【レポート】特別展「NIGO®と半泥子」(ZENBI-鍵善良房-)
ストリートカルチャーの第一人者として世界的に活躍するファッションデザイナー、NIGO®(にごー)さん。
近年、NIGO®さんは茶道に深く傾倒し、その流れから自ら茶碗を作るようになり、ここ10年ほどは作陶活動に精力的に取り組んでいます。
そんなNIGO®さんが尊敬してやまないのが、昭和に活躍した陶芸家・川喜田半泥子です。
特定の流派や様式にとらわれない半泥子の型にはまらない作風にNIGO®さんは私淑(直接教えを受けずとも慕い、手本とすること)し、作品の収集にも積極的に取り組んできました。
2026年1月に京都・祇園のZENBI-鍵善良房-で開催されている特別展「NIGO®と半泥子」は、NIGO®さんの作陶10周年を記念し、NIGO®さんが蒐集した半泥子コレクションから厳選した作品と、NIGO®さん自作の茶碗をあわせて紹介する展覧会です。
本記事ではその展示の様子と見どころをご紹介します。
※本展は2026年1月に取材した内容に基づきます。観覧時期によっては展示内容が異なる場合がありますのでご注意ください。

特別展「NIGO®と半泥子」(ZENBI-鍵善良房-)展示風景より
NIGO®さん(左)と川喜田半泥子(右)のポートレート
半泥子とNIGO®さん、二人に共通するのは「元々専門の陶芸家ではない」という点です。
川喜田半泥子は、銀行の頭取を務めながら、50歳を過ぎてから本格的に作陶を始めました。その本気ぶりは自宅の敷地に窯を築き、全国各地の作家に教えを請うほど。作陶には妥協を許さなかったといいます。
しかし、半泥子は自分はあくまで陶芸に関しては「素人」と称しており、自分の作品は身内や知人に譲ったりはするものの、商品として販売することはありませんでした。
自分の陶芸は生業としてのものではなく、好きなものを作っただけの趣味の産物。半泥子は陶芸にそんな矜持を持っていたのです。
そんな半泥子の姿勢、生き方に多大な影響を受けたというNIGO®さん。展覧会のあいさつ文のなかで、NIGO®さんは半泥子を「偉大なる素人」と呼び、自分を「ドシロウト(土素人)」と称しています。
自分の「好き」に真摯に向き合い、自分の手で「好き」を形にする半泥子の「素人の陶芸」を、100年を経て受け継いでいるNIGO®さん。本展は、そんな時を超えた"師弟"の二人展ともいえます。

特別展「NIGO®と半泥子」(ZENBI-鍵善良房-)展示風景より
1階・半泥子作品の展示室の様子。
茶碗だけでなく茶杓や茶入などの茶道具も見られます。もちろん半泥子の手作り。
本展は2025年石水美術館(三重県津市)で開催された展覧会の巡回展となりますが、展示は京都展にあわせて再構成されています。
会場のZENBI1階の展示室には半泥子、2階の途中と手前の展示室にNIGO®さん、そして最奥に再び半泥子の作品という順で展示されています。先に半泥子の作風に触れた後に、NIGO®さんの作品を鑑賞し、その後改めて半泥子の作品を見るという流れです。
また、今回は解説文も充実しており、半泥子の作品には各作品に纏わるエピソードや銘の由来、NIGO®さんの作品には制作時の苦労話や気に入っているポイントが紹介されており、作品ひとつひとつをじっくり楽しめます。

川喜田半泥子 灰釉梅文茶碗 銘 寒中梅 千歳山窯
半泥子は桃山時代の古陶を愛好しており、なかでも好きだった作家の一人が尾形乾山。こちらはその乾山を意識した梅文入りの一椀。
解説には親交の深かった方への喜寿祝いだったというエピソードが。
半泥子の作品は、井戸手、織部、楽焼、粉引、三島手など、焼物の表現スタイルは実にさまざま。形も歪んでいたり、敢えて釉薬に指跡を残して景色にしたりとまさに自由奔放。銘の付け方もダジャレ混じりだったり、ユーモアたっぷりなところも特徴です。

