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【レポ】木島櫻谷 四季の金屏風-京都画壇とともに-(泉屋博古館)

2021/10/01

oukoku-kinbyoubu_repo (5).jpg明治~大正・昭和初期にかけ、京都画壇の中心的人物として活躍した木島櫻谷。近年再評価されたことでその知名度が高まっている日本画家です。

住友家が櫻谷に度々作品を注文するなど縁が深かったことから、住友家の美術コレクションを所蔵する泉屋博古館では、以前から櫻谷の遺品管理をしている櫻谷文庫とも協力し、櫻谷の調査や企画展に取り組んできました。

今回の展示は、そんな櫻谷と住友家の縁を伝える作品である「四季屏風」を主役に、櫻谷の他の作品や関連する京都画壇の作家たちの作品を紹介するもの。その様子をレポートにてご紹介します。

※写真は内覧会時に許可を得て撮影したものです(通常は撮影禁止)

金屏風の向こうに見える、邸宅の四季の景色

住友家は元々櫻谷の作品を17点(後に譲渡するなどしたため現在は9点)持っており、多くは注文品だったといいます。注文主は住友家の美術品コレクションの大半を作り上げた十五代春翠。彼は好みのはっきりした人だったようですが、華やかさを讃えつつもどこか儚さのある、抑制された美と装飾性を両立させた櫻谷の画風は気に入っていたようで、積極的に注文・蒐集していたそうです。

第一章では、そんな縁あって住友家、及び泉屋博古館のコレクションとなった櫻谷作品が展示されています。

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展示室に入ってまず目を引くのが、翼を広げた鷲を描いた大きな金屏風《猛鷲波濤図》。こちらは泉屋博古館への寄贈品で、櫻谷がまだ27歳の時の作。若くして才能を発揮し公募展では上位入選の常連だったという彼ですが、勢いある筆遣いに、溢れる才能や若さが感じられます。

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動物画を得意とした櫻谷は、鹿やたぬき、うさぎなど様々な動物たちを描いています(動物園や奈良の公園にも出かけてスケッチをしていたそう)

右奥の《葡萄栗鼠》は櫻谷が年をとってからの作で、ふわふわの栗鼠の姿が愛らしく展示時期にもふさわしい秋らしい一品。何度かこれまでの展覧会でも借用展示をしていたご縁で、2021年に新たに寄贈された作品です。

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一方で対極的なのが《月図》(写真中央)。
夜空にぽかりと浮かんだ月を描いたとてもシンプルな構図の作品ですが、描き込みを極力減らしてあっても決して手抜き感なく、どこか儚い美しさが成立しており、櫻谷の才を感じさせます。
この作品は櫻谷の師・今尾景年の家に伝わったもの。ちょうど向かい合うように今尾景年の作品が展示されている配置が粋でした。

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今尾景年の作品の周囲には、京都画壇の祖といえる円山応挙・呉春らをはじめ、櫻谷の以前~同時期に活躍した画家の作品が展示されています。当時は京都は美術に関わる人が頻繁に交流できる環境にあり、画家が頼まれて建物の襖絵や建具、着物のデザインに携わることもよくありました。櫻谷も呉服商や旧家が多かった室町の界隈で生まれ育ったため、その様子を間近で見ることができる環境にあり、彼の大事なバックグラウンドとなっていたようです。

※展示室の入口付近に、櫻谷の生活環境を紹介した地図もあるので、あわせて見るのがおすすめです!

そして第三章ではいよいよ「四季の金屏風」が登場します。

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この屏風は、大阪は天王寺・茶臼山にあった住友家の本邸用の調度品として櫻谷に注文されたものでした。非常に広い豪邸の座敷用であったため、普通の屏風よりも大きなサイズで作られています。そのため、通常の和室での展示には向かず、後に本邸の土地が大阪市立美術館建設地として寄贈されて本邸が取り壊された後は、倉庫にしまい込まれなかなか展示の機会がなかったのだとか。

注文主である春翠は、この屏風を四季毎に設えと共に入れ替えて楽しんでいたとのこと。つまり四季の屏風を展示する機会は本邸のあった時代にもなかったこと。今回は特別、一年分を一度にまとめて楽しむことができます!

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四季屏風は元々「琳派屏風」と呼ばれていたそうで、櫻谷自身は琳派の描き方を意識していたようです。しかし琳派ほどモチーフをデフォルメしているわけではなく、花や葉の描き込み具合には櫻谷らしい繊細な描写を見ることができます。
また、櫻谷は個人の家というプライベートな空間で使うものであることも考えたのでしょうか、モチーフを多く描き過ぎず適度な間があるため、大画面ながらあまり絵が迫力一辺倒になったりうるさく感じないようになっています。

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背景がシンプルな金無地であることから、かえって奥行が感じられるのも見どころ。しゃがむなどして少し低い位置から斜めに眺めると、視線の奥の方へ草木や枝が伸びているようにも感じられます。
どの方向から見ても絵が景色として成立するような構図になっているのです。櫻谷の空間表現技術の高さがうかがい知れます。

正面から見ると部屋から窓の向こうの池を眺めているような雰囲気に見えたり、近くに寄ると庭を散策しているように感じられたり、どの距離から見ても人の目線がちょうどよくなるように計算されているようです。

このほかにも、櫻谷が残したスケッチ帖など、櫻谷の息吹が伝わる品々も展示されています。
櫻谷は自らが使う日々の道具にも自分の手で絵付けを行っていました。今回、大正時代に京指物の老舗が櫻谷に絵付けを依頼した硯箱が出品されています。普段使いのものに美を添える、彼の美意識が感じられます。

泉屋博古館では木島櫻谷の展覧会を来年以降も開催を予定しているそう。また、今後嵐山の福田美術館など他館でも櫻谷を特集する展覧会が予定されています。今後もぜひ注目していきたいですね。


展覧会は10/24(日)まで。
(併せて同時開催の「泉屋ビエンナーレ2021 Re-sonation ひびきあう聲」「中国青銅器の時代」も観覧できます)

木島櫻谷 四季の金屏風-京都画壇とともに-

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