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【レポ】橋本関雪生誕140周年「KANSETSU 入神の技・非凡の画」

2023/05/24

何でも描ける!非凡自在の画家・橋本関雪の世界へようこそ。

大正〜昭和期の京都画壇を拠点に活躍した日本画家・橋本関雪(1883-1945)。その生誕140周年を記念した大回顧展が開催されています。これまでも10年ごとに橋本関雪の大回顧展は開催されてきましたが、意外なことに京都の美術館での開催は初とのこと。しかも今回は福田美術館と嵯峨嵐山文華館、そして白沙村荘 橋本関雪記念館の3館合同展示!嵐山エリアと東山エリア、京都の東西を跨いでの大規模展となっています。
出展作品も、各館の所蔵作品から、全国各地の美術館の所蔵作品、約80年ぶりに公開される再発見作品、滅多に一般公開されない個人蔵の貴重な作品まで勢ぞろい。どっぷりと関雪美術のフルコースに浸れる展覧会になっています。
今回は、その展示の様子を各会場ごとにご紹介します。

※本記事の内容は、4月の取材時の内容に基づきます。観覧時期により展示内容が異なる場合がございます。予めご了承ください。

橋本関雪ってどんな人?

まずは、橋本関雪がどんな人物であったのかその略歴を簡単にご紹介します。

橋本関雪は明治13年(1883)、兵庫県に生まれました。儒者の父の影響で幼いころから漢詩や漢文に親しんだほか、絵も習い早くから才能を発揮します。17歳の頃に画家を本格的に志し、20歳の頃に京都画壇の重鎮・竹内栖鳳の画塾「竹杖会」に参加。近代の画壇を代表する数多くの日本画家たちとも交流を持ちました。
日本史に基づく歴史画にはじまり、大正期には中国の南画(文人画)をの再評価を行い、昭和期には四条派の写実性に近代日本画の様式を取り入れた動物画などで高く評価されます。伝統的・古典的なモチーフを近代的な感覚と多彩な画風で描くそのスタイルは「新古典主義」とも呼ばれています。
大正5年に自邸「白沙村荘」を建てて以降は京都を拠点に創作活動を行っており、生涯で最も長い時間を京都で過ごしました。

《嵐山》第1会場:福田美術館

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まずは嵐山第1会場の福田美術館へ。ここでは、主に関雪が文展に出品した名作・代表作を中心に展示しています。

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第一室の冒頭に登場する《達磨大師》(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵)は、関雪19歳の頃の作品。まだ竹内栖鳳門下に入る前の若書きです。よく見ると絵に横筋のようなものが見えますが、実は畳の跡なのだそう。畳の上に紙を敷いて、その場で即興で描いた作品なのです。画才溢れる若者としての関雪の姿を今に伝えています。

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《後醍醐帝》(福田美術館蔵/前期展示)は、南北朝時代、足利氏との争いに敗れた後醍醐天皇が女性の姿に身をやつして都落ちしようとする場面を描いた六曲一双の大作です。御所を出ようとする帝と、それを見つめる人々による張り詰めた空気。その中で右隻に描かれた馬だけが激しく動き暴れています。静と動の対比と群像劇の描写と構成が実に見事です。(《後醍醐帝》は後期は白沙村荘 橋本関雪館にて展示)

関雪は馬に対して大変思い入れがあったそうで、頻繁に馬を作品の一部として登場させたり、人が馬を世話する姿を主題とした作品をパターンを変えていくつも描いています。展示作品に描かれたさまざまな馬たちの姿を見比べてみるのもおすすめです。

