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アートを支えるひとたちのことば。

今回は、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAにて企画展のプロデュース、運営に携わってきた、学芸員の森山貴之さんにお話を伺いました。2014年春からは東京に活動拠点を移されることとなった森山さん。これまでの企画展についての振り返りから、アートに対する「企画」側の姿勢についてなど、まさに「アートを支える」立場からの視点のことばがたっぷりの充実したインタビューとなりました。

 

一度就職して、現実の中にある「美術」と「社会」の間の歪みを痛感しました。

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― 森山さんが今のアートに関わるお仕事をされるようになったきっかけは何だったのですか。

元々、僕は京都の大学で美術系の学科に在籍していました。そこで、卒業後も美術を学んできたことを活かせる仕事がしたいと思っていましたので、大学院の修士までいった後、東京のアートプロデュース会社に就職しました。元々は環境デザイン系の会社だったのですが、その中にコミッションワークを行う部署があり、そこで働いていました。街の再開発や建物の新築などにあわせて、美術作品を収めるのが主な仕事でしたね。建物の前にモニュメントを設置したり、ロビー壁面を飾る絵を準備したり、というあれです。

― まさに「街にアートを取り入れる」立場の仕事だったのですね。

ですが、実際にやってみると自分が想像していたものとは全然違っていたんですよね。
僕が大学で学んでいたのは主に理論が中心で、社会に美術がどのように関わっていくのか、表現やメッセージ性がどのように社会に影響を与えるのか、を研究していました。それを仕事でも活かせるのではと思ったのですが…。実際に働いてみると、確かに美術を社会に持ち込む仕事ではあるのですが、あくまで「ビジネス」として美術を扱うことは、自分が思い描いていた世界とは全く違うものでした。

具体的なところだと、お金の話がわかりやすいですね。ゼネコンなど依頼主の下請けとして動く立場でしたから、当初は多額の予算が用意されていても、自分たちのところに下りてくるまでには、建築会社の取り分など、様々なマージンがかかってきます。すると、最終的に作家や作品に対して用意できる予算は半分以下しかなかったりするんです。
作品を紹介・プロデュースする立場としては、アーティストの考えをリスペクトし、それを最大限形にできるようにしたい。しかし、仕事として、ビジネスとしては、依頼主の希望や予算などに合わせたものを用意しなくてはならない。すると、結局アーティストが作りたいと考えているものとは違うものを用意することになってしまうんですね。

こういう仕事でしたから、プロデュースする側としても、作家も「アーティスト」ではなくものを納める「業者」として扱わなければやっていけなくなっていましたし、作家としても相手の希望に見合った、売れる「商品」を納めるように動くようになってしまいます。すると、人気のある「商品」ばかりが増えていきますから、同じ作家の同じようなものばかりが並ぶ…という状況になってしまっていました。

― なるほど。良いアーティストや作品を社会に紹介するつもりが、そうではなくて他人の希望に見合った形の「商品」としてアートを扱わなければならなくなってしまったのですね

面白い作家というのは、世の中に沢山いますし、それを何とか多くの人に紹介したい。でも、世間で実際に求められているものは、必ずしも作家が作りたいもの、こちらがいいと思うものとは違っている。それを痛感しました。

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(アクア)結局、5年ほど勤めたところで退職しました。
ビジネス優先で美術がどんどん動いていってしまうことに対して、「どうしてこうなってしまうんだろう」と疑問を感じたんですよね。そして、現実の中にある「美術」と「社会」の間の歪み…これをもう少し深く考えてみたいと思いました。
そこで、改めて大学に入り直して研究をすることになったんです。

その後博士課程を経て、卒業後はギャラリーのお手伝いや非常勤の仕事を続けていたときに、たまたま紹介を受けたのがギャラリー@KCUAでした。2010年から、学芸員として運営に携わっています。
 

美術の「内」と「外」にいる人で違う楽しみ方。
それをどんな形で提案していくのかが、企画する側が意識する点だと思います。

 

― ギャラリー@KCUAの学芸員に就任されてから、様々な企画を行ってこられたと思いますが、その中で印象深かったものはなんでしたか?

