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【レポート】中立点|In-Between―第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示帰国展(京都市京セラ美術館)

2026/02/19

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「中立点|In-Between」展 の会場
京都市京セラ美術館 桜水館

1/24から、京都市京セラ美術館で開催されている「中立点|In-Between―第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示帰国展」。
2025年5月~11月にかけて行われたヴェネチア・ビエンナーレ日本館で発表された展示を日本で紹介するもので、これまで東京で開催されていた帰国展としては初の京都開催となります。

本記事では、その見どころや展示の様子を、プレス発表・内覧会での取材内容をもとにご紹介します。

生成AIを起点に考える、日本館展示のコンセプト

2025年の第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展のテーマは「知性(Intelligens)」。地球規模で発生しているさまざまな問題、特に環境危機に対して、人類はどのように対処していくべきか、が込められたテーマとなっていました。特にヴェネチアは、毎年のように高潮に襲われるなど、環境問題の最前線にある都市です。

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「中立点|In-Between」展 記者発表(2026/1/23)より
キュレーションを担当された
青木淳氏(京都市京セラ美術館館長/中央)、家村珠代氏(多摩美術大学教授/右)

こうした背景を踏まえ、日本館のキュレーションを担当した青木淳氏・家村珠代氏は「地球規模の問題は、人間のマインドセットから変えていく必要がある」と考えました。そして「未来に向けた新たな知性」の象徴として、昨今技術発展の著しい「生成AI」に着目します。
「生成AIが仲立ちとなり、人間と非人間、環境との『あいだ』に開かれた対話が可能となった場」―そのような未来像を設定したうえで、2組のアーティストによって相互補完的なインスタレーションが展開されました。

ひとつは、藤倉麻子氏+大村高広氏による映像インスタレーション。ヴェネチア・ビエンナーレ日本館を構成する庭の木や壁柱などの要素が、生成AIを介して人間と「対話」するという設定がなされています。
もうひとつは、建築家/アーティストのユニット〈SUNAKI〉による空間インスタレーション。ヴェネチア日本館の空間を構成する「穴」や「動線」といった、不可視の要素を光やオブジェなどを補助線として可視化するというものでした。

なぜ、京都展会場・桜水館が選ばれたか

京都展の会場は、京都市京セラ美術館の敷地内に建つ「桜水館」。1933年に竣工し、京都市美術館の事務所棟として使用された建物で、現在は改装工事中となっています。
この「工事中の建物」という点が、ヴェネチアでの展示文脈を京都に持ち込む上で重要だったとのこと。

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「中立点|In-Between」展 記者発表(2026/1/23)時に紹介された
ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館の展示風景

ヴェネチア・ビエンナーレ日本館は、天井から床へ吹き抜ける「穴」があり、建物を支える柱と壁が一体化した特殊な構造の建築。展示作品はその環境を前提に設計された作品であったため、一般的な美術館の展示室――構成要素をそぎ落としたホワイトキューブの空間では展示が成立しません。

一方、桜水館の建物は内装が解体され、構造体である柱や壁はむき出し。いわば構成要素にあふれた空間であり、さらに周辺は緑に囲まれています。こうした点がヴェネチア日本館の「穴」あり方と共通していることから、ヴェネチアでの展示の文脈を移植できる、と考えられたそうです。
そのうえで本展は、桜水館の空間に作品を寄せる形で再構成されたものとなっています。

なお、キュレーションを担当した青木淳氏は、京都市京セラ美術館の現館長。このご縁もあり、今回の京都開催が実現しました。

建物と人間の対話――AIが翻訳する「建築の声」

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「中立点|In-Between」展 2階 展示風景

2階では、「AIの力を借りて人間と非人間との対話が成立し得る、少し先の未来」という設定に基づき、ヴェネチア・ビエンナーレ日本館を構成する要素と人間の「対話」が展開されます。

2つのスクリーンには、一方に10代から90代まで幅広い年代の人間たちが登場し、もう一方には対話で発せられた言葉を色彩や構図、動きといった映像的要素へ翻訳することで構築された、フィクショナルな3DCG風景が流れます。

