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【レポ】京博のお正月 新春特集展示「辰づくし-干支を愛でる-」+京博名品ギャラリー

2023/12/27

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美術館・博物館の中には、新年明けてすぐにオープンする施設があります。
そのうちのひとつが京都国立博物館。2024年も「京博のお正月」と題し、1/2から新しい展覧会を開催しています。なかでも特集展示は今年は3本立て!新年にぴったりのお正月らしい内容の展示もありますよ。

今回は一足早く、内覧会で取材した展示の様子をご紹介します!

新春特集展示「辰づくし-干支を愛でる-」

kyohaku-repo202401 (2).jpg新春特集展示「辰づくし-干支を愛でる-」(京都国立博物館)展示風景

京都国立博物館の新春恒例となっている特集展示「干支を愛でる」シリーズ。その年の干支にちなんだ生き物をモチーフやテーマにした作品をピックアップして展示しています。

2024年の干支は「辰」、龍です。
意外にも京博で干支の龍をテーマにした展覧会は120年ぶり(!)なのだそう。
今回は日本と中国の美術品から28件(その内重文6件、重美2件)が展示されています。
ちなみに、登場する龍の数は大小合わせて118匹いるそうですよ。

十二支の中で唯一、想像上の生き物である龍。古代中国ではこの世の動物の王でありおめでたいことの前兆に現れる"瑞獣"とされ、それが日本にも伝わり、縁起の良いものとして好んでさまざまな美術工芸品のモチーフにされました。

kyohaku-repo202401(5).jpg新春特集展示「辰づくし-干支を愛でる-」(京都国立博物館)展示風景

今回の展示作品で一番古いものが、最初に登場する古代中国(紀元前5~3世紀)の瓦。他にも青銅の鏡などの模様にも龍が登場しています。
「干支を愛でる」シリーズはお子さんでもわかりやすいようにやさしい解説文が添えられている点が特徴ですが、今回は「展示作品のどこに龍がいるのか」「これは本来どうやって使うものか」も図示されていて、よりイメージしやすくなっています。

kyohaku-repo202401(6).jpg龍袍 金黄地綴織 京都国立博物館蔵

とりわけ目を引く展示作品のひとつが、こちらの色鮮やかな服。
龍はうろこのある生き物のリーダー的存在と考えられたことから、強さや権力の象徴として、皇帝やその血筋の人々の衣服に使われました。自分は龍を纏っている=強い、偉い!ということを示しています。
そのため、中国では龍のモチーフ(特に五本爪のもの)は限られた人にしか使うことを許されませんでした。
そうでない人は、「龍に見えるけど角は牛(斗牛)」など似て非なるモチーフを使うこともあったとか。それに関する展示作品もあるので、龍の親戚はどこが違うのか見比べて楽しめます。

kyohaku-repo202401(7).jpg新春特集展示「辰づくし-干支を愛でる-」(京都国立博物館)展示風景
右:重要文化財《龍虎図屏風》狩野山楽筆 京都・妙心寺蔵

この他にも、龍をあしらった色鮮やかなやきものや、絵画作品が並びます。
絵画については、龍の描き方には「雲間から顔を出す」「虎と組み合わせる」など一定の型があるそう。龍と一緒に描く雲の形にも決まりがあるそうです。絵を見ながら共通のパターンを探してみるのも良いですね。
ここでは京狩野の祖・狩野山楽の《龍虎図屏風》(重文・妙心寺蔵)が登場しています!雲間から顔を出す龍に対し、虎が後ろの豹をかばうように吼えています。昔は豹はメスの虎と考えられていたので、恐らく虎とつがいなのでしょう。

他には龍に助力を頼まれる俵藤太(藤原秀郷)や、思い人の僧侶を想う余り龍に変化してしまうお姫様など、龍が登場する物語を描いた絵巻も。日本では龍が親しみやすいものに見えていたのでしょうか。

この展覧会では、解説文のほかにも宝探しゲーム感覚で展示を楽しめるワークシートもあり、まだ解説文を読むのが難しい小さなお子さんも楽しめる仕掛けがあります。
お正月、冬休みに展覧会デビューするにもぴったりの展覧会です。

修理完成記念 特集展示「泉穴師神社の神像」

kyohaku-repo202401 (4).jpg修理完成記念 特集展示「泉穴師神社の神像」(京都国立博物館)展示風景

1階の彫刻展示室で行われるのが「泉穴師神社の神像」展。
大阪府泉大津市にある、7世紀(平安初期)創建とされる歴史ある神社、泉穴師神社に伝わる神像群の展覧会です。
主に平安~鎌倉時代にかけてつくられたもので、2019年から2022年にかけて修理が行われ、今回修理後初公開となりました。全部で80体ある重文の神像のうち、20体ほどが紹介されています。

