Report&Reviewレポート・レビュー

【レポート】泉屋博古館 2025年春 リニューアルオープン!|中国青銅器の時代&リニューアル記念名品展Ⅰ「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」(泉屋博古館)

2025/05/15

sen-oku_renu1_repo(1).jpg

2024年春から約1年間、改修工事のため休館していた泉屋博古館が、2025年春にリニューアルオープン! これを記念した展覧会が2期にわたって開催されます。
今回はその第1期にあたる、リニューアル記念名品展Ⅰ「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」の様子と共に、泉屋博古館の中心的展示である青銅器館の「中国青銅器の世界」展の様子もあわせて、その見どころをご紹介します!

※本記事は2025年4月の取材内容に基づきます。

戦後モダニズム建築の空間美―展示と景色を楽しむ「泉屋八景」

sen-oku_renu1_repo(2).jpg
青銅器館のある1号館ロビーから眺めた庭園と2号館。
大きなガラス窓により、空間がとても広く感じます。

泉屋博古館の建物がつくられたのは1970年、ちょうど昭和の大阪万博が開催された年です。特に青銅器館のある1号館は、戦後モダニズム建築の名作として評価されています。
当初は住友グループが万博に合わせて世界各国から訪れる賓客をもてなすための迎賓館で、お客様にコレクションを見てもらう場所だったのだとか。

しかし竣工から数十年が経ち、その間時勢に合わせ設備改修を繰り返していたため、当初の姿とはだいぶ変わってしまっていました。
そこで2025年の大阪・関西万博を機に行われた今回のリニューアルでは、できるだけ竣工当時の姿に戻すことを念頭に置かれていたそうです。

青銅器館の展示室内やエントランスなど、泉屋博古館の各所にはリニューアルを記念し「泉屋八景」と名付けられた8つのビューポイントが設定されています。

sen-oku_renu1_repo(3).jpg
「泉屋八景」のスポットにはこんな感じでミニカードが設置されています。
リニューアル記念展限定配布なので、お見逃しなく!

青銅器館入口の吹き抜けホール、展示室内から唯一外の景色が見える窓、展示室間の休憩にぴったりの"眺めのいい部屋"、などなど。作品を鑑賞するだけでなく、建物や景色の良さを味わう楽しみ方を提案されています。各所にはスポット紹介のミニカード(持ち帰り可)が設置されているので、宝探し感覚で探して集めても楽しめます。

※「泉屋八景」を巡るギャラリーツアーも開催。詳細は泉屋博古館のホームページをご確認ください。

初心者から玄人さんまで満足。ブロンズギャラリー(青銅器館)でじっくり浸る、中国青銅器の世界

sen-oku_renu1_repo(4).jpg
青銅器館入口の吹抜ホール。
螺旋階段の先にある入口上には、こちらも泉屋博古館誕生時につくられたという扁額が掲げられています。

青銅器館を象徴する吹抜の円形ホール。バリアフリー用に設置されていたエレベーターが移動し、壁面を覆う木の装飾と螺旋階段、床の石の装飾が印象的な建築当初の象徴空間が復元されました。天井から自然光が降り注ぐ空間は、まるで古代遺跡の神殿のよう。神秘的な空気とともに、古代中国への旅へ誘われます。

sen-oku_renu1_repo(5).jpg
青銅器館のギャラリー1は上階から見下ろせます。

なお、リニューアルに合わせて青銅器館の展示構成もリフレッシュ。初めての方にもわかりやすいよう、イントロダクションから徐々に発展していき、自然と中国青銅器に親しめる流れになっています。もちろん、より詳しく知りたい方向けの詳細解説も随所に添えられているので、玄人さんも満足できる内容です。
展示ケースもより作品が見やすいように以前より透明度いものに一新。細部までじっくり眺められますよ。

sen-oku_renu1_repo(6).jpg
《夔神鼓(きじんこ)》は海外に1点と泉屋博古館だけにあるという貴重なもの。
(隣は青銅器館担当の山本学芸員)

最初の部屋、ギャラリー1はイントロダクション。 中国青銅器が作られた約3000年前(日本では縄文時代!)の殷周時代の品々を中心に、コレクションから選りすぐりの代表作を紹介しています。 世界に2つしかないという青銅製の太鼓《夔神鼓(きじんこ)》などが迎えてくれる、大変贅沢な空間です。 中国青銅器は主に鋳造(型に熱した金属を流し入れて冷やし固める手法)で作られており、青銅は当時の道具では彫刻ができなかったため、型作りの時点で細密な文様を施していたそう。現在でも再現が難しい超絶技巧を間近でじっくりと鑑賞できます。

sen-oku_renu1_repo(7).jpg
ギャラリー2の展示風景。こちらは酒に関する品々。
同じ種類や、祭祀での用途にあわせて取り合わせたグループで展示されています。

ギャラリー2では青銅器を種類・用途別に分けて紹介。基本的に青銅器は儀礼・祭祀の際にご先祖や神様をもてなすための道具で、お酒を入れたり食べ物を温めるなどの用途で用いられていました。ここでは人々がどのように青銅器を使っていたのかを想像しながら鑑賞できる構成になっています。

sen-oku_renu1_repo(8).jpg
泉屋博古館ファンにはおなじみの《虎卣(こゆう)》は今回ギャラリー3に。
虎や人の表面のさまざまな文様もじっくり鑑賞できます。

