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京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】

京都ミュージアム紀行 Vol.11 半兵衛麸・お辨當箱博物館

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季節を楽しみ場を楽しむ   弁当箱が伝えてくれる日本の食文化

五条大橋のすぐ近くに、歴史を感じる京町家と石造の洋館が隣接して建っています。ここが約320年続く京麸の店「半兵衛麸」の本店です。今回ご紹介する「お辨當箱博物館(おべんとうばこはくぶつかん)」は、本店の2階に開設されています。この博物館は、半兵衛麸が長年収集してきた弁当箱コレクションを展示しているミュージアムです。

―半兵衛麸について

半兵衛麸は、江戸時代中期の元禄2年(1689)に創業しました。麸は京料理や精進料理などに欠かせない食材ですが、当時はお寺や宮中でしか食されることのない大変貴重なものでした。京都御所の食事を預かる職「大膳亮(だいぜんのすけ)」を務めていた半兵衛麸の初代・玉置半兵衛は、麸の製法を宮中で学び、「萬屋半兵衛」の名で市中での販売を始めます。これが「半兵衛麸」のはじまりです。以来300年以上にわたりお麸を作り続けた半兵衛麸は、京都ではすっかりおなじみの存在です。現在では各地の百貨店などにも商品を卸しているほか、宮内庁の御用として、皇室にお麸を収め続けています。

―資料展示室

半兵衛麸本店1階には、半兵衛麸320年の歴史を物語る文献資料の数々や、実際に麸作りに使用する道具などが展示されています。 かつて麸は生地をこねる際に足で踏んで作る方法が一般的だったそうです。しかし半兵衛麸は宮中に納める麸を作っていたため、天皇の口に入るものを足で踏むわけにはいかないとして、手で練られるような麸作りの道具が使用されました。 また、文献資料の中には侘び茶の祖・千利休の茶会記もあり、麸が茶道の食材としても使用されていたことを知ることができます。利休は麸が大変好物だったそうで、100回ほど開催した茶会のうち、70回近くも麸を使用していたことが記録されています。その際に出されていたものは「ふのやき」と呼ばれる麸の生地をクレープ状に平たく伸ばして焼いたお菓子だったようです。

麸を寝るための道具や、麸を納品する際に使われていた容器、歴史と技術を物語る受賞メダルなども展示されています

半兵衛麸の店舗精神には江戸時代の学者・石田梅岩の思想「先義後利」が大きな影響を与えています(真ん中の掛軸)お客さんに義理を果たすことが先で、利益は後からついてくるもの。商人としての基本の心として、創業時から大事にされてきました。

本店の建物は昔ながらの京町家で、特有のうなぎの寝床(入り口が狭く大変奥行きがある建物構造)に通り庭、昔ながらの釣瓶井戸(つるべいど)におくどさん(台所)などが現在も残されています。また、店内には螺鈿細工の家具やアンティークの調度品なども置かれており、こちらも見どころです。

―お辨當箱博物館について

一方、お辨當箱博物館は本店に隣接する洋館の2階に2009年に開設されました。 弁当箱を専門に収集しているコレクターは日本でも数は多くないのだそうです。また、弁当箱自体は工芸品コレクションの一部として展示されることはありますが、まとまった数を収集し、常に展示公開している施設はほかにありません。全国的に見ても大変ユニークなミュージアムです。

弁当箱は初代の頃から収集が行われているそうで、一部戦時中の混乱が影響して散逸したものもあるものの、近年の収集品も含め、半兵衛麸が創業した江戸中期から後期、そして近代までの品がそろっています。展示室では約50点ほどの弁当箱や関連資料を見ることができ、季節ごとに随時入れ替えて公開されています。

展示案内

展示室にはさまざまな弁当箱がジャンルごとに大まかにまとめられて展示されています。

今でも目にする漆器の弁当箱は安土桃山時代の頃に登場し、茶会や花見の文化と結び付いて発展していきました。武家や公家といった上流階級の人々は豪華な装飾が施された重箱に数名分の料理を詰め合わせ、宴席に持ち込んで客たちと共に楽しんでいたそうです。
江戸時代になると弁当箱の文化は一般の人々にも広まりました。特に裕福な商人たちは、度々開く宴席のために財を投じ、こぞって豪華な弁当箱を作らせました。客に見せるものである弁当箱は、その美しさが持ち主のステータスシンボルとも捉えられるようになっていたためです。