川喜田半泥子 粉引手茶碗 銘 餘露(よろ)千歳山窯
よく見ると、左側の腰(高台と茶碗の境目)部分に瘤(こぶ)があります。
例えば、こちらは土の中の空気が抜けていないまま焼成したため、瘤ができてしまった茶碗。半泥子はこれに「よろ」と銘をつけました。茶碗の名前「よろ」+「瘤(こぶ)」で「よろこぶ」!失敗も面白みに変えてしまうセンスが何とも洒落ています。

特別展「NIGO®と半泥子」(ZENBI-鍵善良房-)展示風景より
2階・半泥子の展示室の様子。
干し柿を描いた掛軸は、表装部分も手描きの「描表具」。
ゆるくも迷いのない筆致も印象的です。
また、併せて展示されている半泥子の書画作品も見どころです。ゆるい筆致が何とも愛らしく、陶芸作品とよく馴染みます。

特別展「NIGO®と半泥子」(ZENBI-鍵善良房-)展示風景より
2階・NIGO®さんの作品の展示室の様子。
一方のNIGO®さんの作品。半泥子に私淑するNIGO®さんも、指の跡を表情に生かしたり、偶然生まれた歪みや釉薬の偏りなども景色ととらえるなど、半泥子イズムの継承意識が随所に感じられます。

NIGO® 割高台茶碗 銘 三蔵法師 不東庵(神奈川県)
割高台(高台に溝を彫ったもの)を馬の蹄に、茶碗の金継ぎを馬に乗る三蔵法師に見立てて名付けられた茶碗。
元首相で現在は陶芸家として活動する細川護熙氏の窯・不東庵にて焼成したもの。
NIGO®さんの作陶スタイルの特徴は、全国各地の窯への「出稽古」。半泥子や彼と親交のあった作家ゆかりの地を中心に各地を訪ね、そこの窯で技術指導を受けながら制作を行われています。
これは半泥子が各地の作家に教えを請うたことに倣ったものですが、半泥子は基本的に自身の窯で焼成を行っていたのに対し、NIGO®さんは自身の窯は持たず、訪ねた先の土や釉薬を用い、それぞれの窯で作品を仕上げています。そのため制作窯は作品によって異なっています。

NIGO® 片身替茶碗 銘 偕老 仙鶴窯(旧廣永窯・三重県)
半泥子作品の写しとしてNIGO®さんが作った茶碗。
半泥子がかつて使った土、窯で焼くという私淑の想いが詰まった一碗。
例えばこちらは、かつて半泥子が使用していた「廣永窯(三重県)」を、半泥子の孫弟子にあたる現代の陶芸家が継承した「仙鶴窯」で焼かれた作品。半泥子の代表作である《片身替茶碗》をNIGO®さんが写したもので、半分は半泥子も使った廣永の土を使っているそうです。
また、NIGO®さんは京都に茶室をお持ちの関係で親しくされている樂家の窯を使った作品もあります。
さまざまな窯の特徴や、そこで学んだ技術や記憶も内包されたNIGO®さんの作品は、彼の作陶の旅の記録のようでもあります。

2階にはNIGO®さんの作陶風景を紹介した映像上映も。
なお、展示品は前後期で総入れ替えとなります。
NIGO®さんの作品はもちろん、半泥子の作品も関西ではまとまった数を一度に見られる機会は少ないので、陶芸ファンはぜひ一度訪れてほしい展覧会です。
また、併設のカフェ「ZEN CAFE」では実際にNIGO®さんの茶碗で茶を味わえる企画も開催。
日程や数に限りがあるので、興味のある方はお早めに会場までお問い合わせください。
特別展「NIGO®と半泥子」
会期:2026/1/17~4/12(前期:1/17~3/1、後期:3/4~4/12)
会場:ZENBI-鍵善良房- KAGIZEN ART MUSEUM
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