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関雪が最も好んだモチーフのひとつが、幼いころから慣れ親しんだ漢詩の世界。文字に込められた感情表現や情景を、巧みにビジュアルとして描き出しています。
例えばこちらの《失意》(京都国立近代美術館蔵/前期展示)は、唐時代の詩人・杜甫が、かつて都で役人をしていた頃に宮廷で活躍していた楽士・李亀年と、都から遠く離れた江南の地で出会ったことを読んだ詩『江南逢李亀年』に取材したもの。既に都は戦乱によって荒れ果てており、二人は華やかだった都での過去を懐かしみながらも、喪われたものを思って哀しげな表情を浮かべています。

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《琵琶行》(白沙村荘橋本関雪記念館蔵/前期展示)は唐時代の詩人・白居易が船上で家が没落し流れの琵琶弾きに身を落とした女性と出会った場面を描いたもの。こちらも過去の思い出と今の落ちぶれた我が身を思ってか、女性が悲しげに俯く表情が印象的です。
《失意》や《琵琶行》を描いていた頃、関雪は文展に大作を積極的に出品するものの、なかなか評価されず悩んでいたといいます。才能がありながら結果が出せなかった時期の関雪の苦しい心情が反映されているようです。

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関雪は美人画も多く描いていますが、なかでもユニークな作品が、中国大陸に暮らすウイグル族の王妃「香妃」を描いた《香妃戎装》(衆議院蔵/前期展示)です。鎧兜に身を包み剣を携えた姿がなんとも勇ましく、足元にたたずむ白い洋犬とも相まって、まるで西洋の肖像画のような雰囲気も感じさせます。
ちなみにこれは、衆議院の議長室に現在も飾られている作品。普段は限られた人の目にしか触れないものですが、今回の展示のために特別出品されました。滅多に会えない、この機会に見ておきたい一品です。(後期は白沙村荘 橋本関雪記念館で展示)


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第二室には代表作の《木蘭》(白沙村荘橋本関雪記念館蔵)が登場。大正7年、関雪が第12回の文展で特選を受賞し永久無鑑査(審査を伴わず文展に出品ができる)となり、超一流の画家として認められた記念碑的な作品です。題材は中国の民話で、戦が起きた際、老いた父の代わりに男装して戦場へ出た娘・木蘭が、戦を終えて帰郷する途中の場面を描いています。全体に抑えた色彩で描かれた景色の中で、木蘭の纏う濃紺の服と横に置かれた兜の赤い飾りがコントラストとなって鑑賞者の目を引きます。

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隣の《猟》(白沙村荘橋本関雪記念館蔵)は、《木蘭》の少し前、大正4年に文展で2等賞(当時1等は選出されなかったため、実質最高賞)を受賞した作品です。馬にまたがった猟師たちが獲物を追う場面をダイナミックに描いています。この作品のユニークな点は、普通の屏風とは逆に左から右へと場面が進む構図にしたところ。必死に逃げる鹿と兎、それを追う馬を駆り弓を番え追いかける猟師たち。屏風の横長の画面効果も相まって、とてもスピード感を感じます。

第二室では、動物画も数多く展示されています。関雪は大正期までは動物そのものを主体とした作品をむしろ避ける傾向があったそうですが、昭和期に入ると数多く描くようになったそうです。
その大きな転機となったのが《玄猿》(東京藝術大学附属美術館蔵/後期、白沙村荘 橋本関雪記念館にて展示)。1932年、関雪は愛妻を突然亡くし、ショックで一時は画家を辞め筆を置こうと考えるほど思い詰めていたそう。それでも長年支えてくれた妻を想う気持ちから再び筆を執り、寄り添う2匹のテナガザルの姿を描きました。その猿が非常に評判となったため、一時関雪は「猿の画家」と言われるほど数多くの猿の絵を依頼され、盛んに描くことになりました。

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今回の展覧会では複数の猿の絵が展示されており、さまざまな猿の姿を見比べることができます。関雪が描いた猿は多くはクロテナガザルですが、ニホンザルやシロテナガザルなど種類を変えたり、細かに表情の変化をつけることで多彩なバリエーションを持たせています。墨の濃淡やにじみ、筆質を巧みに使い分けた触感まで伝わる毛並みの表現も見どころです。