ストーリーは、日本館の吹き抜け「穴」が自分の存在意義に疑問を抱き、「自分は必要なのか?」と問いかけるというもの。それに対し、壁柱や屋外のオブジェ、庭の木といった建物の各部、そして人間が、それぞれの立場から意見を述べていきます。

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「中立点|In-Between」展 2階 展示風景

非人間の応答が、私たちが額面通りには受け取れない言葉やイメージへと翻訳されることで、人間が認知していない意思が世界に存在していることが示唆されます。ここでのAIは、そんな人の認知と非認知の間をつなぐ存在として機能することが想定されています。
対話を通じて、静的な存在だった「穴」は、4つの壁柱と連動する「回転軸」として捉え直され、最終的に内と外、現実と虚構、人工と自然といった、二項対立を交通させる存在として位置づけられます。

距離を超えてヴェネチアを「想像」する空間インスタレーション

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「中立点|In-Between」展 1階 展示風景

1階には、金属の弧のような作品が展示されています。
これはヴェネチアで建物の周辺を囲む「動線」を表現したリングを、宇宙から見た視点で平行移動させたという想定。地球は球体であるため、ヴェネチアで展示した時よりも角度が付き、極端に斜めになっているといいます。
このオブジェは、鑑賞者にヴェネチアの位置を想像させることで物理的なイメージの跳躍を促します。

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「中立点|In-Between」展 1階 展示風景

一方、地面にはiPhoneが埋め込まれています。
これは2階の映像インスタレーションで行われている対話と同期して、7つの建築要素のAIによる対話が、リアルタイムで生成され、画面上に表示されています。現実で私たちがお喋りをしているように、AI同士が日本館についてweb上で対話をしています。
ヴェネチア・ビエンナーレの開催中には、最終的に2万パターン以上もの対話が生成されたそうです。

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「中立点|In-Between」展 1階 展示風景
ヴェネツィア・ビエンナーレでの展示紹介映像

さらに、ヴェネチア・ビエンナーレでの展示の様子を紹介する映像も流れており、一階は疑似的にヴェネチアと日本を接続した空間となっています。

京都からヴェネチアの地そのものを視認することはできません。しかし、展示を補助線にすることで、鑑賞者の意識や想像はヴェネチアへつながる。一階の空間インスタレーションはそんな役割を果たしています。

世界をつなぐ「間」――「中立点」としてのAI

「In-Between|中立点」というタイトルについて、キュレーション担当の青木氏は、記者発表の際に「日本文化における「間」の概念から発想した」と語られていました。
バラバラな状態のままでも、何らかの方法で一体化する可能性がある状態を「間(Between)」と捉えられるのではないか。それがあってこそ、異なるもの同士がつながることができるのではないか、と。

環境破壊、経済の不均衡、戦争、パンデミック...地球規模の問題は数多く存在しますが、それに対する姿勢も状況も国ごとに異なります。ましてや、個々の人間が認識できる範囲も本当にごくわずかであり、普段の生活のなかで違う国や世界に目を向ける機会は多くありません。
本展「In-Between|中立点」で提示された「AI」は、そうした個々人の目の前にある世界と、認知できない遠い世界の仲介する存在として位置付けられています。

聞こえない建物の声に耳を傾け、遠い異国の地に想いを馳せること。それは認知の外側にあるものを「自分事」に捉え直す行為でもあります。それが、分断された世界をつなぎ、諸問題に変化をもたらすきっかけになるのかもしれません。

ヴェネチア・ビエンナーレ日本館の展示を、京都という場で体験し直す本展。建築や環境に耳を傾け、遠い土地を想像するという体験は、私たち自身の認知の枠組みを問い直す機会を与えてくれることでしょう。

展示は3/1まで。
ほぼ屋外かつ改装工事中の空間での展示となるため、来場の際は歩きやすい靴で、防寒対策の上でお出かけください。

中立点|In-Between
―第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示帰国展

会期:2026/1/24~3/1
会場:京都市京セラ美術館 桜水館
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