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※この記事は掲載時(2014年9月)の情報に基づきます。

特集記事

京都MUSEUM紀行。第二十回【千總ギャラリー】

京都ミュージアム紀行 Vol.20 千總ギャラリー

烏丸通から、レンガ造りの建物が今も残る三条通に少し入ったところにある、1階のカフェが目立つビル。その2階に着物の世界に気軽に触れることができるミュージアムがあります。それが、今回ご紹介する「千總ギャラリー」です。 千總ギャラリーは株式会社 千總(ちそう)が収集を行ってきた染織品や美術品などの資料を展示している施設です。

千總とは


明治時代の千總社屋の様子(写真提供:株式会社千總)

千總は戦国時代の末期・1555年(弘治元年)に創業し、以来450年以上の歴史を持つ京友禅の老舗。もともとはお寺のお坊さんが着る「法衣(ほうえ)」や宮家・公家の衣裳を中心に扱う法衣商を営んでいましたが、明治時代には天鵞絨友禅や刺繍の美術染織品を手掛け万国博覧会に出品。数々の賞を獲得しました。一方で、型友禅の着物を多く手掛け、斬新なデザインが人気を博しました。現在も全国の店に多くの着物を卸し続け、皇室の御用も務める京都を代表する企業のひとつとなっています。

「老舗」の役割を伝えていくために
「日本、京都の文化を大切に、多くの人に伝えていく場所を作りたい」

千總ギャラリーが設立されたのは、平成元年のこと。しかし、「当初は、関係者か、もしくは商談にこられたお客様を相手にご案内する施設でした。一般公開を想定していなかったため、広報も全くしていなかったようです。」と説明してくださったのは、当日ご案内いただいた学芸員の加藤さん。

現在の形になったのは2008年。自社ビル1階のスペースを大幅に改装し、1階には現在も人気のカフェ『伊右衛門サロン京都』が出店。多くの方が千總ビルに訪れるようになり、ギャラリーもより多くの方に楽しんでいただける展示が必要となりました。その後は毎年定期的に企画展を開催するなど、精力的な活動を行っています。

  • 千總自社ビル

    建物は千總の自社ビル。「伊右衛門サロン京都」とは入口は共通です。

千總ギャラリーの入口はカフェと一体化しており、まずカフェに入ってからそのまま2階に上がるという構造になっています。つまり、ギャラリーのみを目的に来た人だけでなく、カフェを利用する人が待ち時間や食後に気軽に立ち寄ることができるのです。このスタイルは、他の展示施設ではあまりみられません。なぜこのような形になったのでしょうか。
「『伊右衛門サロン』は「お茶と共にある生活を提案する文化サロン」というコンセプトを持っていました。「お茶」は日本人の生活に欠かせない伝統文化の一つであり、京都を代表する産業です。それは千總が手がける着物も同じ。日本や京都に伝わる文化を大切にし、多くの人に伝えていく場所を作りたい。文化に対する共通する思いから、出店が決まりました。」と加藤さんは言います。

現在の入場者は年間約2万人。ちょっと敷居が高い印象を受けそうな着物の世界に気軽に触れることができる場所として、国内外の人が訪れるスポットとなっています。

「ものづくり」のためのコレクションたち

千總が所蔵しているコレクションは約2万点。主に江戸時代から明治・大正時代に作られた着物や、千總がこれまでに制作してきた友禅染の数々、そして絵画や雛形本をはじめとした古文書資料などが収められています。
「これらは、美術品として集められたものではありません。あくまで着物作りに活かすための、“ものづくりのための資料”なんですよ」と加藤さんは仰います。

昔の友禅染の着物は、ひとつひとつ職人が筆で文様を描いていく「手描き友禅」でした。そのため、どれもが一点もの。全く同じデザインはひとつとしてなく、着る人も武家や富裕な商人の女性に限られていました。しかし明治以降、千總は型紙を使って何枚も同じデザインを染めることができる「型友禅」を広め、一気に友禅染は一般の女性からも求められるものになりました。そして、より時代の流行にあわせた新しいデザインを考える必要が高まったのです。そこで、アイディアを求めて多くの資料を収集が行われるようになりました。

