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【レポ】泉屋ビエンナーレ2021 Re-sonation ひびきあう聲(泉屋博古館)

2021/11/26

東山にある泉屋博古館。その代表的なコレクションといえば、世界的にも類を見ない貴重な中国青銅器の数々です。

今から三千年前、古代中国の世界で主に祭事に使われた青銅器は、その精緻な模様や豊かな造形美が東アジアにおける金工の原点となり、後世の鋳金造形に大きな影響を与えたといわれています。

そんな青銅器の魅力をより広く多くの人に伝えたいと以前から活動されてきた泉屋博古館が今回企画されたのが、なんと「現代の作家に古代の青銅器を見てもらい、そこで得たインスピレーションを作品にしてもらう」というもの!中国古代青銅器から連綿と続く、鋳金造形の可能性を広げたい、そんな思いから生まれたという前代未聞のこの企画、いったいどのような作品が生まれたのでしょうか。展示の様子とともに少しご紹介します。

※このレポートは取材時(2021年9月)の内容を基に作成しています。

現代×古代のコラボレーション
――時を超えて゛ひびきあう"青銅器の世界。

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企画に参加されたのは、現代アートシーンの第一線で活躍する9名の作家。皆鋳金を主体に創作活動をされている作家さんですが、中国青銅器と間近に相対するのは初めてという方がほとんどだったそう。勿論、「古代の青銅器からイメージを膨らませて作品を作る」という経験などありません。内覧の際にお話を伺ったどの作家さんも「先に素晴らしい作品がある状態から自分の作品を創作するのはとても難しかった」という反応をされていました。

また、企画者である泉屋博古館側も、そのような作品が寄せられるか見当もつかなかったとのこと。しかし、いざ展示となり集まった作品は、どれも各作家さんが自らの内側で中国青銅器から得たものを昇華して形作られた、個性溢れる素晴らしいものばかりでした。


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展覧会は先に中国青銅器の展示室を通った後、最後の部屋に現代の作家作品が展示されている構成となっています。各作家さんが発想の元にした青銅器もあるので、それを探しながら、またどこからインスピレーションを得たのかを考えながら見ることもできるようになっています。

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先に中国青銅器をじっくりと眺めてから現代作家さんの作品を見て「さっき見たあれに似ている!」と共通点を発見するもよし、逆に現代作家さんの作品を見てから中国青銅器の展示に戻って「ここから発想したのか...」とふむふむするもよし。どちらが後でも先でも(もちろん両方でも)楽しめますよ。


現代作家作品の展示は、青銅器館の一番上のフロアで行われています。

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基本的な制作技法は同じでも作風はとても幅広く、「鋳金ってこんなに色々な表現ができるのか!」と驚かされました。緑青を纏った青銅色だけでなく、金色の光沢があるもの、上から彩色を施してカラフルな色合いにしたものなどさまざまです。古代の青銅器たちの生まれた当初も、こんなに様々な色合いだったのだろうか、と思いを馳せました。

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また、表現も異なれば、古代青銅器からインスピレーションを得たポイントや内容も千差万別です。姿かたちそのものもあれば、紋様だったり、用途や文化であったり、...目に見えるもの、見えないもの、さまざまな青銅器の「聲」を各作家さんがくみ取り、自分達の手で形に変えている。作家さんというフィルタを通すことで、古代青銅器が持っているさまざまな要素が抽出され、浮かび上がってきているように思われました。

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例えば、展覧会のメインビジュアルにもなっている佐治真理子さんの作品《きいてみたいこと~who are you?~》は、中国青銅器ではお馴染みの「饕餮(とうてつ)」文を顔にしたユーモラスな"古代人"トリオです。
佐治さんによれば、青銅器を作った古代の人々に思いを馳せたそう。モノがある以上、それを作った人は必ず存在します。それはどんな人たちだったのか、どんな思いで青銅器を作ったのかを問うてみたい。そんな思いからこの作品が生まれたとのこと。"ひとのかたち"にしたことで、思わず話しかけたくなるような親しみやすさも感じられ、時を超えて古代を生きた人たちがずっと身近になるような作品でした。

各作品の展示位置や取り合わせについては、作家さんにお任せになっていたそう。なかには作家さん同士で作品に共通のものを感じ、あえて一緒に展示されたものもあります。

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こちらの梶浦聖子さん(左)と中西紗和さん(右)の作品。
お二人とも動物をモチーフにした作品であることから、あえて互いの作品の境界がなくなるほどギリギリまで近づけて展示されていました。梶浦さんの作品の近くに、中西さんの作られた小さな動物のオブジェが置かれていて、まるで互いの世界を行き来しているような演出になっています。
古代の青銅器と響き合って生まれた現代の作品が、それ同士でも共鳴している、素敵なコラボレーションです。(なんとお二人は以前からお知り合いだったわけではなく、今回が初対面だったそう!)

梶浦さんの作品《万物層累聖獣盃》はさまざまな青銅器から紋様や形、動物のモチーフなど多彩な要素を抽出しひとつに集めたもの。まるで"ブレーメンの音楽隊"のように高く積みあがった動物たちの姿は、青銅器から溢れ出した彼らが遊んでいるようにも見えます。
一方の中西さんの作品《楽園》は、建物の形をした青銅器から発想し、魔よけの装飾としてあしらわれていた動物たちが、長い時を経て建物が朽ちたことで役目を終え自由になった姿を表しているそう。その中の一匹がこれまで出たことのなかった外の世界に踏み出して...そんな物語が生まれてきそうです。

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現代作家の作品展示室では、各作家さんの紹介も兼ねて旧作も展示されているので、普段の作風も知ることができます。
普段の作品世界と中国青銅器がどのように組み合わされているのかも見どころ。作家さんそれぞれの青銅器に対するアプローチの仕方が、より一層味わえるようになっています。
(図録にはより詳しい作家コメント、インスピレーションを受けた作品なども掲載されています)


re-sonation_repo(17).jpgなお、今回は展覧会グッズも作家さんが担当されています!ポストカードなどはもちろん、展示作品のミニチュア版や鋳金作品など、この展覧会ならではの品が並び、こちらも展示の一部のようになっています。

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展覧会のメインビジュアルにも使われた佐治さんの"古代人"たちはまさにマスコットキャラクターのようです(くつろぎポーズはグッズ版のみ)

泉屋博古館としても今回のような現代美術の展示は初めての試みだったそうですが、今後も青銅の文化や鋳金の魅力を伝える機会として、企画は継続していきたいとのこと。タイトルにも「ビエンナーレ」とあるように、2年に一回のペースで開催を予定されているそうです。今後どんな古代と現代の「ひびきあい」が生まれるのかも楽しみです!

泉屋ビエンナーレ2021 Re-sonation ひびきあう聲(9/11~12/12)

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