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【レポ】特別展「虫めづる日本の美 ―養老孟司×細見コレクション―」(細見美術館)

2022/01/05

mushimeduru_repo (9).JPG優れた日本美術のコレクションで全国的に知られる細見美術館。
そんな細見美術館が、解剖学者・科学者・作家として活躍するあの養老孟司先生とコラボレーションした特別展が、1/30まで開催されています。

その名も「虫めづる日本の美」。

幼いころから昆虫採集に親しみ、無類の昆虫愛好家・昆虫学者としての顔も持つ養老先生に、虫好きの視点で細見美術館のコレクションから展示作品を選んでもらったという展覧会。
養老先生は、京都国際マンガミュージアムで以前館長を務めていたなど、京都に縁のある方。細見美術館の細見理事長とも以前から親しくされていたこともあり、今回の企画が生まれたそうです。

普段のコレクション展とは一味も二味も違う、さもすれば美術の見方も変わってしまいそうな、大変ユニークな展示内容となっていました。


今回はその展示の様子をご紹介します。

※レポートの内容は取材時(2021年11月)の様子を基にしています。時期によって展示替により内容が変更となっている場合がございます。

「虫」を通せば見方も変わる?!美術館で「虫」を探す展覧会。

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まず第一室では、導入も兼ねた特別展示として、養老先生ご自身が作成された昆虫標本と、「虫」をモチーフにした現代美術作家さんの作品が展示されています。

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こちらが養老先生が特にお気に入りで現在分類に勤しまれている「ゾウムシ」の仲間、「ホウセキゾウムシ」の標本。ゾウムシは口元がゾウの鼻のような形をしているユニークな姿の虫で、色も模様も大きさも様々。その名の通り、まるで宝石のようです。

一緒に展示されている現代作家さんは、虫を通じて養老先生と親交をもたれている作家さん。それぞれ異なる表現方法で、奥深い虫たちの世界をアートに落とし込んでいます。それぞれに養老先生の推薦コメントもついています。

例えば⼩檜⼭賢⼆さんの作品は、実際はたった数ミリ・数センチ程度の大きさの虫たちを、高精細の特殊カメラで撮影・スキャンし、大きなパネル写真(全ての部分にピントが合うように画像を絶妙に合成されています)や数十倍に拡大した精密な立体模型を制作されています。

mushimeduru_repo (8).JPGこちらはトビケラという水の中に住んでいるミノムシの仲間が作った蓑状の巣を大きくしたもの。実際は細い草の茎や小さな葉、砂の欠片を材料にしていて、大きさは指でつまめる程度しかありません。拡大すると枝を絶妙なバランスで組み合わせた立体作品のよう。
拡大することで、虫たちのもつ自然の造形美が感じられる作品です。

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こちらは非常に精巧な虫をあしらった茶道具(上:分島徹⼈《おさむしの合子》/下:佐藤正和重孝《マユタテアカネの石製香炉》)翅(はね)の模様や体の微妙な色合いまで表現されています。

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こちらはカブトムシの翅の出し入れを機械で再現された作品。近づくとセンサーで反応し、翅を広げます。狭いスペースでスムーズに出し入れができる虫の翅の折りたたみ方は、その構造が人工衛星など宇宙開発事業にも応用されているそうですよ。

第一室の展示を見ていると、虫の色や造形がとても芸術的なものに感じてきます。


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特別展示で虫の美の世界に触れた後、いよいよ次の第二室以降からは、養老先生の選んだ細見コレクションの作品の数々が登場します。

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最初に展示されていたのは、細見コレクションを代表する伊藤若冲の名品《糸瓜群虫図》。以前から細見美術館の若冲作品といえばこれ!ともいえるお馴染みの作品です。つい虫の姿をじっくりと探し、数えながら見てしまいました。
添えられていた養老先生のコメントを見ると「外部入力が優先すると博物画的になる」とのこと。若冲はとにかく実物を徹底的に観察して描く画家。虫だけでなく糸瓜の葉にもしっかりピントが合い、虫食い穴まで非常にリアル。このまま博物図鑑にも使えそうなレベルです。

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若冲と言えばこちらもお馴染みの《花鳥図押絵貼屏風》。普段はユーモラスな表情の鳥たちに視線が向きますが、ここは敢えてどこかに虫が描かれていないか探してしまいます。

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ちょっと季節外れ?な《祇園祭礼図屏風》も展示されていました。祇園祭×虫といえば、蟷螂山のカマキリ!ちゃんと緑色のカマキリが描かれていましたよ。

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季節の花を描いた屏風にも、よく見ると虫の姿があちこちに描かれています。普段は咲き乱れる草花にばかり目をやっていましたが、今回はつい絵の中に虫を探してしまいます。見つけるとなんだかうれしくなってしまうところ、まるで昆虫採集をしているような気分になってきます。

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展示作品の中でも特にユニークな一品がこちら。なんと虫を擬人化した婚礼行列を描いた絵巻!それぞれの人物に顔はもちろん、着物の模様などもとになった虫の特徴が取り入れられています。

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これは蝶?トンボ?バッタかな?ついつい考えながらじっくりと眺めてしまう作品です。

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姿かたちはないけれど、「虫」が存在しているという作品もあります。
こちらは江戸時代後期の絵師で猿をモチーフとした作品を得意とした森狙仙の《猿図》。母猿が子猿に毛づくろいをしてあげています。毛づくろいは体についた小さな虫などを取り除き毛並みを整えるもの。虫そのものは描かれていなくても、虫がいることを感じられる作品です。

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細見美術館のシンボル的存在である重要文化財《金銅春日神鹿御正体》もあります。こちらも虫そのものの姿は有りませんが、よく見ると葉っぱの一部に虫食いが見つけられます。つまり、虫がいる!
そんな細かいところにも注目される養老先生の視点にも脱帽です。

知識として知ってはいても、改めて「虫」という特定のモチーフに注目して見ていると、こんなにも日本美術には虫がたくさん取り入れられているのだと実感させられました。

今回の展覧会では、改めて虫たちに注目して作品を見ることで、人々が虫たちの美しさや儚さを愛でるその想いをより身近に感じられたように思います。今まで見たことのある作品も養老先生の視点、いわば「虫フィルター」を通すことで見方が変わりより新鮮に味わえる、とても楽しい展覧会でした。


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ちなみに今回ショップも虫ワールド!虫モチーフを主に扱っている現代作家さんの作品を中心に、バッグや手ぬぐい、ブローチなどアクセサリーまでずらりと並んでいます。

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こんなに虫の雑貨が揃う機会もなかなかないのでは。仕入れ担当の方が大変気合を入れてセレクトされたそうなので、虫好きさんはぜひお見逃しなく。


元々日本美術がお好きな方はより新鮮に、そこまで詳しくないけど虫は好き!という方、虫は好きだけど美術館はなかなか行ったことがない...というお子さんも、一緒に楽しめる内容です。
会期も1/30まで延長されたので、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか?

特別展「虫めづる日本の美 ―養老孟司×細見コレクション―」(~1/30)

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