「KYOTO STUDIO 2013」 展示風景(1) 撮影:来田猛@KCUAが自主企画展として行ったものでは、2013年に開催した「KYOTO STUDIO」ですね。

これは、京都を拠点に活動しているアーティストのスタジオやアトリエを、会場内に再現する企画で、17組、総勢88名の作家が参加しました。
若い作家は、何人かがあつまって共同でアトリエを構えていることもあるので、これだけの参加人数になりました。

― 通常、展覧会というと来館者が見るのはできあがった「作品」だけですから、作品が生まれる過程を知ることはただ「作品」を見るときとは違う、新鮮な印象を受けそうですね。

作品は目にしても、実際にどのような人がどのような現場で作っているのかは、一般に知られる機会があまりありません。その分、一般の方はアーティストを自分たちと違う世界の人として見てしまう現状があります。何とかそれを打破したい、アーティストにより親しみを持ってもらいたい、という思いから生まれた企画でした。

また、展示を通じて「京都にはこんな活動をしている人がいるんだ」と、アート作品だけに留まらない、作家自身や京都という町の魅力も広く紹介したい、とも考えていました。
そこで行ったのが、作家情報のバイリンガル化です。「KYOTO STUDIO」の参加作家の情報は全て、日本語の他に英語版を用意しました。また、図録には作家だけでなく僕のようなキュレーターや海外のアーティスト、海外のギャラリーのディレクターなど、様々な人に「京都」について尋ねたインタビューも収録されています。こちらも全て、日本語と英語を併記する形にしました。


― 最初から海外へ向けての展開を視野に入れておられたのですね。

「KYOTO STUDIO 2013」展示風景(2) 撮影:来田猛そうですね。図録は出来上がり次第、オルタナティブ・スペースなど、海外の色々なアート関連団体や関係者の方にお送りしました。京都の若手作家の活動の様子や環境を紹介することで、海外から京都へアーティストを探しに来てもらう。その助けになればと考えました。この活動は、今後のギャラリー@KCUAのアーカイブとしても、活かしていきたいと思っています。

もうひとつあげるなら、東京の渋谷ヒカリエで行った企画「Wild,Panssionate and Sticky Things 京都美術の130年(以下WPS)」も印象深いです。
これは、130年前に京都市立芸術大学を卒業し、京都画壇で活躍した画家の作品と、現代のアーティストによる作品を、ミックスして同じ空間に展示するという企画でした。


― 普通、昔の日本画家の作品はケースの中に順々に展示されているイメージがありますが、同時に同じところに展示するというのはユニークですね。

タイトルの「WPS」は、僕が感じる京都の美術の印象です。「Wild(野生的)」で、「Passionate(情熱的)」で、「Sticky(ねっとりとした)」。京都の美術というのは上品できちんとしたものというイメージを一般的に持たれていると思いますが、実際はもっと濃いものだと感じています。それを、昔と今の作品を同時に展示を行い対比させることで伝えられるのではないかと思いました。また、ひとつひとつを別々に見ていたときにはわからなかった、新しい感覚や面白さが生まれてくると考えたんです。

「WPS 京都美術の130年」展示風景(谷澤紗和子)例えば、谷澤紗和子さんは、最近は切り絵と光による空間インスタレーションを制作されている作家さんですが、今回は彼女の空間に土田麦僊(つちだ・ばくせん)の《髪》という作品を展示しました。
これは女性が髪を結う姿を描いたもので、男性から見た女性の色気、エロティシズムを描き出しています。対する谷澤の作品からは、そういったものよりも大きな、女性ならではのエロティシズムを感じさせます。
表現は全く違うもののようでいて、対比してみると共通したテーマや意味が見えてくるんですね。