展示室には公家や商人たちの用いた美しい弁当箱が多数展示されています。黒の漆地に蒔絵や螺鈿細工、金粉などで繊細な装飾が施されたその姿はまさに芸術品の域です。
また、花見には桜、夏の蛍狩りにはきらきらと光る蛍、川遊びには流水、秋の行楽には紅葉や秋草、正月の祝いの席には鶴などの吉祥紋など、デザインには季節感を感じる工夫も随所に施されています。人々はまるで服を着替えるように、その場にあわせたデザインの弁当箱を用いていたのです。

夏に使われた陶器製の弁当箱。波文様や亀の絵などデザインも涼しげです

蒔絵で桜の花と流水を描いた「花見弁当」。繊細な文様や艶やかな漆に職人の高い技術を感じます。こちらは公家の人々が用いたもの

秋らしい紅葉の文様をあしらった弁当箱。壁にかけられた紅葉狩りの様子を描いた染物も江戸中期の大変歴史あるものです

ハンディサイズの手提弁当。箱が観音開きになっていて、弁当箱と皿や箸、水筒全てを小さく収めることができます。随所にあしらわれた螺鈿細工もかわいらしい一品

形もさまざまで、オーソドックスな四角いものから、丸型、六角、扇形など色々がです。また、ただ箱を重ねるだけでなく、段重ねにした箱と人数の取り皿や箸など道具一式をまとめられる収納ケースがついたものや、観音開きのように開くことができる仕掛けつきのもの、持ち運びに便利なサイズの手提げ弁当もあり、機能性にも大変優れているのが見て取れます。

また、どの弁当箱にも必ず水筒がついています。宴席で使用するものだったので、酒が入れられるものが必要だったためです。徳利や瓶型のほか、かさばらないように箱のひとつをそのまま水筒にしてしまったコンパクトなものもあります。箱に水筒をしこんだ弁当箱には、角に小さな穴が開けられています。注ぐ際には、その場で入手した笹の葉などを穴に指して注ぎ口にしたのだそうです。

公家など上級階級の人々が用いた弁当箱はより文様が繊細になり、全体に上品な印象を受けます。面白いのは携帯用の鍋がついた弁当箱。漆塗りの外箱にはお湯が入れられるような作りになっています。お湯の入った箱の上に鍋をセットすれば、鍋が湯煎で温められるという仕掛けです。外でも温かいものを楽しむ工夫はほかにもあり、野外で熱燗を楽しむための、炭を焚いて火を起こせる携帯コンロのような装置がついたものもあります。


手前の丸いふたがついた物が携帯用の鍋セット。蓋の表面には鶴、湯煎用の箱には松が蒔絵で描かれ、持ち運びの際に指を入れる穴は山の形になっています。


飲兵衛さん御用達?の弁当箱たち。上段真ん中はミニサイズの熱燗用携帯コンロで、穴の部分には炭の代わりに松ぼっくりを入れて使ったのだそうです。下段右は大型の野外用熱燗セット。こちらは裕福な商人が宴席の際に従者に運ばせて持ち込んでいたようです。下段左は全面螺鈿細工のきらびやかな弁当箱。弁当箱が商人の財力を示すものでもあったことがわかります

また、展示室には弁当箱と共に、実際に弁当箱を持参して楽しむ人々や、展示されている弁当箱のデザインに関連した風景などを描いた屏風、掛け軸なども展示されています。目の前の弁当箱とあわせて見るとよりいっそう当時の人々の暮らしと弁当の深いつながりが感じられます。


加茂川の上に川床を出して涼を取る人々を描いた江戸時代の「納涼巻絵」。よく見ると展示品と似た道具を使ってお酒を楽しんでいる人も描かれています。


絵の隅に、毛氈(もうせん/現在のレジャーシート)を敷いて野点(野外での茶席)を楽しんでいる人の姿が見えます。娯楽の少なかった当時の人にとって、野外で飲食を楽しむことは大きな楽しみでした。

職人技の極地 ― 変り種弁当箱

より来客をあっと驚かせるようなものが欲しい、と望んだ裕福な商人たちは、職人に惜しみなく財を投じてより趣向をこらした弁当箱を作らせました。
その結果生まれたのが、ユニークな変り種の弁当箱たちです。
展示室の一角に集められた変り種の弁当箱は、一見すると弁当箱とは思えないようなものばかり。豪華な螺鈿細工が施された船の置物は、屋形の部分が重箱になっており、舟を漕ぐ櫂(かい)がお箸になっています。ほかにも、まるでパズルのように小さな小皿や椀に分解することができる茶釜型や家型の弁当箱、食事のあとはそのまま将棋や碁が楽しめる盤型の重箱など実に多彩です。遊び心にあふれた弁当箱はさほど美術に詳しい人でなくても、見ているだけで楽しい気持ちにさせられます。
また、通常漆器は素地作り、デザイン、塗り、装飾、と各工程を分業して制作されますが、弁当箱の場合は、仕上げまでのすべての工程を一人の職人が手がけることが多かったそうです。変り種の弁当箱は、職人にとっても、自らのセンスと高い技術を人々に示す意味を持っていたのでしょう。


碁盤型の重箱。見た目はまさに碁盤そのもの!