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写真右端の《俊翼》(福田美術館蔵/前期展示)は海の上で翼を広げ勇壮に飛ぶ大鷹がリアルに描かれています。この作品は第二次世界大戦中の展覧会で展示されて以来、長らく行方不明になっていたそう。今回の展示に際しての調査で再発見され、この度公開となりました。(後期は白沙村荘 橋本関雪記念館で展示)

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第三室には、関雪の戦争というものへの眼差しを感じる作品《宿舎の灯》(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵)が展示されています。関雪は日露戦争の際、従軍画家として他の文化人たちと共に戦地へ赴きました。その際の膨大なスケッチを基に描かれたこの作品は、疲労の滲む暗い表情で地面を見つめる兵士、絵の向こうの鑑賞者を伺うような馬の視線が印象的です。
関雪は若いころからこのテーマに何度も挑み、晩年も展覧会に向けて改めて制作を試みましたが、満足いく出来にならなかったのか断念してしまい、完成作は若書きのこれ一枚しか残っていないそうです。実際に見た戦地のリアルを描き出そうとした関雪の強い思いを伺わせます。

《嵐山》第2会場:嵯峨嵐山文華館

kansetsu140_repo3 (2).jpg続いては徒歩5分ほどのところにある嵐山第2会場、嵯峨嵐山文華館へ。こちらの会場では普段の関雪展では紹介されないようなちょっと変わった作品や珍しい作品を中心にラインナップされています。

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壁に展示されている扁額に描かれた花の絵《四季花卉》(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵)は、なんと日本家屋の長押の一部。関雪が画家としての道を歩み始めた最初期、17,18歳頃の作品だそうです。

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その向かいに展示されている絵巻物《前田又吉追善茶会画巻》(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵)も関雪18歳の時の作品。前田又吉(ホテルオークラの前身・常盤ホテルの創業者)の七回忌に行われた追善茶会で、親族が前田氏の遺愛品の展示を行った際の様子を記録として描いたものです。細部まで丁寧に描写された画力の高さに驚かされます。

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関雪の人となりが伝わる面白いエピソードのある作品も。こちらの大きな扇面貼交屏風(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵/前期展示)は、関雪と同時期に活躍した日本画家・菊池契月との合作。漢詩は関雪が書き添えたものです。当時の京都画壇を代表する画家二人の合作という大変豪華なものですが、どうやら注文主はその話題性ばかりを目的に依頼をするような人物だった様子。関雪はそれが気に入らず、依頼主が漢詩を読めないことを見越して「こいつは金はあるが教養がない」という意味の漢詩を書いたのだそうです。関雪の絵に対するプライドが滲みます。

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2階の広間には、大作の屏風絵2点を中心に様々な作品が展示されています。《前赤壁》(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵/前期展示)は六曲一双の金屏風。中国北宋時代の詩人・蘇東坡の漢詩をテーマにしており、左隻には蘇東坡の詩の全文を配し、その上に上る月を右隻にいる蘇東坡が船から眺めています。文章と絵の配置のバランスが絶妙です。
金屏風は水を吸いにくい金箔の上に描くため、墨や絵具の滲み具合を調節するのが難しく、その上高価で失敗してもやり直しがきかないことから、描き手に技術と迷いなく筆を進める度胸が求められます。しかし関雪は他の画家に比べ金屏風を多く手掛けたといいます。自分はできる!と己の実力に関雪が自信を持っていたことが伝わります。

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反対側に展示されている《閑適》(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵)も漢詩がモチーフの作品ですが、こちらに書かれている漢詩は「洗硯魚呑墨 煮茶鶴避姻(硯を洗えば魚は墨を飲み、茶を烹れば鶴は煙を避ける)」の一行のみ。こちらは北宋の詩人・魏野の漢詩『書友人屋壁』の一部だそうです。
漢詩の世界を描いた作品は、「その漢詩を知っている」ことが前提となるため、内容を読み解くのが少々難しくなっています。そのため、あえて一部だけを引用することで、関雪は「モチーフになった漢詩を読んで作品を見てほしい」というメッセージが込めたのかもしれません。