「WPS 京都美術の130年」展示風景(貴志真生也)角材やブルーシート、プラスチックなどで作った無機質な構造物による空間が特徴の貴志真生也さんは岡文濤の《暗中出手》と併せて展示を行いました。
岡文濤のいわゆるねっとりとした、悩む男の姿を濃密に描いた作品と、貴志さんのスコーン、と開けたような空間インスタレーションは、全く逆の印象を与えます。
ですが、貴志さんは岡の作品から自分の心情を客観的に見つめて描いている作家の冷静な意識を感じ取って、それを自分なりに踏まえたうえで作品を制作されていました。

「WPS 京都美術の130年」展示風景(三木章弘)稲垣仲静の《豹》と併せて展示をした三木章弘さんは、作品を見せる環境をつくることをコンセプトに、展示会場でライブペインティングの手法による巨大なペインティング作品を展示しました。
モチーフを切り取り時間を静止させたような稲垣の作品が「静」であるのに対し、三木さんの作品はその場の空気を感じ、鮮やかな色や活き活きとした筆跡を全面に表現した「動」。この対比が面白い空間となりました。

― なるほど。つい昔の有名な作家作品だと、とても敷居の高いものに見てしまいがちですが、見せ方を変えると今までにない印象や、親しみが感じられる気がします。普段美術に関心がない人でも、思わず目を向けてしまいますね。

たまたま目の前を通りすがった人でも「何だこれは?」と立ち止まって、興味をもってくれるでしょうし、そこからまた新しい方が会場に来てくれる。そのきっかけになれば嬉しいですね。ただ、問題はそこから先です。
面白い見せ方というのはやろうと思えばいくらでもできるんです。それをなぜそう見せるのか、そしてどう言葉にしていくかが、僕らプロデュースする側に求められていることだと思っています。

「WPS 京都美術の130年」イベント風景世間からの「アート」へ向けられる感覚も、小難しいとか敷居が高いといったように、「アート」に携わる側が考えているものとは違っていたり、距離があります。この違いをどう埋め、どうつなげていくかが今の仕事における大きなコンセプトになっています。

美術好きな方やお詳しい方、直接携わっているような人向けと、そうでもない、普段あまりアートに触れる機会の少ない世間一般向けでは、企画のあり方は変わってきます。画一的に同じようなやり方をしていても、良さは必ずしも伝わらない。美術の「内」と「外」にいる人で違う楽しみ方や見方を、どのように提案していくのかが、企画する側として意識する点だと思っています。

そのためには、アートとしてだけに拘らず、それ以外の様々な文化の流れからも美術、アートを見ていくことが必要だと考えています。

― といいますと…アート以外のものをアート展として取り入れる、ということでしょうか。

「ニュイ・ブランシュ」イベント風景(2011年)そうですね。例えば、2年前から行われている「ニュイ・ブランシュ」という夜のアートイベントがあるのですが、それにギャラリー@KCUAが参加した際は、ギャラリーにパフォーマーやミュージシャンなどを呼んで、ライブハウスのようなイベントを行いました。パフォーマンスや音楽、その中でもちょっとアングラな、普段見ているアート的文脈をは違うものを取り入れてみたかった。結果はとても盛り上がりましたし、普段ギャラリーに来ないような方も、この機会に足を運んでくださいました。

― ギャラリーをライブハウスに!それは思い切った発想ですね。どうしても展示会場はもう少し堅めの雰囲気をイメージしてしまいますから…

「ニュイ・ブランシュ」イベント風景僕としては、ギャラリーや美術館も、人が「楽しむ」ための場、要するに「エンタメ空間」であってもいいんじゃないかと思っています。美術の世界を楽しいものと思ってもらう、そのためにはまず来てもらわなければ始まらない、そのきっかけを作りたかったんです。

それに、美術自体も必ずしも一人の力で作るものとは限りません。皆が集まり、そこからいろいろなものごとを一緒に考え、そこから派生させていくことは、より一人ひとりや作品のポテンシャルを引き上げることになる。ひとりではできないことも、皆で力を合わせればできることですから。
 

京都には京都ならではのいいものがある。それを上手に活かせる企画を生み出せる人が増えていって欲しい。

 

― 春からは東京に拠点を移されるとのことですが、今後はどのような活動をされていきたいとお考えですか?

