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【レポ】お寺でアートを眺める「間」の時間―間を抜く、或いは

2021/03/26

flyer_mawonuku.jpg「間を抜く、或いは」不思議なタイトルのこの展示は、様々なジャンルの5名の若手アーティストが集い、通常は非公開の禅寺・両足院を会場に作品を展示する企画展です。

こちらのプレスレビューに足を運ばせていただきましたので、その様子をご紹介いたします。


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今回の参加アーティスト5名は両足院で実際に座禅会を体験し、副住職の伊藤東凌さんによる禅についての説法を受けた上で、その際に得たインスピレーションを今回の展示作品として形にしているそうです。

展覧会の不思議なタイトルも、禅についてのお話から生まれたものだとのこと。

禅には「無」という象徴的な考えがあります。ここでいう「無」とは、何も考えない・心を空っぽにするということではなく、内と外、自分と他といった境界線を「無くす」ということ。

私たちの生活には、何かをしている時間とそうではない「隙間」の時間が存在します。これまではこの「隙間」を有効活用する、ということが言われていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で外出自粛や在宅勤務・授業などが増え、逆に「隙間」をどうやって確保するかの方が叫ばれるようになっています。

そこで今回の展覧会では「会場の中では「隙間」を思考から抜き、ただじっくりと作品に向き合う」という時間を過ごしてほしい、という意味で「間を抜く」タイトルにしたとのこと。でも、お寺を訪れたり、アートを見るために時間を使うことも結局「隙間」を埋めることでは?その矛盾を「或(あるい)は」という語尾に込めているそうです。

確かにのんびりとアート作品やお寺の景色を見ているときは、他のことはあれこれと考えなかったりします。それは確かに「間」を抜いているのかも...?


作品の展示場所は、実際に建物内を見た上で自分の作品の傾向やイメージに合う場所を自ら選んで決められたとのこと。通常のホワイトボックスのギャラリーとは異なり、自然光で作品を見ることになりますが、その分その日の天気や訪れた時間によって見え方が変化し、伝統的な和建築ならではの空気感とあわせて作品を味わうことができます。

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お寺の中心的スペースの方丈には、吉見紫彩さんの作品が。襖の間から見え隠れする屏風やパネルは、ふんわりとした色遣いやタッチも相まって、なんだか絵巻の霞や雲の様な味わいを感じます。自然光の差し込み方で明るさも変わるため、近くで見た時と遠くから見た時で印象も違う気がします。

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20210318_164323.jpgこちらは日本画家の高畑彩佳さんの作品。お寺の中を見て回った際に、坪庭にある手水に水が滴る音が聞こえるこの場所が気に入ったそうで、作品を置かれています。少し暗いスペースですが、箔を用いた作品は自然光でほんのりと光り、状況により見え方が変化します。他の作品も見る角度や時間で印象が変わるので、色々なところから眺めたくなります。

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こちらは陶芸家の野田ジャスミンさんの作品。蓮の花の形のオブジェクトが均等に畳の上に並べられています。蓮はタイにルーツを持つ野田さんにとって象徴的なモチーフなのだそう。全て同じ型・同じ釉薬を用いて作られたそうですが、火の温度やかかった釉薬の濃さなどで色が乳白色から薄青色まで変化し、ひとつとして同じものは有りません。展示場所が庭に面した広間でもあり、ひとつひとつが座禅している人の姿のようにも感じられました。

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茶室には画家の品川亮さんの桜の掛軸が。木の下から桜の花を見上げた視点を想定した形で描かれています。躙り口から入って中を覗くと、ちょうど下から桜を見上げているような、花見の構図が楽しめるようになっています。琳派などの表現に影響を受けているそうですが、窓からほんのり差し込む自然光を背景の箔が柔らかく反射する様は、当時の絵の眺め方を今によみがえらせているようです。

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もうひとつの茶室は...なんと白石を敷き詰めた庭園になっていました!こちらは彫刻家の大東真也さんの作品。ガラス瓶は針金でぶら下げた状態で熱を加えて変形させたそうで、有機的な形は何かの植物か生き物のよう。目の前が池のある回遊式庭園なので、まるで対になっているようにも感じました。


お寺の空間とのコラボレーションとして味わうもよし、作品それぞれをじっくりと眺めるもよし。好きなように「間」を過ごすことができる、もしくは「間」を忘れることができる展示でした。

※両足院は通常非公開です(会期中のみ公開)
※この展覧会は前後期制、入場は1時間毎に定員を定めた予約優先制となっています。来場希望の方はできるだけ事前のご予約をお勧めいたします。

■ 「間を抜く、或いは」→ 詳細はこちら

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