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タイムカプセルをあけたときのように、どこか懐かしい風景たち(安野光雅が描く 洛中洛外展)

投稿:2012年3月15日

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安野光雅が描く 洛中洛外展
京都髙島屋グランドホール 平成24年3月3日~19日

 

安野 光雅
1926年島根県津和野市生まれ。
主な著書は『ふしぎなえ』、『繪本平家物語』、『天動説の絵本』、『空想の絵本』、『ABCの本』、『旅の絵本』『絵本即興詩人』など多数。全業績に対し、絵本のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞を受賞。
1988年紫綬褒章、2008年菊池寛賞を受賞。

 

安野光雅氏は、今年で御年86歳になられる今も
絵本をはじめ、風景画、歴史画、装丁など
幅広いジャンルで活躍されている、島根県津和野出身の画家です。

「ふしぎなえ」「ABCの本」などユニークな視覚効果を用いた絵本や、
司馬遼太郎氏の「街道を行く」の挿画などを
思い出される方も多いのではないでしょうか。

 

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《ふしぎなえ》 © 福音館書店、Anno Mitsumasa
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「画集より」© Anno Mitsumasa


私は中学生のころの古典の教科書に載っていた
『平家物語』の那須与一の場面の挿絵が大好きでした。

通常ならば、まさに矢を射らん、とするところを描くものを、
安野氏の描いた馬上の与一は、弓を両手に持ったまま、
矢はつがえずに呆然と的の扇を見つめています。
あえて「静」の場面を描くことで、与一の緊張感や、
まわりで見守っている大勢の源氏と平氏たちの、
息を飲む音までが聞こえてきそうな、そんなワンシーンです。

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《那須与一》 (写真画像)© Anno Mitsumasa

そして、この「静」があるからこそ、その後の有名な
「扇は空へぞあがりける」という、
射落とされた日の丸の扇が、青い海にたゆたう情景が、
心の中に鮮やかに想像されるのです。
見るものの想像力を書き立てる『静』の描写。
それが安野作品の魅力なのでは、そんな私の思いは、
今回多数の作品を拝見して、ますます強くなりました。

今回高島屋で開催された「洛中洛外」展は、
産経新聞で連載中の京都の寺社仏閣、町並み、祭り、風景など
京都の水彩画作品15点に加え、
奈良や津和野の作品や今までの絵本作品から
よりぬきの120点を展示するという、非常に見ごたえのあるものです。

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《八坂の塔》© Anno Mitsumasa

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《二年坂》© Anno Mitsumasa

安野光雅氏の水彩は、誤解を恐れずに言えば、
鮮やかというよりは落ち着いた、
ある種ひなびたともいえる独特の色使いで描かれています。
描かれているのは、嵐山、祇園祭、平等院、哲学の道、鞍馬寺など、
京都の名勝ばかり。
しかしそこには観光地の派手さはなく、
感じられるのは、匂い立つような空気、木々のにおい、とりとめのない雑踏。

私は清水寺の近くに住まっているので、
東山の風景は見慣れたものなのですが、
安野氏の作品を見ていると、不思議と私と同じように
日々京都で暮らしている人が描いたものなのでは、
と思えてくるほど、その風景は日常の顔つきをしています。
どの作品にも特別なものを書いている、という気取ったところがなく、
あるのは、どこかなつかしい、ほっとする静けさ。
桜の清水寺、東寺の弘法さんの市など、
人の波に揉まれずにはおれない場所も、安野氏の作品では静かです。
まるで自分だけが知っている一番良いところから、
のん気に眺めているような、ちょっと得した気分。
そして、一歩引いたところから見るだけに、
その場のにぎわい、空気の振動や香りまでもが
鮮やかに自分の中に想像されるのです。

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《清水寺》© Anno Mitsumasa

会場内にはそんな安野作品を理解するのに
ヒントとなる言葉が書いてありました。

「パリで絵を描いていると、絵にしなくてはという意識が働く。
でも津和野や奈良で描いていると、描いているというより、
生まれてくる、という感じがある。
水墨画の墨が、流れたり、滲んだりしていくことに、身を任せるように、
自分が子供のころにすごした原風景に包まれて、良い気分になっている」

今回の展覧会の風景画作品にはどれも、そんな誰もが持っている
原風景を思い起こさせるようなものがあります。
子供の頃あそんだ土の匂い、水の手触り。

奈良を描いた作品は、特にその色が濃く、
どの町にでもあるような集落の一角や、
畑の風景、山間の村のたたずみを見ていると、
遠い昔に歩いたことがあるようなノスタルジアをかきたてられます。
安野氏の描いた景色は、いつしか自分の中の思い出の景色と重なり
風は木々をゆさぶり、水面にはさざ波が見えくるのです。

「子供のころうたった歌は、当時の空気といっしょに密封されて、
缶のふたを開けると、
その時代のいろんな時間などといっしょに戻ってきます」
そんな言葉も書かれていました。
私たちは、安野氏が作品に滲ませた原風景につられて、
自分だけのタイムカプセルのふたを開いてしまうのかもしれません。

詩人の谷川俊太郎さんは、安野氏の絵について
こんな風に表現しています。

“この画家の水彩画はなめるとほのかに甘い、ラムネ菓子のような味がする”

ラムネ菓子も子供の頃の温かい記憶のひとつですよね。
また「ANNOさんの水彩画」という詩にはこんな一節があります。

この風景が夜になると
家々も木々も透き通る
眼差しだけがひそかな物音を聞く

この風景は水で描かれるから
色は空へ溶けてゆく
今は昔に流れてゆく
私はあなたへ滲んでいく


安野氏は、3.11の震災を通して、文明と文化について深く考えたといいます。
文明の進歩によって、文化を切り捨ててきたことへの懐疑から、
京都を訪ね、描くことによって、
今もそこに息づいている文化の姿を写したい。
そうと思われたことが、この「洛中洛外」の作品を描くきっかけとなりました。

文化とは、まさに自分の原風景の中にあるものではないでしょうか。
家族や友達、山河すべてが原風景。
そのぬくもりをいま一度思い出しに
『安野光雅が描く 洛中洛外展』へ足を運ばれてみてはいかがでしょう。
 

関連リンク

安野光雅が描く 洛中洛外展



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