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アートを支えるひとたちのことば。

久々の更新となりましたART STAFF INTERVIEW。今回は、2017年1月6日より京都髙島屋にて開催される「ガレとドーム展 美しき至高のガラスたち」。こちらの展覧会を企画された、アートディレクター井村優三さんのインタビューをお送りします。
このコーナーでは2回目の登場となる井村さん。京都を代表する現代美術ギャラリー「imura art gallery」を主宰する一方、さまざまなジャンルの展覧会企画も手がけられています。今回アール・ヌーヴォーを代表する作家、エミール・ガレの展示を行うにあたり、企画や作品に対する思いをお伺いしました。

35年前の出会いから続く、ガレとの縁。

私がエミール・ガレの作品と出会ったのは、今から35年前。美術商であった父の仕事の関係でパリを訪れた際に立ち寄った蚤の市(クリニャンクール)でした。

パリには日本から輸出された古伊万里や柿右衛門、薩摩焼などの焼物が多く出回っていたので、そちらを目的に何度か訪れてはいたのですが、そこで見つけたガレのガラス作品が持つ不思議な魅力に、心を奪われてしまいました。
以来、私はディーラーとして彼の作品を取り扱うようになり、同時にガレ自身の生涯についても深く調べるようになり、すっかり夢中になってしまったのです。

ガレ「飛蝗文双耳花器」1870-1880年代ガレの作品は、光を通すガラスならではの輝きや美しさはもちろん、日本美術でしばしば見られる、バッタなどの虫やカエルといった生き物をモチーフとして描かれているところが特徴的です。
なかには富士山や三味線といったいかにも日本的なモチーフが使われたものもありますし、水墨画のようなタッチで植物を描いたもの、日本の七宝焼を模して作られたような作品や、蒔絵のように金彩で模様を描いた作品もあります。

一見するといかにも西洋風に見えますが、随所に日本らしい要素を見ることができます。そのため、日本人である私たちが見てもどこか通じるものがあり、親しみを持ちやすいのかもしれません。
 

異なる文化の出会いと日本への憧れが生んだ、ガレの作品。

ガレが活躍した19世紀末~20世紀初頭は、日本の美術品が西洋で大流行した“ジャポニスム”の時代。そしてその影響を受けて新しい芸術が生み出された“アール・ヌーヴォー”の時代でした。ガレはその代表的作家であり、パリで行われた万国博覧会で目にした日本美術に強い感銘を受け、日本美術の持つ造形性や絵画技法、自然観を自らの作風に反映させました。

しかし、ガレ自身は58歳の若さで世を去り、日本を訪れたことは生涯一度もありません。彼は、まだ見ぬ日本への憧れをガラス作品という形で表現したのです。
日本を直接目にしたことのない西洋の作家に、作風そのものにまで日本の美術が影響を与え、それまでにない新しい芸術作品を作らせました。これはとてもすごいことです。

ドーム「葡萄とカタツムリ文花器」1904年日本の美術が遠く離れた西洋で多くの人に感銘を与え、それがジャポニスム、そしてアール・ヌーヴォーという芸術運動につながり、芸術のあり方を変える大きな力となりました。そこで生まれた作品が、ドーム兄弟をはじめとしたほかの作家たちが優れた作品を生み出す原動力になり、優れたガラス工芸品が多数生まれました。
また、逆に日本へ伝わり、それを目にした日本人が影響を受け、新たな作品が生まれたこともあるでしょう。それが再び海外に渡って、新しいものを生み出す力になります。

文化はこのように、ひとつの線のように繋がっていると私は思います。私は普段現代美術も扱っていますが、それも例外ではありません。

ガレの作品は、西洋のガラス工芸と東洋の美術の出会いが生み出したものであり、片方だけでは決して成り立ちませんでした。異なる文化が影響しあい、新しいものを生み出す素晴らしさをガレの作品は教えてくれると思います。
 

ガレ自身が喜んでくれるような展覧会を。

今回の展覧会では、ガレの初期作品から晩年までの作品、ガレの後継者的存在にあたるドーム兄弟の作品、そしてガレの没後に彼の工房で作られた作品まで、約100点を紹介します。
企画構成にあたっては、ガレ自身の作品制作に対する思いを、彼が望むであろう形で紹介することを意識しました。
その中で外すことができなかったのが、ガレの没後に作られた作品たちです。

ガレ「シャクナゲ文スフレ・ランプ」1918-1931年頃展示作品の中に、きのこの形をしたガラスのランプがあります。ユニークな造形、まるで絵画のように繊細な植物のモチーフ、柔らかな風合いの色ガラス、まさにガレらしい作品です。

アメリカでエジソンが電球を発明した後、一気に電球を使った照明器具が広まりました。光を通すガラスは照明器具には打ってつけであり、ガレの工房でもさまざまなガラスランプが制作されました。
しかし、このランプが作られた頃には、既にガレ自身は亡くなっていました。ランプはガレの妻らが工房を受け継いで制作・量産していたのです。いわば“工房作品”というものですが、このランプが「ガレの作品ではないのか」というと、決してそうではありません。ガレが生み出した技法やデザインで作られたものですから、これも立派なガレの作品のひとつなのです。

