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【レポ】千總本店 展示スペース&千總ギャラリー「白-はじまりの色ー」展

2020/09/15

2019年秋から本店の大幅リニューアル工事のため休館していた千總ギャラリーが、2020年8月に晴れて再オープンとなりました!
ギャラリー風の販売スペースも備えた本店の様子と併せて、再開最初の展覧会「白-はじまりの色-」をご紹介します。

※このレポートの内容は2020年8月の取材時のものを基にしております。時期により内容が変更となる場合がございます。

千總本店 展示スペース

chisorenu_2.jpg1階は、今回のリニューアルにより千總本店として生まれ変わりました。

千總は460年以上続く、京友禅の老舗です。ブランドのオリジナルの着物を図案のデザインから手掛け、制作・発表し続けています。
しかし意外なことに、これまで新作の作品を一般の方に直接販売・展示をする場所や機会はあまりなかったのだそう。

そこで今回は建築家・田根剛さんのデザインにより、着物などのオリジナル商品を常設で展示販売できるフラッグシップストアをオープンされました。

今回の陳列は「鏡花水月」をテーマとして、その時々の季節をイメージした作品が並んでいます。

広げて展示された着物は、まるで一枚の絵のよう。まさに「着られるアート」です。伝統的なデザインを抑えながらも現代的なもの、抽象画を思わせる現代アートのようなものまで様々。間近で見ることができるので、刺繍や細かい友禅染の描写、金彩といった技法もじっくりと鑑賞できます。

chisorenu_4.jpg表裏から見ることができるように空間の中心にも着物が吊り下げる形式で展示されているのですが、空間インスタレーションのような雰囲気も感じられます。

伝統工芸と聞くとなんだか過去のもの、古いもののイメージを抱きがちですが、現在進行形で続いている存在なのだと実感できる空間でした。

展示商品は時期によって変わるので、訪れる度に新しい出会いができそうです。売り物ではありますがもちろん見るだけでも楽しめるので、2階のギャラリーと併せて覗いてみてはいかがでしょうか?

千總ギャラリー「はじまりの白」

chisorenu_5.jpgリニューアル後最初の展覧会のタイトルは「はじまりの白」。新たなスタートということで"まっさらな状態"で歩みを始める様になぞらえた「白」テーマにした展示となっています。

chisorenu_6.jpg展示室前のスペースは以前はショップでしたが、リニューアル後はこちらも展示エリアに。今回は本店のリニューアルデザインを手掛けた建築家・田根剛さんディレクションによる「白の研究」と称したコーナーが展開しています。

「白」という言葉には単なる色の意味だけでなく、「無垢」「清純」「潔白」など様々な意味が内包されています。そんな「白」に世界の人々が抱くイメージを多彩な角度から考えるという趣向です。

chisorenu_7.jpg例えば絹を生む蚕の繭。野生の蚕の繭は緑やオレンジなど様々な色で、絹糸にする段階で色はだいぶ落ちてしまうものの、「真っ白」にはなりません。そのため人々は何とかより「白い」絹糸を求めて蚕を品種改良しました。人々の「白」に対する強い想いを感じます。

他にも、世界の婚礼衣装に用いられる「白」や、世界各国の「白」という言葉が持つ意味、何も色がついていない故に形を際立たせる「白」、素材によって異なった風合いを持つ「白」...白、というものの奥深さが感じられる展示となっていました。

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そして展示室では、千總コレクションからの「白」をテーマに選ばれた展示品が紹介されています。
婚礼衣装や赤ちゃんの産着の「白」は「無垢」と「新しい始まり」の意。そこに富や幸運を示す宝尽くしや、永遠性を象徴する波紋様、夫婦和合を意味する鶴などの紋様が加わり、人々が着物に込めた思いが伝わってきます。

日本画家が手掛けた図案や下絵も展示されています。こちらは「白紙から作品が生まれる」過程を示したもの。どんな大作も最初は白紙。ものづくりの原点にある「白」に目を向けた、作り手ならではの展示です。

例えば写真左奥は、京都を拠点に活動した日本画家・今尾景年の作品。寺院の装飾用懸物として制作されたものです。図案下絵なので少しラフな筆致で描かれた鶴の描写は躍動感たっぷり。実際に布に写す際などに線画がわかりやすいように、色乗せは一部に留められています。よく見ると「朱」「墨」といったどこに何色を置くかの支持書きがされています。制作の過程がわかる、下絵ならではの見どころです。

千總では、明治大正期を中心に、京都の日本画家たちに図案制作や指導を依頼していました。制作された図案下絵はラフスケッチの段階から大切に保管しており、その後の職人たちの手本としてきたといいます。併せて展示されている岸竹堂の「虎と鷲図」は、ラフの段階から出来上がりまでの下絵を順に見ることができ、変化の過程がよくわかります。他ではなかなか見られない一品です。


新しい千總ギャラリーは、リニューアルオープンした千總本展の中に位置し、1階の本店で最新作を、2階ではそのベースとなる歴史や着物の文化と、今と昔に同時に触れられる空間となっていました。これも長きにわたってものづくりに携わってきた会社ならでは。今後どのような展開をされていくか、とても楽しみです!

千總ギャラリーについてはこちら

「白-はじまりの色-」展についてはこちら(開催期間:8/23~11/23)

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