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【レポ】チェコ・デザイン 100年の旅(京都国立近代美術館)

2020/06/23

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新型コロナウイルス感染拡大防止に伴い長く臨時休館していた施設も、緊急事態宣言の解除後、少しずつ再開。展覧会の準備が整えられたままだった展覧会も、続々と幕を開けています。

今回はそのひとつだった、京都国立近代美術館で開催の「チェコ・デザイン 100年の旅」展の様子をご紹介します。

「チェコ・デザイン 100年の旅」展は、その名の通り、東欧の国・チェコのデザイン史100年を作品を通じて辿っていくという企画展です。
世界的に優れたデザインを多数送り出してきたチェコ。これまでもチェコ・キュビスムなどそのデザイン様式に注目した展覧会は行われており、京都国立近代美術館でも以前「チェコの映画ポスター展」を開催していますが、今回の展覧会では20世紀初頭から21世紀の現代までの「100年」という長いスパンでそのデザインの変遷を辿るものです。

というのも、近代における100年はチェコにとって激動の時代であり、社会情勢が当時のデザインに大きな影響を与えていました。100年という単位で見ることで、そんな歴史的な背景とデザインの関係性を知ることができるというわけです。

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会場デザインは、木板とプラスチック板を組み合わせた、まるで掲示板を思わせる空間構成が特徴です。今回展示企画を担当された研究員の本橋さんは元々建築史を学んでおり、そのスキルを活かして自ら図面を作成したとのこと。
調査を進めていた際に、
チェコでデザイナーと建築家、アーティストがコラボレーションして展覧会の空間デザインを作った例を知り、今回の展覧会ではそれを意識して空間構成に取り組まれたそうです。

また、デザインの展覧会ということで、文字のあしらいもタイポグラフィを意識。作品の配置構成も最初からグラフィックデザインを意識して取り組まれたそう。会場の空間全体が一つの「デザイン」として落とし込まれています。

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もう一つの特徴が、作品の解説やクレジットの表示方法。
普通、作品と同じケース内のすぐ横や、視界に入りやすいガラスケース上に設置されていることが多いのですが、今回は展示ケースの前に木枠を設置し、そこに解説やクレジットを書いた紙を貼ることで、作品と解説・クレジットの位置をはっきりと分けています。作品のそばには解説と紐づけた番号だけ。

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展示品と解説パネルを近くに並べると、いかにもこれは美術品という感じに見えてしまったり、先に解説の文字情報を目にしてしまってそちらの印象が強くなってしまう可能性があります。今回はデザインの展覧会なので、まずはデザインそのものを、身近なものとして見て欲しいという考えから、敢えて解説と作品の位置や空間を分けた構成としたそうです。

まずはそのまま作品を見て、それから近くの番号をヒントにクレジットや解説を確認するのが今回の鑑賞の流れ。作品を見た瞬間に感じる「これは何だろう?」「どうやって使うのだろう?」「このデザイン素敵!」といった素直な気持ちを大切にした展示構成です。

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展示内容はポスターから陶磁器などの食器類、家具、電化製品、映像・アニメーション、書籍、玩具まで実に多彩。各時代のチェコの生活に息づいたデザインに触れることができます。現代でも売られていたら思わず欲しくなってしまうようなものも沢山!

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主に時系列順、各コーナー枚に食器、紙物などジャンルがまとめられており、章毎に各時代のデザインの傾向や特徴が作品を通じて
わかるようになっています。共通点を探しながら見るのもおすすめです。
(アニメーションは別ブースになっており、数作品の短編アニメが連続で上映されています)


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特に印象深かったものが、椅子。
展示は主に時系列順、時代ごとに章がコーナーとして区切られているのですが、その冒頭にほぼ必ず、一段高いところに椅子が配されています。

本橋さん曰く、「椅子はその時代を表す一種のアイコンであり、各章における"顔"として考えました。なので、展示リストの順番に拠らず、敢えて冒頭に置いています」とのこと。

