【レポート】水の情景、涼へのいざない(細見美術館)

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
日本美術では自然を元にした意匠がよく見られますが、「水」もそのひとつです。そんな「水」をテーマにした作品を集めた展覧会「水の情景、涼へのいざない」が細見美術館で開催されています。
展示作品は細見美術館のコレクションを中心に約60件。水辺の風景やいきものを描いた絵画、水をモチーフにしたデザインの工芸品など、多彩なジャンルの作品が選ばれています。
※本記事は2026年6月12日の記者内覧会取材内容を基にしています。写真は全て許可を得て撮影したものです。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
秀盛《瀟湘八景図》室町時代 細見美術館蔵
水辺の風景画の代表格は山水画。
なかでも《瀟湘八景図》は中国の有名な景勝地を描いた代表的な画題です。中国はもちろん日本でも風景画の定番として大変好まれました。
今回展示されている《瀟湘八景図》は、雨の降る夜だったり、夕暮れ時や雪の日など、時間や天気などさまざまなシチュエーションで描き分けられている点が見どころ。細見家では、茶事などの際に季節に合うものを選んで使われていたようです。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
酒井鶯蒲《近江八景図巻》江戸後期 細見美術館蔵
鶯蒲は江戸琳派・酒井抱一の養子で、抱一の画風をよく引き継いでいる。
この絵巻は縦8㎝ほどしかない手のひらサイズながら、琳派らしい表現が多数見られる。
その後《瀟湘八景図》に倣い、日本でも景勝地を8つ選んで描く形式が生まれました。近江八景では、瀟湘八景が湖のほとりの風景だったことからそれを琵琶湖に置き換え、石山寺の月見、瀬田の唐橋、比良山の雪など、琵琶湖周辺の名所が描かれています。
本展では、瀟湘八景と近江八景、双方が展示されているので、中国と日本の「水辺の風景」のテイストの違いも楽しめます。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
左:鈴木其一《富士図》江戸後期/右:青木木米《富士望見図》文政7年(1824)いずれも細見美術館蔵
江戸琳派の鈴木其一はすっきり明快な構図。
陶工として知られる青木木米は文人画風の緩やかな線描が特徴。
他にも、富士山と麓の湖などを組み合わせた風景画や、滝を描いた作品なども見ることが出来ます。水辺の風景とひとことでいっても、変幻自在の水のように表現が幅広いことがわかります。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
大西圭斎《秋冬花鳥図屛風》文政6年(1823)細見美術館蔵
水辺に集まる生き物たちを描いた絵のコーナーで目を引くのが、大西圭斎の《秋冬花鳥図屛風》。水墨ベースの風景に、花や鳥がカラーで写実的に描かれています。
オシドリやカワセミなど水辺の鳥たちに交じり、センターにニワトリが配されている点がユニーク。ニワトリは水面に映った自分の姿を不思議そうに見つめています。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
福原五岳《蘭亭曲水図屏風》江戸中期 個人蔵
水辺には動物だけでなく人間も集います。
福原五岳《蘭亭曲水図屏風》は、中国の書家・王義之が仲間と水辺に集い、宴をした故事にちなむもの。流れる水に酒盃を流し、自分の前に盃が来るまでに歌を詠む遊びをする様子が描かれています。日本でも宮中の年中行事として行われ、現在でも「曲水宴」として京都の城南宮などで続けられています。この絵は全体が淡い色彩でまとめられ、見目にも涼やか。屏風のパノラマ感とも相まって、自然と水の流れが伝わってきます。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
俵屋宗達《伊勢物語図色紙「大淀」》江戸前期 細見美術館蔵
また、水は単に水辺としての意味だけでなく、演出効果としても用いられました。その例として紹介されているのが、俵屋宗達が描いた《伊勢物語図色紙》。伊勢に行って共に暮らそう、という男の誘いを女が断る『伊勢物語』「大淀」の場面を描いています。
距離が一番開く対角線上に男と女を配置し、その間には隔てるように波立つ海が描かれています。
州浜の金と海の青という色彩のコントラストも相まって、二人の心の距離が視覚的に表現されている作品です。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
中村芳中《扇面画帖》江戸後期 細見美術館蔵
また、展覧会では「水」を少し広めに解釈し、モチーフとしてだけでなく、絵具としての「水」にも注目。その例として、絵具が乾かないうちに水でにじませる「たらし込み」技法を用いた作品として、俵屋宗達の《双犬図》や、中村芳中の《扇面画帖》が展示されています。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
《蛤蒔絵硯箱》江戸前期 細見美術館蔵

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
ギヤマン鼈甲の櫛、笄など
工芸品を集めた展示室では、水辺のデザインを施した蒔絵の箱や、明治の図案家・神坂雪佳が海の波からデザインした図案、水晶製のモダンなかんざしやガラス製の櫛などが紹介されています。

水の情景、涼へのいざない(細見美術館)展示風景
茶道具のコーナー。
茶杓は前回細見美術館で展覧会を開催されていた、染織家・志村ふくみさんの作。
茶道具のコーナーも、水をイメージさせる茶碗やガラス製の水指など、夏の茶席をイメージした取り合わせになっており、見目にも涼やかです。
紹介した以外にも、尾形光琳や池田孤邨、葛飾北斎などの作品もラインナップされ、かなり豪華な内容です。
また、本展で紹介されている作品は、細見美術館でもこれまでほとんど展示機会がなかったものや、スタッフの皆さんも初めて目にした作品が多いのだそう。よく美術館に通っている方も満足できる、新鮮な発見があるはずです。

また、屋外に展示されていた岡田一郎氏作の現代美術作品《横断する眺望》(2002年制作)が、本展に合わせて修理され、鑑賞できるようになりました。
こちらは琵琶湖疏水の古地図から、実際の疏水で録音された水中音が流れるという演出のサウンドインスタレーション。音を聴いていると自分が水の中にいるかのような感覚を味わうことが出来ます。
金属で疏水や川の流れが表され、ちょうどスピーカーが繋がっているのが美術館の位置なのだそうです。
ちょうど作品の向こう側には、道路を挟んで琵琶湖疏水が流れているのが見えるので、実際の景色と併せて鑑賞ができるのがうれしい作品です。

暑い季節に涼をとりに行くにもぴったりの内容の展覧会です。
もちろん展示室のなかは冷房が効いて快適なので、涼みがてらお出かけしてみてはいかがでしょうか。
展覧会情報
水の情景、涼へのいざない
会場:細見美術館
会期:2026/6/13~8/2