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【レポート】「フェルメールからのラブレター展」(京都市美術館)に行ってきました!

2011/06/24

flyer_vermeer.jpgついに6月25日(土)から京都市美術館にてスタートの「フェルメールからのラブレター展」。
「京都で遊ぼうART」でも最初の開催決定の一報から随時ご紹介をしてきましたが。その内覧会にお邪魔してきましたので、一足早く内容をレポートします!
展覧会の詳細はこちら


今回の「フェルメールからのラブレター展」が今までと違うのは、特定の美術館コレクションのみによるものではなく、予め一定のテーマを定め、それに見合った作品をセレクトした、「テーマ展」であること。
アメリカやオランダのほか、世界各国の様々な美術館のコレクションから作品が集められています。

実はこの展覧会のような「テーマ展」を開催するのはなかなか難しいことだそう。
(コレクション展の場合はひとつの施設からまとめて作品をお借りすればよいのですが、テーマ展の場合は様々な施設にお声かけをし、それぞれと打ち合わせや調整が必要となるため)

今回はフェルメールに関する学術的権威ともいえる研究者の方が監修・支援を行ってくださったこともあり、様々な美術館からの協力を得、ただでさえ世界的に数が少ないフェルメールの作品が3点も集まる!という今回の展覧会に繋がったとのこと。しかも日本では震災の影響が未だに続いている中で貸し出しをして下さったわけで、それを考えればなおのこと、ありがたいと思うばかりです。

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展示会場では、今回の展覧会にご協力してくださった二人のキュレーターさんが来日。直接作品の解説をしてくださいました!

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左端が、今回の展覧会を監修された、オランダのプリンセンホフ博物館館長のダニエル・H.A.C.ローキンさん。プリンセンホフ博物館はフェルメールの故郷・デルフトにある博物館で、ローキンさんはフェルメールや17世紀オランダ芸術研究の第一人者です。
真ん中が展覧会のプロジェクトメンバーで、今回展示されているフェルメール作品のひとつ『手紙を書く女』を所蔵するアメリカのワシントン・ナショナルギャラリーのシニア・キュレーター、アーサー・K.ウィーロック・Jr.さん。フェルメール研究の世界的権威のお一人です。

今回の展覧会のテーマは「メッセージ」と「コミュニケーション」。
展覧会は大まかに4つの章立てで構成されており、展示作品は40点以上あります。
(各章は壁の色で分かるようになっています)

「展示される作品で、それを見る人とコミュニケーションをとりたいと思っています。絵画作品を通し、17世紀のオランダに何があったか、ぜひ知っていただきたいです」(ローキンさん)

「内容はどれもバラエティに富み、フェルメール以外も質の高いものばかり。まさに「マスターピース」と呼ぶにふさわしいすばらしいものです。17世紀の世界に絵を通して触れることができます。
フェルメールだけでなく、ほかの作品も素通りしないで、楽しんでくださいね!」(ウィーロックさん)

家庭の様子や日常の一コマ。
親しみやすさが魅力の17世紀オランダ絵画たち。


17世紀のオランダでは「オランダ室内画」と呼ばれる、家の一室を舞台にしたような作品がよく描かれましたあ。そのモチーフは、家庭の主婦の仕事ぶりや、子どもたちのしつけについてといったことから、飲み屋などで盛り上がる団欒の様子や、大家族が一室に集まって宴をしている姿など、人々の日常の一場面がよく用いられています。
ヨーロッパの絵画と聞くと荘厳な宗教画のイメージも強いのですが、それに比べるととても親しみやすい感じがしてきます。
「家族」「恋人」「友人」などなど、相手とどのようなコミュニケーションをとっていたか...そのやりとりを読み取っていくのも、この展覧会の楽しみ方のひとつと言えます。

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ヤン=ステーン《生徒にお仕置きをする教師》。
先生に怒られて泣いているらしい男の子と、それを見るクラスメイトたち。ある日の学校の一こまを切り取った作品です。
男の子が怒られた理由は、足元に転がる宿題らしいぐしゃぐしゃの紙にあるようですが...
当時の服装や日常風景のほか、人の表情やしぐさは今にも動き出しそうなほどリアルです。



