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京都MUSEUM紀行。第十八回【細見美術館】

京都ミュージアム紀行 Vol.18 細見美術館

  • 岡崎という地域が生んだ、地下へ広がるアートの世界。
  • フォトギャラリー

美術館やギャラリー、イベント会場などが集まる、京都きっての文化芸術エリア、岡崎。その中心部、岡崎公園と琵琶湖疏水を挟んで隣接するのが、この地域を代表する施設のひとつとして知られる細見美術館です。

古代から近代まで、ここに「日本の美の歴史」があります。

細見美術館の主体となっているのは、大阪で活躍した実業家・細見家による日本の古美術品コレクションです。
毛織物で財を成した細見家は、初代・細見良(古香庵)氏から親子孫の三代に渡り、美術品を積極的に収集してきました。個人の美術愛好家によるコレクションですが、初代のころから「いずれは一般の人に見てもらえる形に」と美術館設立の構想はあったそう。そして1998年、現在地に美術館が設立されました。

細見家のコレクションは縄文や弥生時代といった古代の考古美術から、平安・鎌倉時代の仏教美術、室町時代の水墨画や大和絵、琳派や伊藤若冲などの江戸絵画や工芸品、そして明治・大正の近代美術まで、ほぼ全時代の日本の美術・工芸品を幅広く網羅しています。
そのため、展覧会の内容も宗教美術から絵画展、工芸品など実にバラエティ豊かです。

展覧会ではそんな多彩なコレクションを中心に、さまざまな切り口から、年数回の展覧会で日本の「美」を紹介しています。

細見美術館の「原点」

細見コレクションは、個人コレクション故に、コレクターである細見家三代それぞれの好みや特徴が、蒐集品に反映されています。
例えば「琳派」。
現在では「琳派」といえば細見、と紹介されるほど、細見コレクションは「琳派」や江戸時代の作品に優品が多いことで全国的にも知られています。しかし、実はそれを多く収集するようになったのは二代目・細見寛氏の頃からだそう。初代の細見良氏はむしろもっと前の時代、平安や鎌倉時代の宗教美術や、茶道具、漆芸作品に重きを置いていたそうです。 今でも展示室には大きな埴輪や美しい鹿の金銅像が展示されていることがありますが、これらは初代によるコレクション。いわば、細見美術館の原点ともいえる存在です。


古墳時代の盛装の男子の埴輪。埴輪としては非常に大型のものです。


朱色が美しい根来塗の瓶。こちらも初代好みのコレクション。
時を経て適度に色が落ちた表情にも風情があります。


「金銅春日神鹿御正体」(重文)常陸鹿島より、春日明神が鹿に乗って大和にあらわれた姿。細見コレクションのシンボル的作品のひとつで、可愛らしい見た目からファンも多いそう。

岡崎という地域が生んだ、地下へ広がるアートの世界。


デザインは豊島区合同庁舎やアークヒルズ・フロントタワーなどを手がけた大江匡氏。

細見美術館の建物は、外から見ると割とこじんまりとした形に感じます。しかし、中に入ってみると、地下は大きく掘り下げられており、驚くほど広いことに気付きます。
建物は地上2階、地下3階という構造で、実質5階建てのビルくらいの大きさがあるのだそうです。

なぜこのような不思議な形になったのかというと、美術館が「岡崎」という地域にあることが大きく関係しています。 岡崎地域は、実は京都の中でも特に景観を重視しているエリアのひとつ。景観条例により建物には高さや色などに厳しい規則が課せられています。そのため、この地域では大型の美術館のような高い建物を建てることができないのです。そのなかでコレクションを展示・保管するのに充分なスペースを確保するため、逆転の発想で地下に建物を埋める構造にし、地上に出る建物の大きさを減らしたのだそうです。

それでいて、最下層に降りても決して暗い印象を与えないのは、中央部に広がる大きな吹き抜けのおかげ。避難経路を確保する意味もあるそうですが、それと同時に季節によって変化する空気を感じてもらうために設計したものだそうです。外の空気や光が内部へ直接降り注ぐため、閉塞感は感じません。むしろ、地上にある建物以上に明るく広々とした空間を生み出しています。