kyohaku-repo202401(8).jpg修理完成記念 特集展示「泉穴師神社の神像」(京都国立博物館)展示風景

神像のサイズは大小さまざまで、姿形は中国風だったり平安貴族風だったり、お顔も仏像風から素朴な人形風までバラエティ豊か。恐らくプロの仏師から素人まで、作者はそれぞれ異なるのでしょう。共通しているのはほとんどが男性・女性が1セットの夫婦像であるところ。
もともと泉穴師神社でも社殿の奥に祀られていたそうなので、色々なひとたちがそれぞれに作った/作らせた神像を神社に奉納していったのかも...?想像が膨らみます。

kyohaku-repo202401(13).jpg 修理完成記念 特集展示「泉穴師神社の神像」(京都国立博物館)展示風景

修理によって蘇った、彩色や模様もみどころ。真ん中に展示されている少し大きめの神像はぜひ近づいてじっくりと見てみてください!截金の繊細な装飾がよくわかります。
また、修理後の公開ということで、展示には修理箇所の紹介も添えられています。ほんとうにそこに傷があったのかわからないほどの見事な修理ぶりにもびっくり。職人さんの超絶技巧も味わえますよ。

神像自体が普段あまりまとまった数で展示される機会が少ないものなので、今回展示された神像たちも今後いつ展示できるか不明とのこと。ぜひこの機会に会いに行ってみてください!

特集展示「弥生時代 青銅器の祀り」

kyohaku-repo202401 (1).jpg特集展示「弥生時代 青銅器の祀り」(京都国立博物館)展示風景

もうひとつが、同じく1階の展示室で行われる「弥生時代 青銅の祀り」展。
こちらは京博が所蔵・寄託を受けている青銅器のなかでも、主に弥生時代に作られた銅鐸や武器型のものをピックアップしたもの。銅鐸は18、武器型青銅器は56も展示されています。展示室は1つとコンパクトながら、日本の各地域ごとの青銅器の特色や、時代を経ての変化がわかりやすく紹介されています。

kyohaku-repo202401(12).jpg特集展示「弥生時代 青銅器の祀り」(京都国立博物館)展示風景

元々銅鐸は牛の首に付ける鐘、カウベルとして生まれました。しかし中国大陸から銅鐸が伝わった当時の日本には家畜として牛を飼う文化がなく、銅鐸は儀式で使う楽器、祭祀用の飾り物に用途が変化していきます。すると、見栄えを重視するために段々サイズが大きくなり、装飾も増えていきました。
表面の柄からも流行の変遷がわかるそうで、「袈裟襷」と呼ばれる格子状の文様から、時代を経ると全体が細かな流水紋などで埋め尽くされていきます。これは弥生時代の土器にも見られる装飾だそうで、土器のデザインを銅鐸にも取り入れたんですね。

kyohaku-repo202401(11).jpg特集展示「弥生時代 青銅器の祀り」(京都国立博物館)展示風景

武器型青銅器も、最初の頃は細身でいかにも武器らしい形状だったのが、こちらも時代を経ると見栄えを重視して平たく大きなサイズになり、厚みも失われていきます。
面白いのが、最後に登場する銅矛の柄の部分。青銅器は土で作った型に溶かした青銅を流し固め、最後に土の型を壊して金属を取り出す鋳造の技法で作られます。本来柄の内側は空洞になるように作られるそうですが、その柄の中に土が詰まっているものが...これは中に残った土を取りだす工程を省略していた跡だそう。見栄えを重視した結果、細かい部分のひと手間をやめてしまったのです。昔の人の営みが見えてくる面白いポイントです。

また、展示作品のうち展示室の真ん中奥にある2つの銅鐸は、お寺から寄託されているもの。なぜお寺に銅鐸が?と思いますが、これは江戸時代、銅鐸が仏教を保護したインドの王様・アショーカ王の建てた仏塔と結び付けられ、徳を積むために発見した銅鐸はお寺に収められる傾向があったため。銅鐸と仏教は本来無関係なのですが、思わぬところで文化がつながる面白さが感じられました。


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京都国立博物館 名品ギャラリー(3階 展示室)展示風景

その他にも各展示室で分野ごとにさまざまな作品が展示中。全て名品ギャラリー(平常展示)の観覧料のみでまとめて観覧可能です。
3階の考古展示室では、2024年の大河ドラマでもとりあげられる平安時代にちなみ、大河ドラマの主人公となる紫式部が仕えた中宮彰子ゆかりの品、国宝《金銀鍍宝相華文経箱》(延暦寺蔵)が出品されます。(2/6からは藤原道長ゆかりの国宝《金銅藤原道長経筒》に展示替予定)他にも重文や国宝級の作品が登場していて、見ごたえたっぷりです!

また、3月までの名品ギャラリー(平常展示)期間は毎週金曜日に夜間開館が行われるので、夜にゆっくりと鑑賞することもできます。冬の京都のおでかけに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

新春特集展示「辰づくしー干支を愛でる-」(1/2~2/12)
修理完成記念 特集展示「泉穴師神社の神像」(1/2~2/25)
特集展示「弥生時代 青銅の祀り」(1/2~2/4)

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