椅子は身体に近い物であるがゆえに、機能性が求められるアイテム。同時に調度品であり、装飾性やデザイン性も求められます。
この機能性と装飾性の両立を目指してのせめぎあいは、近代のデザインにおける共通事項。椅子には近代のデザインに求められた要素が詰まっている、椅子を一つ見るだけでその時代のデザインの傾向や様式を知ることができるというわけです。

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例えばアール・ヌーヴォー時代の椅子は東洋の椅子を思わせる姿にひじ掛けや背もたれの曲線的な装飾が特徴的ですが、チェコ・キュビスムの時代には直線的な板状のパーツを組み合わせた幾何学的なデザインになります。

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更に時代が進むと、金属素材を取り入れたり、装飾性をそぎ落とした機能性重視のシンプルなスタイルになったり、折り畳みできるコンパクトさや背もたれの形に遊び心を取り入れたり。20世紀末になると、プラスチックなど新たな素材を用いたり...

椅子を通して、各時代のチェコのデザイン傾向を確かなイメージとして見ることができるようになっています。

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各椅子の個性や特徴が最も表れるフォルムをより感じられるよう、背後のプラスチック板にシルエットが映るように遠くからスポットライトのように光を当てるなど、ライティングも工夫されています。背後に回れば、作品の背景に椅子の影が透けて見える...という効果もあるそう。各章をまず椅子から入って、他のデザインを見ていく...という流れが演出されています。

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こんな感じで後ろの作品のシルエットが...!

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そして臨時休館中にもオンラインイベントで紹介されていた玩具たち!これは子どもも大人もつい目が釘付けになってしまいます。
チェコにおいておもちゃ作りの歴史は古く、19世紀末~20世紀には多くの芸術家も玩具から発想を得た作品を作ることも覆ったとか。
どれも可愛らしさと温もり、そしてどこか懐かしさを感じます。抽象的なフォルムの身体デザインや鮮やかな色合いは、モダニズムの影響を受けたものだそうです。玩具にもデザイン史の一端が見えてきます。

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使われる素材も、時代を経るとプラスチック製になったり、兵隊ではなく動物や子どもなど、モデルにも社会情勢や時代のトレンドの変化を感じさせます。
少し姿勢を低くして見ていると、本当になんだか話しかけられているような気持ちに。

他にも、精巧に作られたドールハウス用のキッチンセットや色鮮やかな絵本なども展示。フォトスポットも有るので、玩具たちと一緒に記念撮影もできます!

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なお4階では、大阪の中之島美術館のコレクションを通し、チェコのブックデザインに注目した関連展示も開催。

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こちらは主にデザイナー別に作品がまとめられているので、それぞれのスタイルを見比べて楽しむことができます。お気に入りのデザイナーを探してみては?


チェコという国は小さく、周囲をドイツやフランスなどの大国に囲まれ、絶えず欧州の情勢と大国の動きに翻弄され続けた歴史を持ちます。

この展覧会で
展示されている品々は、その激動の時代の中を乗り越えてきたもの、そこで培われたものから新たに生まれたものたち。そこには、各時代のチェコの様々な事情が内包されています。

元々使っていた素材が戦争の影響で手に入らなかったために別の素材を用いた製品が発展したり、社会主義政権下を反映して抽象・リアリズムが洗練されていったり、制約の多さや大量生産への反発から新たなデザインが生まれたり...
刻々と変わる時代の変化をまるで鏡のように映し出すデザイン。それはデザインというものが人々の生活に寄り添った存在であるからこそなのでしょう。

同時に、世界の人を魅了し続けるデザインを時代を超えて生み出し続けるチェコという国の、生活の中に素敵なものを取り入れることを忘れない姿勢も感じることができたように思いました。

(そして、こんな素敵なデザインの品々に囲まれて生活したい気持ちもむくむくと沸き上がりました...笑 )

チェコ・デザイン100年の旅(京都国立近代美術館)

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