しぐさ、表情、小物...絵画からの「メッセージ」に耳を傾けて。


描かれた人々はどれもジェスチャーや表情はとても豊かで、言葉は発していないものの(まあ、絵ですから...)、何を話しているかこちらまで聞こえてきそうです。多くの作品は背景や室内の小道具諸々までリアルに描かれ、まるでその場に自分が居合わせているかのような気になってきます。

「絵をじっくり見て、貴方のイマジネーションで絵のストーリー、その続きを想像して見てください。画家も、見た人の心に想像が広がることを望んでいるんですから」(ウィーロックさん)

ほかにも、違う作者の絵なのに似たような服を着ている絵があるところから、当時のファッションの流行が想像できたり、背景の道具類から描かれた人の職業や場面もわかったり、酒場でウェイトレスをナンパするおじさんの絵に「年を取ってから恥をかくようなことをするな」なんて教訓めいた意味を込めていたり...見れば見るほど、絵から何かしら発見できそうで、飽きさせません。
特に、オランダ絵画では画家たちは絵の意味を伝えるために様々なものを背景や部屋のあちこちに描きこんでいます。それは犬であったり、お酒であったり、タバコやカードゲーム、骸骨に砂時計...などなど。
それらの意味をたどり、つなぎ合わせるとその絵の意味、作者からのメッセージがわかる、というわけです。

そんな手がかりを探し、じっくり絵と向き合って色々探していると、何だか本当に絵との「コミュニケーション」が取れているような気がしました。

(絵の隣には場面解説などを記したパネルもあります。ですが、最初はあえて読まずに見て、自分で想像してみると良いかもしれません。また、頭の中で勝手に台詞をアテレコしながら(笑)見ても楽しいのではないでしょうか。)

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ヤン・デ・ブライ《アブラハム・カストレインとその妻マルハレータ・ファン・バンケン》
「展示されている家族を描いた絵は、どれも暖かくてハッピーな感じがするでしょう?」とワーキンさん.。
こちらは仲良く手をつなぐ夫婦の肖像。しぐさや表情からは、夫婦円満っぷりが伝わってきます。
「見てください、うちの自慢の家内ですよ!」なんて、旦那さんの自慢話も聞こえてきそうですね。
当時は自宅に画家を招いて絵を描いてもらう、というこが一種のステータスでもあったようで、一般の人も画家に絵を注文し、部屋に飾ることはしばしばあったそう。
「家に来た人への家族紹介の意味もあったんですよ」(ワーキンさん)


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ピーテル・デ・ホーホ《室内の女と子供》。
「当時の典型的なオランダの家の様子を、とてもリアルに伝えてくれる作品です」(ウィーロックさん)
石のタイルが床一面に市松模様に敷き詰められた部屋は、奥の部屋が一段高くなっていて、横には木製のすのこのようなボードと、椅子。絵も飾られています。
石の床はとても冷たくなってしまうので、それを避けるために木のボードを設置して床に直接足を乗せないようにすることはよくあったそうです。
また、扉を開けて部屋が奥に続いているように見せる構図は、場面の展開や、心理的にまだ続いている、という連続性や広がりを感じさせる効果があるそうです。

ちなみに絵の床付近には小さな可愛いデルフト焼のタイルが。これ、会場にも同じものがあります。ぜひ足元にもご注目を!

※デ・ホーホはフェルメールと同時代・同郷(デルフト出身)。どことなく、フェルメールと雰囲気が似ているような感じを受けますね。


日本とオランダの「コミュニケーション」の跡。


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今回の展覧会は、日本とオランダの400年の交流を記念する意味もあるそう。というのも、1612年に徳川幕府がオランダと外交文書を交わし、鎖国政策の例外として出島貿易を始めるきっかけとなったとのこと。実はちょうど来年が節目の年にあたるんですね。
日本とオランダの交流でもたらされたものといえば、日本なら蘭学をはじめ、カステラなどのお菓子などが伝わりましたが、オランダにも日本からもたらされ、大きな意味を持ったものがありました。