器、皿、杯、水筒に分解できる茶釜形弁当箱。


まるでパズルのようです。外側の塗装も鋼の模様がリアルに再現されていて、一見漆器とはわかりません。

店の歴史と格を物語る ― 賜り物

展示室の一角には、「賜り物」と呼ばれる品を集めたスペースがあります。これは他のお弁当箱とは異なり、天皇家や公家、宮内庁から半兵衛麸へと下賜された品々です。
賜り物の品々は、蒔絵の重箱のほか、染付の皿や椀、朱塗の杯、御膳などがそろっており、そこかしこに皇家宮家を示す菊の御紋や、五七の桐紋が施されています。
通常ではまず手に入れられものではありません。江戸時代から御所の御用を長く務めてきた半兵衛麸の歴史と格を示すものと言えます。


こちらは竹製の弁当箱。大きな竹をそのままくりぬいたものなど、形や素材感を生かしたつくりになっているのが特徴です。どこかアジアン雑貨のような雰囲気の籠状のものもあります。


一人旅用の弁当箱。携帯性を考え、コンパクトに収まるように工夫されています。さりげない根付もおしゃれ


金属製の一人用弁当箱。なんと野外で煮物や湯沸しもでき、使い終わったら入れ子で全て水差しに入ってしまう優れもの!

―弁当箱から日本の食文化を後世に伝えたい

「見た目の面白さや季節感も含めて「食」の場を演出し、楽しむ。それは日本特有の食文化だと思います」と、当日ご案内いただいた本店店長・苅谷さんは仰っていました。
食べ物を弁当箱に詰めて持ち運ぶ習慣は他の国にもあります。しかし弁当箱を単なる容器としてではなく、食事や外出の場を演出する特別なものとして捉える感覚は日本のほかではあまり見られません。実際、海外からの観光客の方は、日本の弁当箱のあまりの多彩さや美しさに大変驚かれる方が多いそうです。
現在では、食材も旬を問わず同じものが年中手に入るようになり、普段の食生活で「季節感」を意識する場面はあまり多くないかもしれません。個食化も進み、大人数で重箱を持って外出するということも、器を時期に合わせていくつも使い分ける、ということも少なくなりました。
「「食」の字は、「人」に「良い」と書きます。人にとって良い効果をもたらすのが食。生き物は必ず物を食べますが、調理方法や味付けを気にするのは人間だけです。そして、盛り付け方や器、季節感にまでこだわりを持つのは日本人独自の感覚でしょう。その大切さを、お弁当箱を通じて後世へ伝えていきたいですね」と苅谷さん。
食べるという場面を大いに楽しみ、季節の移ろいを味わう。昔から受け継がれてきた日本の心が、弁当箱には凝縮されています。つい忘れてしまいがちな豊かな伝統文化の大切さを教えてくれるお辨當箱博物館。一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。

(当日は専務の玉置様、本店店長の苅谷様、スタッフの皆さんにご協力を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます)

※ 半兵衛麸本店には茶房が併設されており、こちらでは麸やゆばを使った料理「むし養い」を楽しむことができます。
(昼のみ、11:00~16:00/入店は14:30まで/予約制)

※ 姉妹サイト「京のおばんざい」では、半兵衛麸監修のお麸を使ったレシピを紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。

半兵衛麸・お辨當箱博物館

所在地

〒605-0903
京都市東山区問屋町通五条下ル上人町433

開館時間

9:00~17:00

休館日

年末年始のみ休業

お問い合わせ

TEL:075-525-0008
FAX:075-531-0748

公式サイト

http://www.hanbey.co.jp/store/bento/

■料金

見学無料

■交通のご案内

・京阪電車「清水五条駅」駅から徒歩1分
・阪急電車「河原町」駅から徒歩15分
・京都駅(JR、地下鉄、近鉄)車で5分
※専用駐車場はありません




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