  • 千總の資料をもとに山本耀司がデザインした着物。

特にその意向があらわれているのが、「裂地(きれじ)」のコレクション。要するに着物のハギレなのですが、集められた膨大な数の裂地は見本帳としてまとめられ、現在まで新たな着物のデザインを考えたり、染色技術を伝えていく上での貴重な資料となっています。

また、絵画も着物作りにとって大事な存在でした。
千總では、円山応挙や長澤芦雪といった江戸時代の京都の画家や、森祖仙・岸竹堂・今尾景年といった、明治大正期に活躍した京都画壇の有名画家の作品を多く所蔵しています。特に明治大正期の画家たちは、当時千總から依頼を受け、着物の下絵を手がけました。つまり、今で言うアーティストのコラボレーションを行っていたのです。
「明治時代は大きく社会が変化した時代。一流の画家にデザインを頼むことで、それまで伝統的に描かれてきた文様とは違う、新しい風を取り入れようとしたんです」と、加藤さん。

現在でも、デザインを考える担当の方は、これらの資料を参考に新しい着物を企画されているそうです。千總のコレクションは、ただ集め展示されるものではなく、今の着物へつながっていく、「生き続けている」品々といえます。

資料の多くはいつどのような経緯で伝わったものか、記録が残っておらず由来のわからないものも多いとのこと。そこで現在、改めて資料の研究調査・保存修復を行っているそうです。

  • 千總ギャラリー内部

    展示室内は艶のある木床の風合いを生かした落ち着いた空間。壁沿いには大型の展示ケースが設置され、幅を取りやすい着物や屏風の展示がしやすいように柱も取り払われています。 部屋の中心スペースは立体物や大型作品にも対応できます。

千總ギャラリーでは、そんなコレクションのなかから、テーマにあわせて10~30点程度の作品を選び、年4回程度の企画展で展示しています。

千總ギャラリーの企画展は、展示テーマの豊富さが大きな特徴です。12ヶ月の歳時記にあわせて選んだ着物展や、美術品に描かれた着物と実際の着物を対比したもの、動物をモチーフにした作品特集、恋愛をテーマにした展覧会など、毎回違った切り口から着物の世界を紹介しています。

ほぼ所蔵品のみで展示を行っているため、時には以前展示されたものと同じ作品が登場することもありますが、見せ方や取り上げ方が変われば同じ作品でも全く違う、新鮮な印象を受けます。また、堅苦しくなく、親しみやすいテーマ設定も魅力です。

「決して大きな展示施設ではありませんし、スペースも1部屋だけなので、限られたスペースにどのように展示するか、毎回苦心しています。また、何度もお越しいただいている方も飽きさせないようにテーマ決めを心がけています。企画する側としては大変なところですが、ここが腕の見せ所ですね」という加藤さん。
企画展には、学芸員さんの工夫とこだわりが詰まっています。

「老舗」の役割を伝えていくために
「日本、京都の文化を大切に、多くの人に伝えていく場所を作りたい」

近年では、昔の作品・資料の展示だけでなく、友禅染ができるまでの過程そのものに着目した内容の展示も行われています。

2012年からスタートしたシリーズ展「千總謹製」では、現代の職人による着物のほか、企画制作に携わった制作担当者の方が自ら解説を行うなど、普段接することが難しい作り手の側の視点や思いを知ることができるようになっています。

「もちろん、過去から受け継がれてきた所蔵品を紹介することは大事なことです。でもそれだけではなくて、千總という会社がどのような会社なのか、千總が長年手がけてきた友禅染とはなにかを、知ってもらいたいとも考えています。そのために企画したのがこのシリーズ展なんです」と加藤さんは言います。

  • ART with CHISO YUZEN展
  • ART with CHISO YUZEN展

30名のアーティストとのコラボレーションによる京友禅作品。

  • ART with CHISO YUZEN展
  • ART with CHISO YUZEN展

また、取材時に開催されていた「ART with CHISO YUZEN」展(2014/6/13-9/30)では、2005年に創業450年を記念して行われた、現代のアーティストが制作したイラストや絵画を友禅染で再現する企画の作品が展示されていました。参加した作家は、現代日本を代表するアーティストの一人・村上隆や、世界的ファッションデザイナーのヨウジヤマモトなど国内外で活躍する30名。文様も色使いも、普通の友禅染や着物のイメージとは全く異なる斬新なものばかり。友禅染はこんなこともできるのか、と驚かされるとともに、その表現の可能性を感じさせます。