古代青銅器のもう一つの特徴が全体を覆いつくす複雑怪奇な文様。また、動物のかたちをしたものも多く見られます。ギャラリー3ではそんな青銅器にあらわされた文様やモチーフに注目して作品を紹介。そこに込められた人々の思想や信仰に迫ります。泉屋博古館のマスコット?的存在、「虎卣(こゆう)」や「鴟鴞尊(しきょうそん)」はこちらの展示室に登場しています(なお、展示替等のため不在のこともあるのでご注意を)

sen-oku_renu1_repo(9).jpg
ギャラリー4ではこんな立体的な展示も。普段なかなか見られない銅鏡の裏側も確認できます。

時が流れ、秦・漢の時代になると祭祀儀礼用の青銅器は衰退し、代わりに青銅の鏡が多く作られるようになります。それは日本をはじめ周辺国へ輸出され、その土地の文化にも影響を与えました。ギャラリー4ではそんな中国青銅器の東アジア圏への広がりに注目。鏡の他、剣や銅鐸などはここに展示されています。日本と中国の青銅作品を見比べて楽しめるのもポイントです。

企画展示室はボリュームアップ!個人コレクションならではの魅力をじっくりと。

sen-oku_renu1_repo(10).jpg
2号館(企画展示室)の入口は新設されたこちらの扉から。(今までとは逆方向なので注意)

青銅器以外の作品を主に展示する企画展示室。こちらもリニューアルに合わせて展示室が1室増設され、ボリュームアップ!より多くの作品をゆったり余裕のある展示で楽しめるようになりました。

sen-oku_renu1_repo(11).jpg
新設された企画展示室の展示風景。
右奥に見えるのは入口ロビーにある中国・唐時代の巨大な石函の中にあった槨(かく/棺を保護するための外覆い)と舎利棺。
当時の棺桶のミニチュアが入れ子で入っていたそうです。

リニューアルに合わせて開催されている名品展は、第1期では主に紀元前の考古資料から平安時代~江戸時代までを中心とした住友家伝来の品々、第2期では主に15代当主・春翠が青銅器と共に収集していた近代美術のコレクションが展示されます。(本記事では第1期の様子をご紹介します)

sen-oku_renu1_repo(12).jpg
重要文化財にも指定されている、高麗時代の宮廷画家・徐九方の《水月観音像》。
朝鮮半島はその後儒教の国となったため仏教美術はあまり数が残っておらず、貴重な一品。

今回の展示では5つのキーワードを手がかりに、宗教美術や江戸絵画、中国絵画、茶道具など、ジャンルによって作品を分けて紹介しています。
住友コレクションを代表する名品はもちろん、近年の研究によって評価が上がったり、これから注目されそうな学芸員さんイチオシの品も含まれているそうです。

sen-oku_renu1_repo(13).jpg

春~初夏にぴったり、"目白押し"状態のメジロたちが愛らしい伊藤若冲の《海棠目白図》。華やかな花鳥画は住友家ではおもてなしの場に飾るものだったそう。

他にも、国宝《秋野牧牛図》や重要文化財《上畳本三十六歌仙絵切 藤原兼輔》など、泉屋博古館を代表する名品が勢ぞろいし、まさにオールスター展といった印象です。茶道具との取り合わせなど、実際に住友家の人々がどのように日常に美術品を取り入れていたのかを感じられるところも見どころです。

sen-oku_renu1_repo(14).jpg

ユニークなのは「小さきものたち」と名付けられたコーナー。鼻煙壷(嗅ぎ煙草の容器)や香合、刀装具、印材などの小さな工芸品がたくさん並んでいます。蒐集者である春翠が実際に日常で使っていたものも含まれているそうです。

趣味で集められた個人コレクションは、公のコレクションとは一味違ったものに出会えるのが面白いところ。コレクターの好みを想像しながら楽しんでみてはいかがでしょうか。

珍しい&かわいい!中国青銅器グッズも登場

sen-oku_renu1_repo(15).jpg
ついに青銅器がぬいぐるみグッズに!
右の《鴟鴞尊(しきょうそん)》は首が動くポーチ、左の《戈卣(かゆう)》はクッション。
ほぼ実物大サイズで、文様もしっかりプリントで再現されています!

今回のリニューアルにグッズの種類が一気に増えました。なかでも必見が中国青銅器グッズ!
昨今ミュージアムグッズの流行?となっているぬいぐるみも登場しました。人気者の「鴟鴞尊(しきょうそん)」と「戈卣(かゆう)」の"ミミズクコンビ"がこの度フェリシモとのコラボ商品としてぬいぐるみ化。饕餮(とうてつ)文の顔...をあしらったポーチやクリップなども揃っています(青銅器グッズは、青銅器担当の学芸員さんがフェリシモさんにプレゼンをして実現したのだとか)

sen-oku_renu1_repo(16).jpg

他にも、旅行にも便利な虎卣(こゆう)のキャンパスバッグや、青銅器のイラストをパッケージにあしらった泉屋博古館オリジナルのブレンドコーヒーなども。少なくとも中国青銅器のグッズがこんなに種類豊富なのは全国的にも泉屋博古館くらいではないでしょうか。
もちろん絵画作品など他のコレクション由来のグッズも多数。ぜひ来館の際はミュージアムショップのチェックをお忘れなく!


泉屋博古館のリニューアル名品展は、第1期は6/8まで、第2期は6/21からの開催です。青銅器館の展示はその間も通期(一部展示替あり)で行われます。

施設のある鹿ケ谷エリアは、岡崎公園などの観光地も近いのですが自然豊かで静かな環境で、美術品や東山の山並みを借景にした庭を眺めながらのんびりと過ごせます。初めての方もリピーターの方も、この機会にひと時喧騒を忘れに出かけてみてはいかがでしょうか?

リニューアル記念名品展Ⅰ「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」(泉屋博古館/企画展示室)【~2025/6/8】

ブロンズギャラリー 「中国青銅器の時代」(泉屋博古館/青銅器館)【~2025/8/17】

最近の記事