ガレは早くから学んできた半透明のガラスの製造や色ガラス象嵌、そして日本美術から得た発想と植物学の知識を生かしたデザインなど、新しい表現技術を次々に生み出し、国際的に高い評価を得てガラス工芸を芸術の域まで高めました。同時に彼は、自身の工房をより大きくし、ガラス工芸品の量産化を目指しました。自分の生み出した作品が、より多くの人に普及させ、美術品をより身近なものにすることを目指したのです。

美術館や博物館では、工房作品は量産品であるとして、ガレの作品としては扱っていない場合があります。しかし、ガレにとって自身の作品を量産化することは目標のひとつだったのですから、そこまで紹介しなければガレを語ることにはならないと思うのです。きっと、ガレが見ても喜んでもらえるのではないでしょうか(笑)
 

展示品は全て個人蔵。個々の作品への持ち主からの愛を伝えたい。

また、今回の展覧会で登場する作品は皆、個人蔵の作品です。つまり、全ての作品にそれぞれ個々の持ち主がいるということ。ほとんどが今まで美術館や博物館での展覧会に貸し出したことがない、一般には未公開の作品です。

個人蔵の作品を一般に向けて展示する場合は、持ち主それぞれにお願いして承諾を戴かなければなりません。個人で作品を所蔵されている方は、その作品ひとつをとても気に入ってコレクションされていらっしゃいますから、作品に対する愛情もひとしお。外へ展示に出すことを渋る方も当然いらっしゃいます。我が子と同じで、自分の手の届かないところで破損などしてしまったらと思うとやり切れませんからね。逆に、素晴らしい作品なのだから多くの人に見てほしい!とすぐに快諾された方もいらっしゃいました。それだけ、展示される作品ひとつひとつに、持ち主それぞれの愛や思い入れがあるということです。

私自身としても、今回展示される作品は私が買い付けたり集めてきた作品ばかりですので、どれも思い入れがあります。久しぶりに目にして当時の思い出が蘇ることもありました。

ぜひ、歴史や技術発展、作者のことだけでなく、作品それぞれの持ち主のことにも思いを馳せながら、一点一点じっくりとご覧いただきたいですね。
 

コレクターやディーラーが展示企画をする意味。

私は美術作品を販売するディーラーでもありますから、自ら作品を選び、集めるというビジネスもしています。何よりも自分の目を信頼して作品を選んでいるわけです。展覧会の企画においてもそれは同じです。

普通、美術館や博物館で行われる展覧会では、学芸員の方が企画を行います。その際、学術的な研究成果の発表なども踏まえて作品を選び、展示を構成します。しかし私はコレクターでありディーラーで、学芸員ではありません。ですので、展示品を選ぶ基準も学芸員の方が企画した場合とは異なります。今回は素直にコレクター目線で「美しい」と感じられる作品を中心に選びました。コレクターとは、そういう自分で美しいと感じ、気に入ったものを集めるものですからね。
特別な知識がなくても、どなたでも見て素敵だな、面白いなと感じられる作品ばかりですので、見ていてきっと飽きずにお楽しみいただけると思います。

現代美術を扱われている印象が強い井村さんが、19世紀末の近代美術を扱っていることに、お話を伺う前は少し不思議な思いを持っていました。しかし、現代美術も近代美術も同じ「アート」の流れの中で生み出されてきたもの。決して別物ではないのです。「文化はひとつの線で繋がっている」、と井村さんは強調されていらっしゃいました。

お話にもありましたが、個人蔵の作品を集めて展示を行うことは、博物館や美術館の所蔵品を展示する以上に難しいことです。その点、ディーラーは作品を持ち主の元へ送り出すための橋渡し的存在であり、作品を通して持ち主と直接やり取りをしています。そして、自身もコレクターの一人であるなら尚更、その思いを汲み取ることができる立場にあります。だからこそ、このような展覧会の企画を試みることができたのだな、と感じました。

これから「個人蔵」の作品を展覧会で見つけたら、作品の向こうにそれぞれ持主がいることに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。アートの姿が、今までと少し違って見えてくるかもしれません。

(改めまして、取材のご協力をいただいた井村さん、およびimura art galleryスタッフの皆様に厚く御礼を申し上げます)

【今回お話を聞いたひと】

井村優三さん(アートディレクター/imura art gallery/imura art planning)

京都生まれ。実家の美術商の仕事で英国に滞在中、現代アートに目覚め、ギャラリストに。 美術館などでの企画展も多数展開し、幅広い美術の世界をプロデュースしている。又、個人や企業、美術館や行政、海外などからの依頼を受け、パブリックスペースなどへのアートの展示企画、制作から設置までのコーディネートを行う。 主な企画展覧会は「ZIPANGU展:現代日本のアートシーン。」「ルネラリック:光への軌跡」「日本の色、四季の彩:染色家 吉岡幸雄展」「木梨憲武×20Years」「ガレとドーム展:美しき至高のガラスたち」「彫刻家 樂雅臣展」など多数。

【展覧会情報】

ガレとドーム展 美しき至高のガラスたち

日本を愛したエミール・ガレと、彼を追い求めたドーム兄弟。アール・ヌーヴォーを代表するガラス工芸作家による名品の数々を、未公開作品を交え約100点後紹介します。異文化の出会いが生んだ美の結晶を、ぜひご高覧ください。

2017年1月6日(金)~16日(月)10:00~20:00(最終日は17:00まで/入場は閉場30分前まで) 会場:京都髙島屋7階グランドホール

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