Report&Reviewレポート・レビュー

【投稿レポート】「モーリス・ユトリロ展」(美術館「えき」KYOTO)

2010/10/05

実際の展覧会の様子をご紹介している展覧会レポート。
今回はボランティアライターのkeiko.hさんに、こちらの展覧会の感想レポートをお寄せいただきました!keiko.hさん、どうもありがとうございます!

「モーリス・ユトリロ」展 @美術館「えき」KYOTO
(2010/09/09-10/17)

flyer_utorillo.jpg秋深まる今の季節にぴったりな展覧会に行ってきました。
美術館「えき」KYOTOで行われている「モーリス・ユトリロ展」です。

日本でも非常に人気のあるフランス近代の画家、モーリス・ユトリロ。
重要な個人コレクションが日本で一度に公開されたことはなく、今回の展覧会は全ての作品が日本初公開だそうです!





ユトリロの絵画と、その人生。

少し薄暗い会場に入るとすぐに、ユトリロの描いた風景がいくつも目にとびこんできます。
塗り込められた油彩画に圧倒されるとともに、不思議とどこか懐かしい風景を見ているような気もしました。

作品は、「モンマニーの時代」と「白の時代」、そして「色彩の時代」という3つの時代に区分され、展覧会はその時代の移り変わりに沿って構成されていました。
作品の横にはユトリロにまつわるエピソードが添えられており、合わせて見るとより深く理解できるようになっています。


モンマニーの時代は、ユトリロが画家として初期の段階であった時代です。
アルコール依存症だったユトリロは、パリ北部のモンマニーで祖母と二人で暮らしながら、治療のために絵を描き始めました。
ユトリロは正規の美術教育を受けていないのですが、モンマニーの風景を描いた堂々とした筆遣いを見ると、それが独学によるものであることに驚かされます。
色鮮やかで厚塗りされた画面からは、ユトリロが過ごした日常の空気が伝わってくるようでした。それは、画家の描く風景が自然そのものではなく、街並みを主役にしているからなのかなと感じました。


白の時代は、ユトリロが画家として最も充実していた時代です。
少年時代、忙しい母親のもとで孤独だったユトリロは、漆喰と遊んで気を紛らわせていたそうです。この時代の作品は名前の通り白が基調とされています。ユトリロは漆喰の質感を表現するために、石灰や鳩の糞、卵の殻などを絵の具に混ぜていたそうです。確かに、普通の絵の具では出せないような白色と質感でした。

白の時代の作品の傍らに、あるエピソードが添えられていました。
後年、詩人・小説家のフランシス・カルコが、「パリの思い出に何かひとつを持って行くとしたら何にするか」とユトリロに尋ねました。ユトリロは迷わずこう答えたそうです。

―― 「漆喰」。

このようなエピソードを知ってから作品を見ると、ユトリロの描いた白がより一層、色々な思いが込められた、深みのあるものに見えてきますよね。


色彩の時代は、白の時代の重い感じとは打って変わって、明るく軽快な印象の作品が並んでいました。
人物が画面に描き入れられていることもありますが、完全に脇役という感じです。ここでもやはり、主役は街並みでした。気がついたのは、教会を描いた絵が多くなっているということ。ユトリロのカトリック信仰の表れとも考えられているそうです。


これぞユトリロ!のモンマルトル。

carbonele_utirillo.jpg
『カルボネルの家、トゥルネル河岸』(1920年頃、油彩)の
この展覧会では、ユトリロが暮らしたモンマルトルをテーマにした作品がたくさん展示されています。

たとえば、「ラバン・アジル」。「はね兎」という意味の、モンマルトルにあるシャンソン酒場です。ユトリロをはじめ、若き日のピカソや詩人アポリネールも出入りしたとか。

ユトリロはこの酒場を晩年まで繰り返し描いており、ここでは白の時代から晩年まで、同じアングルで描いた作品4点を見ることができました。
色調もタッチも、年代によって様々で、同じ建物でもこんなに見え方が変わるのだなと、違いを楽しみました。
自分が一番好きなラバン・アジルはどれか、探してみるのも面白いかもしれません。

また、「一日に一度酩酊し一点の傑作を制作した」と言われるユトリロですが、母シュザンヌ・ヴァラドンの死後、晩年は自室の小礼拝堂にこもって祈ることが増えたそうです。
ユトリロの妻リュシーは、白の時代の作品の複写を基に絵を描くことを、ユトリロに強く勧めました。白の時代の作品が最も素晴らしいと感じていたのでしょう。
しかし、晩年の作品は白の時代の作品とはまた違った印象を受けました。白の時代らしい重厚な作品は、白の時代にしか描けなかったということなのでしょうか...。

2つの年代の作品を見比べてみると、違いがよく分かるはずです。


展覧会全体を見て、ユトリロが街並みにこれだけ執着していたのはなぜだろうと考えました。そして、アルコールから抜け出すために絵筆を取ったユトリロは、お酒に酔って昔話をするように、絵を描くことを通して懐かしい街並みに思いを寄せていたのかもしれないなと思いました。
何度も繰り返し描いた風景は、画家にとって大切な存在だったに違いありません。

伊勢丹7階の「えき」は、別世界へ小トリップという感じでした。画家の人生が塗り込められたような街並みに囲まれて、ノスタルジックな世界をぜひ味わってみてください。


文責:keiko.h 編集:京都で遊ぼうART


モーリス・ユトリロ展は、10/17(日)まで開催されています。
残り期間も少なくなってきましたが、レポートを読んで「気になった!」という方、まだ間に合います!こちらをご参考に是非足を運んでみて下さいね。
keikoさん、素敵なレポートをどうもありがとうございました!

★「京都で遊ぼうART」に参加してみませんか?
京都で遊ぼうARTでは展覧会や施設の感想や、京都のアート情報の紹介を随時募集しています。
展覧会や施設に行ってみた方、生の感想を是非お寄せ下さい!
また、アートイベントや展覧会の開催情報など、アーティストさんや主催者さんなどからの掲載依頼も随時受け付け中です!

ボランティアライターに関する詳細はこちら
お問合せについてはこちら



関連リンク

モーリス・ユトリロ展
美術館「えき」KYOTO

最近の記事