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また、関雪の勉強熱心さを伝える作品も展示されています。こちらは江戸時代の絵師・原在中の描いた《百鬼夜行図巻》を関雪が模写したもの(白沙村荘 橋本関雪記念館蔵/前期展示)。漢詩や南画、近代の日本画、そして古典的な日本画と、ジャンルを問わず自分の絵に必要なものは学び取り入れる姿勢が感じられます。

《東山》白沙村荘 橋本関雪記念館

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白沙村荘 橋本関雪記念館は、関雪が生涯最も長い時間を過ごした自邸兼アトリエ。建物から庭に至るまで、全て関雪自らが設計に携わったこだわりの場所です。いわば、橋本関雪"最大の作品"です。

関雪は生前から自邸を一般に公開する計画をしており、今回展覧会が行われる美術館も元々構想に入っていたそうです。美術館自体は2013年に建てられましたが、その際もベースは関雪が生前に書き残していた図面を用いたので、展示空間の配置は関雪の設計通りになっています。関雪の思い描いた空間で、じっくりと関雪の作品に浸ることができます。

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展示は1階・2階に分かれており、1階は主に他館からの貸出品を含む代表作を紹介しています。前期の見どころは島根・足立美術館の所蔵作品。

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注目作品のひとつがこちらの《玄猿白鶴図》(足立美術館蔵)、関雪が得意とするテナガザルと鶴を組み合わせた屏風です。猿たちを描いた右隻は長谷川等伯をはじめとする長谷川派の描き方、左隻の鶴は京都・大徳寺にある中国の画家・牧谿筆の《観音猿鶴図》をモデルにしているそうです。梅は琳派をベースとしており、普段の関雪の描き方よりも装飾的になっているそう。過去の先達たちの作品に学び、多彩な描き方を取り入れる積極的な姿勢が現れています。

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《樹上孔雀図》(足立美術館蔵)は四条派の画法で孔雀を描き、木は中国の南画風と、こちらもモチーフごとに異なる画風で描き分けがされています。さまざまな描き方が混在しながらも、決して一部が浮いたりせずうまく馴染んでいるところが関雪の技術力の高さを伺わせます。このような、さまざまな画風でモチーフを描き分け一つの画面に構成する作品を関雪は得意としていました。

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ちょっと毛色が違う作品が、こちらの《郭巨図》(京都国立近代美術館)。モチーフは貧しさのあまりに生まれて間もない我が子を土に埋めようとしたところ、黄金の釜が出てきた...という有名な中国故事ですが、一見すると関雪の作品とはわからないほど全体的に筆致が異なっています。中心に木を描き左右に祈る人物を置く構図は、教会の祭壇画を思わせます。関雪がヨーロッパを旅行した際に見たキリスト教の聖人像の影響から生まれた作品だそうで、西洋画の技法をも取り込み始めた時期の意欲作です。

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もう一つの注目作が白狐を描いた《夏夕》(足立美術館蔵)。関雪が発表した当時から人気の作品だそうです。一見モノトーンの水墨画に見えますが、よく見ると狐に光が当たる部分に金泥が施され、しっとりとした薄墨とのコントラストで柔らかな陰影を表現しています。狐の体が内側から光り輝いているような、神々しさを感じさせます。
今回はこの光の表現をより美しく見せるべく、ライティングもこだわっているそう。ぜひ足を止めてじっくりと眺めたい作品です。


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2階は福田美術館等他館所蔵の作品と、個人蔵の作品を中心に展示しています。個人蔵の作品はほぼ普段一般公開の機会がないため、今回が貴重な展示機会となっています。

