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【レポ】のぞいてみられぇ!"あの世"の美術―岡山・宗教美術の名宝Ⅲ―(龍谷ミュージアム)

2022/07/29

okayamameiho3 (1).jpg龍谷ミュージアムで開催の「のぞいてみられぇ!"あの世"の美術―岡山・宗教美術の名宝Ⅲ―」。岡山県内に遺された多彩な宗教美術を紹介するシリーズ企画展の第3弾です。
仏教の展覧会はちょっと難しそう...そんなイメージを覆す、わかりやすく楽しく「仏教の世界を伝える」工夫がいっぱいの展覧会でした。その様子をご紹介します。

※この展覧会は7/15の取材時の展示内容を基に構成しています。時期によって一部展示が異なる場合がございますのでご注意ください。

夏休み、アートで「あの世」の覗き見ツアーはいかが?

今回の展覧会の中心となる存在が「熊野比丘尼」。和歌山県の熊野三山に属した女性宗教者たちのことで、江戸時代には諸国を旅して熊野信仰の教えを広め、寄附を募りました。その際には地獄や極楽といった仏教の世界観を絵を使って解説する「絵解き」(今でいうところのプレゼン)を行っていたそう。

これになぞらえて、展覧会ではガイド役として熊野比丘尼をモデルにした「びくにちゃん」とその弟子「こびくにちゃん」、地獄の代表者として「こおにちゃん」と可愛らしいキャラクターが登場。展示の各所でわかりやすく解説をしてくれます。

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展覧会は3章構成で、まずは岡山の紹介も兼ねて、岡山出身の高僧で浄土宗の祖・法然上人の紹介から。龍谷ミュージアムの母体・龍谷大学は浄土真宗の寺院である西本願寺の系列ですが、法然上人は浄土真宗の祖・親鸞聖人の師匠にあたるため、浄土真宗でも大切にされているそうです。展示品の中には親鸞さんと法然さんが出会った場面を描いたものもあります。

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見どころは《法然上人伝法絵断簡》。本来は法然さんの生涯を描いた一続きの絵巻物でしたが、後に掛軸サイズに切り離され散逸してしまいました。今回は岡山県立博物館が蒐集したもの、そして個人蔵の作品をあわせ、順番に並べて元に近い姿で楽しめるようにされています。
切り離した際に詞書がなくなってしまいましたが、ちょうど龍谷大学に詞書を記録したものが残っていたため、お話の順序をきちんと確認することができたのだそうです。

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第2章では比丘尼たちも人々に解説していた「地獄」と「極楽」に関する品々が。前半に極楽、後半に地獄をテーマにした作品を並べています。
ユニークな作品が上写真の《遣迎二尊十王十仏図》。十王とは死者を裁判する十人の王のことで、閻魔大王もその内の一人です。日本では神様仏様を同一視する神仏習合の考えもあり、十王は皆それぞれ仏様の化身とされました。この図ではそれが上下並びで対応して描かれています。

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他にも十王たちが死者を裁く様子を一人ずつ描いた連作もあります。罪人が舌を抜かれていたり、生前やった悪いことを鏡に映し出されたり...妙に具体的かつ丁寧な描写です。

ちなみに学芸員さんいわく、ギャラリートークなどでも何故か極楽の話より地獄の話が人気だとか...怖い話の方が盛り上がる、だからこそ妙に地獄の様子を詳しく具体的に描いた作品も多いのかもしれません。

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その傾向は熊野比丘尼たちの絵解きにもあるようで、彼女たちが使っていた《熊野観心十界曼荼羅》(写真右)も、上半分には人の一生を表す半円形の「老いの坂」や人の世界、その上に仏様のいる極楽の世界が描かれています、そして絵の下半分は全て地獄の世界!地獄の面積の方が多くとられているような気がします。

左隣の《那智参詣曼荼羅》は、熊野三山のひとつ・熊野那智大社の境内の様子を描いたもので、一種の観光マップです。比丘尼たちはまず十界曼荼羅で地獄や死後の世界について話してから、救われたい人はこちらへ、と熊野の寺社を紹介することで参詣を促したのだとか。

ちなみに絵に折り目があるのは比丘尼たちが折りたたんで持ち歩いていたためで、高いところにかけるためのフックもついています。実際に使っていた様子が想像できますね。

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岡山には一部の熊野比丘尼たちが定住化した場所があり、彼女たちが使っていた品々が多く伝わっているそうです。展示室には、お守りや錫杖、お札を刷るための版木、熊野三山からの営業許可証なども展示されています。

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展示品の中にはちょっと異彩を放つものがあります。こちらは菩薩を表したお面。これは演劇やパレードの形式で、死者を極楽浄土へ迎えに来る阿弥陀如来たちの「来迎」の様子を再現する行事に使われたものだそうです。地獄を伝えるのが比丘尼たちの絵解きなら、こちらは極楽を伝えるための儀式。仏教の世界観の伝え方、そのバリエーションの豊かさに驚かされました。(現在も、岡山県の一部の寺院では行われているそうです)

地獄と極楽、所謂「あの世」は生きている人間が直に見に行くことはかなわない世界です。それをどうにか覗き見られないか、わかりやすく伝えられないか...その想いから生まれたのが「あの世」を描いた曼荼羅図や掛軸などの美術品、そして比丘尼たちの絵解きや儀式だったのかもしれません。

夏休み、ちょうどお盆の時期にもぴったりの展覧会。
涼みついでに、ちょっと「あの世」の世界をのぞいてみてはいかがでしょうか?

展覧会は8/21(日)まで。

のぞいてみられぇ!"あの世"の美術―岡山・宗教美術の名宝Ⅲ―

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