  • ART with CHISO YUZEN展
  • ART with CHISO YUZEN展

ファッションブランドのアーティストとのコラボレーション作品。
普通の友禅染ではまず見られないデザインに驚きです。

友禅染の布をそのままサーフボードに仕上げた一品。
大柄のデザインが映えます。

  • ヨウジヤマモトとのコラボレーション着物
  • ヨウジヤマモトとのコラボレーション着物

    ヨウジヤマモトとのコラボレーションで制作された生地を使った着物。既存の着物のイメージを覆す、ポップな色使いやデザインが魅力です。随所に友禅染ならではの染物らしいテイストも生かされています。

この企画を契機に、その後は有名ブランドとコラボレーションして洋服の生地を友禅染で制作したりと新しい企画も行われていったそうです。

「千總では“周りのやらないことをやる心”がずっと受け継がれてきました。伝統をかたくなに守るだけでは、それは時代にあわずに続かなくなり、やがては過去のものになって失われてしまいます。伝統を過去のものにせず、未来に向けて続けていくこと、それが老舗が果たすべき使命なんです」

一般に、老舗や伝統と聞くと、昔からのものを忠実に、変えることなく守っているようなイメージをしてしまいます。でも、老舗というのは長く続いているから老舗というわけで、続けられるように努力や挑戦を惜しまないものなのです。

昔の品々を見ていても、各時代の流行にあわせてそのデザインや色使いなどは、変化していることがわかります。一方で、京都らしい繊細さや、丁寧な手仕事など、普遍的に続いていくものその中にはあります。それこそが本当の意味での「伝統」といえるのかもしれません。

「変化の中にあっても変わらずに受け継がれるものは必ずあります。その価値をより多くの人に伝え、身近に感じていただけるように、これからも活動を続けていきたいと思っています。そうして、着物を中心とした日本の文化の発信地となっていけたら嬉しいです」と、加藤さんは最後にお話してくださいました。

過去の歴史、現在の仕事、そして未来へ続く「伝統」というものにどう向き合い、取り組んでいるのか。千總ギャラリーは「老舗とは何か」を目に見える形で伝えてくれるミュージアムなのかもしれません。
千總は、2015年には創業460年の節目の年を迎えます。ギャラリーでも、それを記念した企画が予定されているそうです。今後の展開にもぜひ注目したいところです。

《コラム》ショップ「SOHYA TAS」

  • ショップ「SOHYA TAS」

伝統を、文化を守り伝えるための老舗の取り組み。それは展示だけに留まりません。 展示室前にあるショップ「SOHYA TAS」では、着物のデザインを生かしたスカーフなどのファッションアイテムや、文房具などを企画、販売しています。最近では、昔ながらの手づくりで作られる線香花火の復刻販売も行われています。浴衣を着て花火をする、夏ではおなじみの風景も、片方が消えてしまえば失われてしまいます。着物に関わる文化そのものを未来に続けていくための大切な取り組みです。今後も他の分野とのコラボレーションは随時続けていくとのことなので、今後のショップ展開にも注目です。

※取材に関しては、学芸員・加藤さんにご案内・ご協力を頂きました。この場を借りて御礼を申し上げます。

千總ギャラリー

所在地

〒604-8166
京都市中京区三条烏丸西入御倉町80番地 千總本社ビル2階

開館時間

10:00~19:00

休館日

水曜日、年末年始
※展示替期間、特別貸切などで臨時休館となる場合もございます。

お問い合わせ

電話番号:075-211-2531
075-221-3133(SOHYA TAS/ショップ)

公式サイト

http://www.chiso.co.jp/

■料金

入場無料

■交通のご案内

【地下鉄】
烏丸線・東西線「烏丸御池駅」下車、6番出口より徒歩2分
※駐車場はございませんので、お越しの際は公共交通機関をご利用ください。




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