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【内覧会レポート】レスコヴィッチコレクション 広重・北斎とめぐるNIPPON(細見美術館)

2019/08/26

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8月27日から開催される「レスコヴィッチコレクション 広重・北斎とめぐるNIPPON」(細見美術館)の内覧会に行ってきました!

開催のきっかけは、昨年パリで行われた「ジャポニスム2018」の一環として開催された琳派展に細見美術館が協力した際、現地で今回の展覧会の出品者であるジョルジュ・レスコヴィッチさんにお会いしたご縁とのこと。ちょうどICOM(国際博物館会議)の京都大会が開催されるこの機会にあわせ、その良質なコレクションを日本で紹介しようということで企画されたそうです。

細見美術館としても、巡回展ではなく単独で海外のコレクターと直接やりとりし企画した展示は初とのこと(展示内容の確定までには紆余曲折があったとか...)

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まずは第一室。
こちらはレスコヴィッチコレクションの概観を紹介する名品展的位置づけ。鈴木晴信、東洲斎写楽、葛飾北斎、そして歌川広重と主だった有名絵師の作品が並びます。

今回の展覧会では、作品はあえて額装にはせず、作品一点一点に対峙してじっくりと楽しめる形の展示構成がポイント。仰々しくなく、身近に浮世絵を感じ愛で楽しんで欲しい、色味の美しさや写った版木の木目など版画ならではの面白さを感じてもらえるように、という試みだそうです。

浮世絵はしばしば連作、シリーズとして制作されたものがありますが、レスコヴィッチさんはそのようなシリーズ物はできるだけ一通りセットで揃えるように収集されているそう。

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例えば、こちらの葛飾北斎の連作「詩釈写真鏡」は全10枚からなるシリーズ。全作品がコレクションに収められており、展覧会では前後期で半分ずつ紹介される予定です。

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また、写楽の絵は突然画壇に登場した当時の作品から代表作の大首絵までなかなかの数を一度に楽しむことができますよ。こう並んでいると役者のブロマイドポスターっぽさが増して見えますね。

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第2室は今回の展示のメインである「木曽海道」シリーズを中心に展示されています。
こちらはシリーズ全作品が揃っているうえ、どれも初摺(所謂初版。版木を作って最初に制作されるもので、原画を手掛けた絵師の意向がよく刷りに反映され、版木も傷んでおらず質が良いとされる)であるという、レスコヴィッチコレクションを代表する大変貴重なものです。
街道をテーマにした浮世絵のシリーズとしては「東海道五十三次」に比べると知名度は落ちますが、「木曽海道」は大変すばらしい風景浮世絵と評価されています。

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前期で展示されている作品は、日本橋の次、板橋から大津まで。
奇数偶数を前後期で入れ替えて展示されます(展示されていない間の作品は小さなパネルで紹介)

この「木曽海道」、歌川広重と渓斎英泉、二人の絵師の手による作品となっています。
どうやらシリーズを企画した版元は、元々広重に絵を依頼しようとしていましたが都合がつかなかったのか、代わりに英泉に依頼を持ち込んだのだそう。その後途中で版元が変わるなど紆余曲折あり、最終的には当初依頼される予定だった広重が完成させました。
そのため、広重と英泉の作品が混在した状態になっています。

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初擦と後擦が両方あるものは、こんな感じで縦に並べて展示されているので、署名の有無など最初と後で作られたものの違いを楽しむことができます。

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超売れっ子だった広重に比べると、当時の英泉の評価(特に人物表現)はそこまで高くなかったようですが、英泉担当時の初擦は大変美しく、広重のそれにも劣りません。この作品を通じ改めて評価も高まっているとか。もちろん、広重の描く人物表現の面白さは素晴らしいもの。どれが英泉作・広重作か考えながら楽しむのもよさそうです。

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広重の他の風景作品も紹介されています。
こちらは広重の代表作「名所江戸百景」。手前に大きく人物を併せたり、普通の名所図にはしないような構成が見られるところが面白い作品です。広重が絵の中で特に注目させたいポイントはどこでしょう...?

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また、風景画といえば葛飾北斎。

同じ展示室内にある「諸国名橋奇覧」は全国各地の有名な橋をテーマにしたものですが、橋の描き方や構図がどこか図形的・幾何学的だったり、北斎の工夫を見ることができます。
絵師ごとの個性や、得意分野を探しながら見るのもよさそうですね。
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第三室にも、北斎の「諸国滝廻り」や広重の上方三部作や「京都名所之内」など、全国各地の名所を描いた作品が並びます。
現代でもよく知られているスポットや、各地の地名が登場するので、自分の出身地や旅で訪れた場所など知っているところを探してみるのも楽しいコーナーになっています。

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浮世絵師の描く名所図会は、絵師自身が現地を訪れて見た景色を描いているとは限りません。
基本的には、既にある絵や資料などをもとに、そこから想像を膨らませて描いたもの。なので現実にはあり得ないような位置に山や川があったり、大きく誇張されていたりします。
レスコヴィッチさんはこのことを踏まえ、浮世絵の元ネタになった資料もあわせて収集されています。

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展示室には京都の名所を筆者が自ら足繁く廻り丁寧に記述した「都名所図会」が一緒に展示され、浮世絵と対応するページを同時に鑑賞することができます。
広重らが資料のどこから発想したのかを比べて見るとより楽しめますよ!

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今回、テーマが「旅」ということで、日本各地を旅行しているような感覚で気軽に楽しめる浮世絵展となっていました。
会期中には茶室で日本各地の銘菓を週替わりで楽しめるイベント(登場するお菓子は美術館のHPで紹介されます)や、ICOM京都大会に合わせたナイトミュージアムなども予定。
元々浮世絵がお好きな方も、普段美術になかなか触れる機会がない方も、足を運んでみてはいかがでしょうか?

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ちなみに今回のショップスペースはこんな感じ。
広重の作品を多数展示している岐阜県の中山道広重美術館のグッズも登場しています。おじさんの顔がいっぱいのトートバッグや、ゆるーい絵がすてきなファイルなども♪

開催は10月20日まで。
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