です。

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こちらはミイラに添えられていた様々な護符(お守り)。これに加えて生前の顔を模した煌びやかなマスクやアクセサリーなどの装飾品なども含め、棺に納められていたのです。

古代エジプトでは、死者は死後の世界で神々の審判を受け、通過すれば復活し、幸福な世界で永遠に生きられると考えられていました。そのため、審判を無事通過するための護符が数多く添えられました。さながら受験生の合格祈願のようです。他にも、死後の世界で生活するうえで必要な生活道具やウシャプティと呼ばれる召使たちの人形も収められました。人々の死者の死後の幸せを祈る気持ちが伝わってきます。

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また、護符はやはり神々のモチーフとなった生きものを表現したものが多いところもポイントです。可愛らしい猫の親子もいます!

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そして最後の章では、世界の終わりと再生についての物語が紹介されます。どんなものも必ず終わりが来るということ、でもそれは新しい始まりでもあると古代エジプトの人々は知り、信じていたのでしょう。実は最後の展示品はカタログナンバー「1」、図録においては最初に登場する作品になっています。終わりが始まり、展覧会全体を通じて、そんな古代エジプトの神話が表されているようです。

エジプトと日本は遠く離れていますが、どことなく日本の神話にも通じるような考え方もあったり、親しみが持てる部分も多数あります。神話の世界を歩きながら、古代エジプトの人々の思いに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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ちなみに、展覧会グッズはものすごい数!とても紹介しつくせないほど充実しています。
特にガイド役のアヌビスや、古代エジプトでも人気だった猫の神様パステトのグッズが多数です。エジプト好きは勿論、動物好きな方も要チェックですよ!


国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話(京都市京セラ美術館)4/17~6/27

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