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アートを支えるひとたちのことば。ART STAFF INTERVIEW-ZIPANGU展 1 SUEO-MIZUMA

2011/10/05

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アートを支えるひとたちのことば。
ART STAFF INTERVIEW
"ZIPANGU展" Vol.1
SUEO-MIZUMA(三潴末雄/展覧会キュレーター)

髙島屋京都店で9月28日より開催されている「ZIPANGU/ジパング展」。
今回、展覧会を主催されたギャラリストさんお二人に、お話をお伺いしました。
まずは、ZIPANGU展の出展作家の選定などを担当された、
キュレーターの三潴末雄さん(ミヅマアートギャラリー)のインタビューをお送りします。


日本の文化の「遠い昔からのDNA」を持っている作家たちの作品。
これを集めた展覧会をずっとやりたいと考えていた。


実際にZIPANGU展の企画を暖めていたのはもう何年も前からの話なんだけれども...
自分の今までやってきた...ミヅマアートギャラリーの周りに集まっている作家は、現代アートの中にある日本の文化の、遠い昔からのDNAを持っています。それは決して「伝統の継承者」とかいうことではなくて、例えば「縄文のエネルギー」(※)とかいう、日本の文化と創造のエネルギーをきちっと身につけている作家たちなんです。
しかし残念ながら、そういう作家の作品は外国からは「エキゾチックなもの」として捉えられるし、逆に日本国内では「コンテンポラリーアートなのか」と、割と"まま子"みたいに扱われています。そうではない、作品に対するもっと正当な評価をしてもらいたいと思っていました。
それにこうした作家はうちだけじゃなくて他のギャラリーにもいるので、こうした作品を集めた展覧会をやりたいな、ということをずっと考えていたんです。
それがたまたま2年くらい前に井村くん(企画ディレクター/imura art gallery)との間で具体的に動き出しました。

僕自身は今回展覧会の「思想」的なこと―日本という国が、文化、アートがどのような形で発信していけるかについていつも考え、活動してきたわけなので、そのひとつの流れの中で展覧会を組織化する役割をしてました。作家選びとかね。そのコンセプトや基準は、最初にお話した通りです。

※日本の近現代美術を代表するアーティスト・岡本太郎が縄文時代の火炎土器に深く感銘を受けたエピソードより。岡本太郎は上野の東京国立博物館で出会った縄文時代の火炎土器に感動し「思わず叫びたくなる凄み」と翌年「縄文土器論」(1952)に書き残している。


単なる「伝統」ではなくて、「日本」という文化のDNAを持っているすばらしい作家たちがいることを知ってもらいたい。
展覧会はそれを「発信」し、多くの人に見てもらわなければならない。


展覧会を作ることと、ギャラリーを運営していくことは基本的に同じなんです。
どういうことかというと、ギャラリーというのはスペースがあって、作家の展覧会を開催すればいい、というわけではない。やっぱり「才能」との出会いがあって、その「才能」を世界に強く紹介していきたい。作家もギャラリストも、同じ船に乗って世界に旅立つ「運命共同体」ですね。

今度は自分のギャラリーだけじゃなく、多くの日本の中にいる「才能」を集めた展覧会を開催して、より多くの方々に見てもらえれば、と強く希望するようになったのです。選んだ作家たちは何か、「和的」だとか「日本的」だという一面的な見方で切り捨てられていたわけです。そうではなくて、単なる「伝統」というものではなくて、もっと深い深い、「日本」という文化のDNAを持っている人を、もっときちんと取り上げて見せたいと思っています。ここが一番重要なんです。

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展覧会とはそういう意味で、「発信」しなければならない。多くの人たちに見てもらわなきゃならないものです。多くの人たち―僕は最初は日本の津々浦々、その後はアジア、そして世界を意識している。
私が選んだアーティストたちの展覧会、これだけが日本の全てじゃない、これも日本の多様なアート作品のひとつです。それを殆どの人が和的だとか伝統的とかの言葉で切り捨ててしまうけれど、そんなもんじゃない、もっと文化とは深いものだよ、と。「縄文のエネルギー」を持ったすばらしい作家たちがここにいる。ということを知ってもらいたいんです。

文化を自らの中で発酵させ、自らの形に作り変える日本の文化。
そのかたちが、現代アートの中にある。


日本というのは「取り合わせ」の得意な文化です。大陸や半島から様々な文化が日本に入ってきたけれど、それを日本の中で発酵させて、作り変えていったわけです。日本人はそういうDNAを持っているんですよ。
現代社会の中でも、アメリカやヨーロッパなどからいろいろな文化が押し寄せてきている。その中で、今までと同じで、自分たちの日本的な形に作り変えている。今、我々の目の前で新たな「取り合わせ」の文化が始まっているんです。
京都を見てもそれはわかる。古い建物の隣に近代的なビルが立ち並んでいたりするわけですしね。