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2階で目を引く作品の一つが、《後赤壁》(西宮市立大谷記念美術館蔵)。先に紹介した《前赤壁図》と同じく、蘇東坡の漢詩をモチーフにした作品です。
作品から少し離れて右隻の斜め後ろ側から眺めると、景色が画面奥にずっと広がっているような、非常に深い奥行きが感じられます。

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そのまま左へ歩いていくと、右隻中央の鶴だけが位置を変えず、逆方向の景色も遥か遠くまで続いているように見えてきます。自分が絵の中に入り込んでしまったようにも感じる、ダイナミックかつ巧みな空間構成です。
関雪は生涯60回以上も中国を訪れており、その経験を中国の風景描写に活かしました。この作品も、現地を訪れた関雪が実際に自分の目で見た景色を絵に落とし込んでいると考えられます。時を越えて、蘇東坡が詩を詠んだそのときの景色を今に見せられているかのようです。

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なお、《後赤壁》は表具も見どころ。関雪が使っていた印を布の模様にし、屏風の縁に巡らせているそうです。他の作品で見た印を探してみるのも良いかもしれません。

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関雪の構成力は、連作にも発揮されました。こちらの《長恨歌》(京都市京セラ美術館蔵)は、中国・唐時代の玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋物語を、乞巧奠(きこうでん・七夕に行われる手芸・技芸の上達を祈る儀式)/寵愛/安禄山の乱(楊貴妃の死)/塞ぎこむ皇帝/依頼を受けた仙人が楊貴妃の魂を呼び出す、5つの場面で描いた作品。ベースとなった白居易の有名な漢詩ではラストにあたる、死した楊貴妃の魂が皇帝との思い出(乞巧奠の日=七夕の夜に「比翼の鳥・連理の枝」の誓いをしたこと)を語る場面を敢えて冒頭に置き、出来事そのものの時系列順に並べることで展開がループする形になっています。モチーフが有名なお話である分、より面白い見せ方を試みた関雪の工夫が感じられます。

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ちなみに、関雪の作品で大正5年以降のものはほぼすべてが京都、白沙村荘で描かれたものなのだとか。つまり、今回の展示作品のほとんどは、生まれ故郷に「里帰り」した形となっています。関雪の没後、親交のあった日本画家たちが中心となって邸宅と庭の保存運動を行ったこともあり、現在も関雪の生前とほぼ変わらぬ姿を留めています。作品を見た後、庭を歩いてどんな環境で作品が生まれたのか、季節ごとに移り変わる景色を眺め、思いを馳せながら散策してみては如何でしょうか。建物内も一部は見学できるほか、こちらにも作品が展示されています。


3会場を巡ってみると、橋本関雪がいかにジャンルも画風も選ばない、スケールの大きな画家であったかがよくわかります。フワフワの毛並みの手触りまで表現された動物たち、人物の細かな感情や目にした景色にまで引き込まれるような漢詩の世界、リアルにその場に立っているかのような歴史画や風景画...ここまで多彩な、しかも屏風サイズの大作も数多く、ハイクオリティで描いた画家はそうはいないでしょう。自分はどんなものでも描ける!という自らの絵に対する自信が作品から伝わってきました。それは同時に何を描いても確固たる自分が常に在るということでもあり、凡庸な画家に収まらないという強い自負の表れともいえるかもしれません。まさに"非凡自在"の画家だった橋本関雪。この機会に、その美の世界をたっぷりと堪能してみては?

なお今回は所蔵元のご厚意もあり、多くの作品が撮影可(個人利用の場合のみ)となっています。お気に入りの作品を見つけたら、ぜひ紹介してみてください!

※前期後期で各会場の作品が大きく入替される予定です。展示予定の作品等詳細は各館のホームページ等をご確認ください。


橋本関雪生誕140周年「KANSETSU 入神の技・非凡の画」(~2023/7/3)

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