普段は目立たないけれど、展示室には作品を活かす工夫がいっぱいです。

展示室は主に3つあり、それぞれ展示する作品を想定してスペースが設計されています。

●第1展示室

例えば最初に入る第1展示室は、屏風など大型作品の展示に適したスペース。天井は高く設計されており、展示ケースも大型のものが壁沿いに設置されています。

ケースの下部には木の板で小さな台(腰台)が取りつけられており、鑑賞者がしゃがんで踏み台に膝をかければ、屏風の下の方までより間近で作品を見ることができます。かつ、和室に屏風を設えた時と同じ、座った視点で屏風を鑑賞することができるのです。

作品本来の良さがでるように、飾られ方や実際に使われるときのしつらえに近い形で見て頂けるような展示も試みています。当日案内をしてくださった広報ご担当の三宅さんは仰っていました。

他の展示室も、実際に見る人の視点の高さを意識した作りになっています。

●第2・第3展示室

第2展示室は掛軸などを、第3展示室は茶碗や小さな小物類の展示に適した空間で、来館者が作品に視線を合わせやすい高さに展示台が調整されています。

また、第3展示室の展示ケースの手前には、ちょうど手の高さに合うように木の台が設置されています。鑑賞時にはここに手をおいて楽に作品を楽しむことができますし、メモをとったりするにもぴったりです。照明などの機械類はなるべく目に触れないように隠してあり、作品を見る際の邪魔にならないようにされています。

また、壁や床もこだわりが詰まっています。
建物全体の「京の町家」というコンセプトから、内装は基本的に和を意識した落ち着いたデザインになっています。
壁は「櫛目」と呼ばれる模様の付けられた土壁風で、これも日本ならではの技法。壁の模様によって陰影が自然と生まれ、空間に表情を出す効果があるそうです。また、床も桜材を用いたフローリングになっており、とても暖かみを感じさせます。柱を極力少なくした設計も、圧迫感を軽減し、広々とした空間を演出しています。

一見何気なく通り過ぎてしまいがちですが、展示室には見る人がより作品を楽しめるように、さりげない気遣いが随所に施されているのです。

また、細見美術館では監視員を置いていません。これも展示室でじっくりと作品に向き合ってもらえるようにという配慮。人目を気にして緊張することなく、ゆったりと楽しめる空間作りがなされています。

作品をより間近に楽しめる茶室「古香庵」

より作品を間近に楽しめるのが、美術館の最上階・3階にある茶室「古香庵」で開催される「古香庵茶会」。このお茶会では、掛軸や茶道具といった展覧会にも出展される作品が、実際に茶会のしつらえとして登場します。ガラスケース越しではなく、本来の自然な状態で美術品を鑑賞することができる貴重な機会。ほかでは味わえない魅力に触れられます。 (茶会は季節ごとにテーマを決めて開催。ほかに初心者向けのミニ茶会も行われています。要申込。)

MoMAを目指して―「美の提案」をするショップスペース

そして細見美術館で忘れてはいけないのが併設のショップとカフェスペースです。細見美術館には、地下3階スペースが吹き抜けに面して、カフェスペース「CAFÉ CUBE」とショップ「ARTCUBE SHOP」となっており、こちらは入館料無しで誰でも利用することができるようになっています。

「CAFÉ CUBE」はイタリアンがベースのレストラン形式となっており、ランチタイムには手ごろな値段でコースも味わうことができます。よく昼食に訪れる近隣の常連さんもいらっしゃるとか。
また、ショップ「ARTCUBE SHOP」は細見美術館の所蔵品グッズだけでなく、独自セレクトした職人やアーティストによる「和の品々」を数多く取り扱っており、単なる「お土産売り場」とはとは一線を画しています。これまで細見美術館が得てきた、日本の伝統美を楽しむノウハウが随所に生かされており、現在では、美術館だけでなく髙島屋京都店にも支店を置かれるほどの人気スポットとなっています。

ショップやレストランを併設している美術館は今ではよく見かけますが、細見美術館ができた当時にはまだ珍しい存在でした。開館当初は、「お店を作るくらいならもっと展示室のスペースを増やしたらどうか」と言われたこともあったそうです。