それは、なんと着物!
江戸に招かれたオランダの商人たちが、将軍から冬の着物を贈られ、これをオランダへ伝えました。それが最先端のファッションとして流行したのだそうです。オランダでは着物のことを「ヤポンス・ロック」(日本の着物)と呼び、特にインテリ層や裕福な商人たちに好まれたとか。つまり、ステータスシンボルになっていたのです。

展示品のなかにも、この「ヤポンス・ロック」を着ている人物の姿を見ることができます。この服を着ていたら、優秀な学者か、もしくはやり手のビジネスマン(商人)といったところでしょう。服装が、描かれた人が何者なのかを私たちに示してくれているのです。それと同時に、日本とオランダの「コミュニケーション」の跡を、伝えてくれます。

フェルメールは最後のお楽しみ。



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さて、主役であるはずのフェルメール。こちらは展覧会のトリを飾っています。
一番最後には「フェルメールの部屋」が設けられており、ここに今回やってきたフェルメール作品三点が一緒に展示されています。壁はフェルメールのトレード・カラーとも言える青色です。

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フェルメールとほかの作家の違いをあげるとすれば、それは人物にスポットを当てて表現しているところといえます。
同時期、オランダの絵画は絵の意味や物語を伝えるために風景・背景となる部屋に様々な「意味」を持ったものをちりばめているのですが、フェルメールはあえてそれを減らし、必要なものだけを描きました。その分描かれた人物にスポットがあたり、フェルメールはその人の人間性を描くことに集中したのです。
フェルメールの「人間性に迫る」姿勢は、後の印象派などにも影響を与えたとも言われているそう。

今回出品された中で、目玉となっている『手紙を読む青衣の女』もそう。
殆ど派手なしぐさはしていないのですが、手紙を持つ手は指先に力が入っています。
「アクションがとても小さく静かで、彼女は全く動いていません。それがかえって、何気ない普通の動作をしているはずの彼女に、一種の威厳のようなものを与えています。誰もが経験する日常の行為を、フェルメールは切り取り、強調します。そして見る人はそこに自分の感情を重ねて見るのです」
とウィーロックさん。

確かに、ごくごく普通の動作しかしていないのに、そんな普通のことが、すばらしいことのように見えてしまう。大変美しく感じ、感情を揺さぶられてしまう。それが、フェルメールの絵の持つ大きな力なのかもしれません。また、女性が纏う美しい青い色は、彼女にどこか、崇高ささえ与えているようにも感じました。

※この「青衣の女」は所蔵元のアムステルダム国立美術館でも通常貸出しを行わない「門外不出」
の作品です。しかし、今回の展覧会にあわせて修復が行われたこともあり、今回特別に美術館から貸し出されました。今後日本でお目にかかる機会はほとんどないかも...今回のチャンス、ぜひ会いに行ってみてください!

ちなみに、フェルメールの「手紙」三作はどれも題材は同じ「手紙」ですが、描かれた人物の年代も、場面もそれぞれ違っています。初々しい少女が書く手紙、思わず力を込めて握ってしまうほど大切な人から贈られた手紙、そして激しい感情を抑えて描く手紙...その違いをフェルメールはどう描き分けたのかもみどころです。


何はともあれ、見所満載!
絵の数は物凄く多い!というわけはありませんが、ひとつひとつをじっくり楽しむにはちょうどぴったりのボリュームだったと思います。
普段あまり絵をじっくり見る機会がない方も、この機会に絵とのコミュニケーション、楽しんでみませんか?


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ちなみに、ミュージアムショップにこんなお洒落な羽ペン&封印セットを発見。
これで、久しぶりに誰かに手紙を書いて「コミュニケーション」してみるのもいいかも?
ほかにも展示品をあしらったグッズや、オランダ土産なども販売されています!


コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ
フェルメールからのラブレター展

会期:2011年6月25日(土)~10月16日(日)
会場:京都市美術館
展覧会の詳細はこちら!
【特集】「フェルメールからのラブレター展」
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