僕たちはすばらしい文化を持った国に住んでいるんです。京都だって千年を超える歴史を持っているわけでしょう。単に古いものを利用するというレベルじゃな くて、それをもっと消化して、発酵させていかなければならない。その形のひとつが現代アートの中にあるということを、僕は見出しているわけです。

zipangu-mizuma4.jpg 山口晃『歌謡ショウ圖』(2004)
© YAMAGUCHI Akira Courtesy Mizuma Art Gallery
絵自体は右半分のみ。これに鏡をあわせると反対側に左右対称に絵が映り繋がる仕掛けになっている。
我々には日本画という先達がありますけれど、それは伝統の中の一継承者に過ぎない。
日本画は岩絵具で描きますけれど、これはとても不自由な技法です。自由なひらめきもすぐ絵にはならない。ある手続きを踏んでいかなければ、作品ができない んです。そういう世界ではないところで...岩絵具も使うけど、もっと自由に表現したら良いと思う。激しく動いている時代の中で、未来と遠い昔がちゃんと繋がりが あって、現代を表現することができる、そんな作家たちを(ZIPANGU展では)選んでいます。
例えば今回出展している山口晃(※)も、「やまと絵」風の画家といわれているけれど、実は彼、オイル(油絵具)で描いているからね。岩絵具ではなくて、オイルで キャンバスに描いている。一見伝統に則っているように見えて、その中に諧謔精神や、見た人を笑わせるような要素があったりする。でも元々こういうのは、日 本の絵画には昔からあるものなんです。それを彼は確かに受け継いでいるんですよ。

※山口晃(やまぐち・あきら)。
群馬県桐生市出身、東京藝術大学美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。やまと絵や浮世絵を思わせるタッチで緻密に人物や建物などを描きこんだ作風が特徴だが、描かれるモチーフは武士とバイク、ビルと瓦屋根の組み合わせなど大変自由でユーモアに溢れている。
2001年岡本太郎記念現代芸術大賞優秀賞を受賞。
京都では2008年に「さて、大山崎―山口晃展」(アサヒビール大山崎山荘美術館)を開催。
新聞連載の五木寛之の小説「親鸞」の挿絵も手がける。


より多くの人により開かれた広い場所で作品を見てもらいたい。
デパートを会場にした意図。

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ZIPANGU展をデパートで企画したのにも、より多くの人に現代アートを普及させたい、という意味があります。行く人が偏っているような場所、限定されているような場所じゃなくて、いろいろなところで見せたい。そういう意図があるんです。
巡回展の会場は、髙島屋さんに企画を持ち込んだときに、東京、大阪、京都でやりたい、ということだったので今回そうなりました。でも実際は日本全国どこだっていいんですよ。名古屋でも九州でもどこでも。
今回は展覧会をいろいろな人(一般の人)が来る様な場所、「デパートでやる」ということに対して大きな重きをおいていたんです。作品を売るためにやるのではなくて、デパートに来る、今まで現代アートに触れることのなかった人たちに見てもらう、知ってもらうためにこの展覧会を企画したわけですから。

京都でやることには意味はあると思います。京都は東京に比べて割と美術においてコンサバな、保守的な考えが残っている世界ですから。
お寺を見れば分かるように、京都はそれまで培ってきたものを守っていこうという姿勢がある。そこに切り込んでいくという意味で。現代アートは異質なものではない、と言うことを知ってもらう意味で、とても良い機会だと思います。

つまらない!と思ったっていい。アートは感性、パッションで見ればいい。

別に作品を見るのに作法や知識なんて全く何も要らないよ。アートを見ることは教養じゃないんだから。
アート鑑賞に知識は不要なんです。作品を見て面白い面白くない、それでいい。この絵はこういうところを見なさい、ということは説明はしますし、こういう意味があったのか、と知るのも面白い。だけどいつもそういうことを人に聞けるわけじゃない。

アートに触れること・見ること・感じること。それが一番。どうやって見るのか、なんて決まった方法はない。貴方の感性、パッションで見ればいいんです。

zipangu-mizuma5.jpgアートの敷居は高くないし、難しくない。食わず嫌いが一番駄目なんです。
とにかく何でもいいから展覧会を、作品を見て欲しい。
それでつまらない!と思ったっていいんです。何でもかんでも「いいね」じゃなくて、「面白くないよ!」って反応だっていいんです。
それがとっても重要なことなんだから。


どうしても、同時代の作品って受け入れられにくいところがあるんです。
少し、その時代の先をいっているものだから。それに、「ええっ、何だこれ」って反発 から物事は始まるものなんです。反発すればするほど、実はその作品や作家の世界にハマっていっているということでもあるんですよ。

短い時間ではありましたが、とても内容の濃い、考えさせられるお話ばかりでした。
そもそも昔から受け継がれてきた美術も、当時は皆「現代」のアート。 それが長い年月を経て日本のアートの、文化の大きな流れのひとつとなり、今のアーティストたちにも確かに繋がっています。それは表面的なものではなく、ただ昔のものを受け継ぐという意味でもなく、もっと深いところで。
このことを三潴さんは強く強調されていらっしゃいました。

また、日本には沢山の素晴らしいアーティストがいる、自分が出会った彼らを応援したい、より多くの人に知ってもらいたい。作家を見つけ、出会い、支える存在であるギャラリストとしての強い思いも、その言葉からも強く伝わってきました。

お忙しい中お話くださった三潴さんに、改めてこの場を借りて御礼申し上げます。


PROFILE

三潴末雄(みづま・すえお)
東京生まれ。成城大学文芸学部卒業。
1980年代からギャラリー活動を開始し、94年ミヅマアー トギャラリーを東京・青山に開廊。
2000年からその活動の幅を海外に広げ、国際的なアートフェアに参加。
02年、中目黒にギャラリーを移転。08年、北京に 「Mizuma & One Gallery」を開廊。
09年、市谷田町にミヅマアートギャラリーを移転。
ジャラパゴス展、ジパング展、off the rails展等をキュレーションしている。

■ MIZUMA ART GALLERY:http://mizuma-art.co.jp/

関連リンク

ZIPANGU/ジパング展-31人の気鋭作家が切り拓く、現代日本のアートシーン。-
2011/9/28-10/10 髙島屋京都店 7階グランドホール

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