今度は美大の教員という学生を「教える」側の立場になりますので、今までとはスタンスが全く異なりますね。ですが、今まで僕がやってきたことを学生たちと授業の中でやっていけたら、活かせれば嬉しいです。「共に何かをつくる」ことを、一緒に考えていく活動をしていきたいと思います。

― 東京と京都では、土地柄の違いなど何かアートでも変化があるのでしょうか。

東京の場合は、アート関連の施設がとにかく町中のあちこちにある点が特徴だと思います。デパートの中とか、ショッピングモールの傍とか…何かのついでにふらっと立ち寄れる、気軽さがありますね。六本木の森美術館や森アートセンター、渋谷ヒカリエなどが良い例です。また、京都以上に東京は娯楽・エンタメ的な感覚のものとして「アート」が捉えられているように思います。人々を受け入れる間口が広いんですよね。

でも、別に京都が東京のようになればいい、とも思いません。京都は芸大が狭い都市の中に集まっていて、昔から小さなギャラリーが沢山あって、美術を文化として考える受け皿がある。また、同じ町に拠点を置く作家同士が互いに協力し合おう、という気運もあって、地域内での繋がりがあるんですね。この点は、東京の作家さんにも京都はいい環境ですね、と羨ましがられるところでもあるんですよ。京都には京都ならではの良さや特徴がありますから、このままのキャラクターを保っていければいいのではないかと思います。

必要なのは、そこをうまくディレクションできる人を育てること。いいものが沢山ある京都ですから、それを上手に活かし、魅力を伝えられるような企画を生み出せる人が、もっと増えていけばと思っています。

ギャラリー@KCUAは、とても自由に活動させてもらえる、良い環境でした。僕自身悪ノリが好きなので(笑)かなり好き勝手に企画もやらせてもらいましたが、その分色々な試みに挑戦する素晴らしい機会を得られたと思っています。今後のギャラリーや、そして京都の若い作家たちの刺激となることができていれば嬉しいですね。やはり前例があるか無いかというのは、その後の動きやすさは段違いだと思いますから。

― 森山さんの活動は、京都のアートにしっかりと礎として刻まれていると思います。今後については、京都で活動の予定はおありですか?

そうですね、京都とはまだ関わりは続くと思います。ひとまず、2014年4月、5月のギャラリー@KCUAでの企画については、僕も関わっているものがあります。
「京芸Transmit Program」を今年も春に開催する予定ですので、ぜひ多くの方に参加していただければと思っています。

― まだまだ京都でも企画を予定されているとのこと、とても嬉しいです。今後のご活躍も楽しみにしております。ありがとうございました!
 

雑誌にも京都の注目学芸員として紹介されるなど、ユニークで精力的な活動を行ってこられた森山さん。そこには、アートに対する真摯な思いと、その良さを少しでも多くの人に届けたいという強い意志がありました。森山さんは「アートを支えるひと」そのものでした。
今後は東京で教鞭を執る側に就かれる森山さんですが、それはまさに、未来の「アートを支えるひと」を育てる仕事です。今後のご活躍が本当に楽しみです。

【今回お話を聞いたひと】

森山貴之さん(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)

森山貴之(もりやま・たかゆき) 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA 学芸員。 1993年 同志社大学 文学部 文化学科美学及芸術学専攻 卒業。 2004年 京都市立芸術大学大学院 美術研究科博士後期課程 芸術学領域 修了。 2010年より現職。主な担当企画に「Metis -戦う美術」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)、「WPS 京都美術の130年」(渋谷ヒカリエ)「epiphany―世界を発見する方法」(中之島デザインミュージアム)など多数。



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