「美術館を、展覧会を見るだけでなく、ゆっくりと楽しみくつろげる空間にしたい。それが館長のコンセプトでした。その上で参考にしたのが、海外の美術館だったんです」

海外を訪れる機会が多かった現館長の細見良行さんは、美術館設立にあたって各地の美術館を見て回り、大いに参考にされたといいます。

なかでも、特に感銘を受けられた美術館のひとつが、ニューヨーク近代美術館(MoMA)でした。MoMAといえばショップが世界的によく知られています。MoMAのショップは「美術館が選んだセレクトショップ」という形で、世界各地から集めたアーティストの作品やデザイン雑貨を取り扱っており、今ではひとつのブランドとして確立されています。このスタイルを、細見美術館のショップでは参考にしているそうです。

「美術館で所蔵品を通して楽しんだ「和の美」を持ち帰っていただく。美術館から生活に取り入られる「美の提案」をする場所がショップなんです」と、三宅さんは仰っていました。

ただ展示品を見るだけではなく、全体で日本の「美」を楽しみ、くつろぎ、持ち帰る。その一連の流れを、細見美術館は生み出しているのです。その流れこそが、次の世代の作家や優れた日本の美を生み出す下地となっていくのかもしれません。

開館15年を迎えて―美術館をもっと楽しい、身近な場所にしたい。

2013年、細見美術館は開館から15周年を迎えました。もう京都ではすっかりおなじみの存在となっていますが、今後は、展覧会だけでなくイベントにも力を入れて行きたい、と三宅さんは仰っていました。

「今後はイベントを通じて“勉強する”機会、美術館をより楽しむための“学ぶ”場を提供していきたいと考えています。昨年も15周年記念として、美術館や他の場所でも講演会や勉強会を開催しました。幸い、大変好評を頂きましたので、今後に向けてもより積極的に取組んでいきたいと思っています」

また、細見美術館で特に人気イベントといえば展示解説。開館15周年を記念して、開催された細見館長自らが作品解説を行う館長ギャラリートークは、毎回展示室が人で埋まってしまうほどの大盛況でした。
作品への思い出や、個人的な好みなど、コレクターならではの視点でのお話が人気の秘密。
学芸員の解説とはまた違った、身近なコレクターとしての視点を交えたお話は、作品を見る際にまた新たな発見や見方を示してくれます。そして同時に、作品や美術館をより身近な存在に感じさせてくれるのでしょう。

「最近は全国で巡回展をさせて頂く機会も増えてきました。ぜひ日本中に向けて細見コレクションを紹介し、日本の美に身近に触れていただく機会を提供したいですね。また、それをきっかけに、実際に美術館にも気軽にお越しいただければ嬉しいです」

美術館、そして日本の美術をもっと身近な存在にしたい。
細見美術館の挑戦は今後も続きます。これからの新しい展開からも、目が離せません。

(取材にあたっては、広報ご担当の三宅由紀様に、ご高配を賜りました。この場を借りて御礼を申し上げます。)

※館長ギャラリートークは不定期です。年内の開催は予定がありません。


カフェスペースの天井部分にあるのは、和紙インテリア作家・堀江エリ子さんのタピストリー作品「日天月天」。外から見るとアドからちょうど欠けた月のように見える演出もあります。現代の作家作品も、和の空間にマッチしています。

細見美術館

所在地

〒606-8342
京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6−3

開館時間

10:00~18:00(入館は17:30まで)

休館日

月曜日(祝日の場合は開館・翌日代替休)
展示替・館内整理期に不定休

お問い合わせ

電話番号:075-752-5555

FAX:075-752-5955

公式サイト

http://www.emuseum.or.jp/

■料金

展覧会によって異なる

■交通のご案内

【京都市営地下鉄】
* 東西線「東山」駅2番出口より徒歩約7分
【京都市バス】
* 31・201・202・203・206系統 「東山二条岡崎公園口」下車、東へ徒歩約3分
* 5・32・46・100(洛バス)系統 「京都会館美術館前」下車、 西へ徒歩約7分




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