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アートを支えるひとたちのことば。

文筆家であり、デザイナーであり、研究者であり、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術大学)ヘレン・ハムリン研究センターのシニアリサーチフェローという顔も持つジュリア・カセムさん。

今回は彼女がプロデューサーを務めるプロジェクト、インクルーシブデザイン・チャレンジワークショップについてインタビューしてきました。

今や全世界20都市で開催され、世界中から700名を超えるデザイナーが参加しているこのプロジェクト。2014年2月14日から京都の町家ギャラリー「しまだいギャラリー」にて開催されるイベント「我が家のひなまつりへようこそ!」内にて、その作品が展示されます。

「福祉」に対するイメージを覆す、おしゃれでファッショナブルな製品たちは、どのようにして生まれたのか。そして今回の展示の見どころや狙いを伺いました。

 

デザインの力で、福祉の現状を変えたい

―― まずジュリアさんご自身についてお伺いしたいのですが、日本にはいつから住んでいらっしゃるんですか?

大学生時代に日本へ留学してきたのをきっかけに、その後約27年間、日本に住んでいました。何度かイギリスに戻っていた時期もありましたが、今はまた日本を中心に活動しています。

―― なるほど、それで日本語がご堪能なのですね。それでは、今回の展示のもとになっているプロジェクト「インクルーシブデザイン・チャレンジワークショップ」についてお聞かせいただけますか。

チャレンジワークショップというのは、世界各国で知的障害や身体的障害、聴覚障害等、様々な障害を持つ方々の共同作業所等とプロのデザイナーをコラボレートさせて、インテリアや雑貨などの質の高いデザイングッズを生み出すプロジェクトです。今ではオンラインショップや実店舗でも、クッションやぬいぐるみ、時計などが販売されています。

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―― 商品を拝見させて頂きましたが、とてもファッショナブルですね。正直、非常に驚きました。

就労支援施設や共同作業所で働く方々は、それぞれの土地に伝わる技術や、人によって個性的な技術を持っています。しかし、技術はあっても彼らはデザインに関しては素人。そのため、作られる商品はデザイン性の低いもの、退屈なものになってしまいがちです。そんな商品では売上げも上がりませんし、買ってもらっても「かわいそう」「支援や寄付のため」。これでは、とても持続可能な活動にはなりません。私はそんな状況をデザインの力で変えていきたいと思っています。

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技術とデザインが出会う瞬間

―― 各地のプロジェクトが始まったきっかけはどのようなものだったのですか。

例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボの場合。ここでは、2008年に国の財政難の影響で、聴覚障害者への支援金がカットされる事態が起こりました。そのため、聴覚障害者を従業員としていた印刷工房は、国の支援に頼っての運営ができなくなり、自立した会社としてビジネスを行っていかなければならなくなりました。ところが、彼らはそれまで「注文を受けたものを印刷する」というスタイルでずっと仕事をしてきたので、印刷の技術はあっても、自分たちで商品を企画・デザインするということはできなかった。仕事を請けるだけではとても採算が取れず、かといって自分たちで仕事を生み出すことも難しい、その状況を何とかしたい。そんな現地の声を受けて、プロのデザイナーとコラボレートするこのプロジェクトが始まりました。

このプロジェクトにおけるデザイナーにとっての課題は、「設備の無い場所で、限られた技術を持つ人達と、どのように良いデザインを生み出すか」。これは本当に難しいことです。ただ、それと同時にデザイナーにとっては自分の力を試す場でもあるとも思っています。

デザイナーはつい、自分の小さな世界の中だけで生きがちですが、外の世界に触れることで、より良いデザインを生み出せるようになると私は思います。

 

日本の伝統であるひなまつりを、もっと自由に解釈してみる

―― 今回は「ひなまつり」をテーマにプロジェクトから生まれた品を展示されるということですが、具体的にはどのようなものになるのでしょうか。

今回の展示では、ボスニア・ヘルツェゴビナとポルトガル、そして日本という3カ国のチームから作品を出展します。「ひなまつり」という 日本の伝統行事がテーマですが、堅苦しいルールに囚われず自由に解釈し、それを形にしたものが並ぶ予定です。

―― 先ほどボスニアについてはお伺い致しましたが、ポルトガルと日本はどのようなチームなのでしょうか。

伝統的なボビンレースづくり

ポルトガルのチームは、知的障害を持つ子供とその親によるグループです。彼らの暮らす地域は伝統的にレース作りが盛んなので、今回はレースを使用して、ひなまつりにちなんだプロダクトを作ります。皆日本の「ひなまつり」を実際に体験したことはありませんので、私がひな祭りの様子を写した写真を何枚か送って、それを自由に解釈してもらいました。今までと全く違う、新しい印象のひなまつりが生まれると思います。

そして日本からは東京のチームが参加しますが、こちらは私の娘、ライラが中心となっています。彼女自身も東京の芸術大学に通うグラフィックデザイナーとしてプロジェクトに参加し、指導を行っています。今回の展示作品のひとつがテキスタイルの総柄なのですが、こちらは彼女が絵を教えている東京の工房にいた自閉症の男性が下絵を担当しています。彼はとても印象的で上手な絵を描く方で、そこでまず、彼に「ひなまつり」のイメージを描いてもらい、その絵をデザイナー側で柄に起こし、テキスタイルなどに活用できるパターンとして仕上げました。

―― 確かに、今までに無い新しい「ひなまつり」の表現が見られそうですね。

 

一番大切なのは、受け身の意識を変えること

―― 最後に、今回の展示会は特にどんな方に見ていただきたいですか。

そうですね。今回のイベントは一般の方にもたくさん見ていただきたいと思っていますが、特にデザイナーの方、福祉関係の方に作品を見に来ていただきたいですね。といっても、「福祉」と聞くと、少し暗い、受け身なイメージになりがちなので、私はこの言葉があまり好きではないのですが。

残念ながら、今はまだ、障害者の方の働く環境を、ただ時間を過ごさせるための施設としか思っていない人も多くいます。私は、そういった意識をデザインの力で変えていければと思っています。

「福祉」や「支援」ではなくて、あくまで相手と対等な「コラボレーション」であり「スキルの共有」を図ること。受け身の意識、マイナスの考え方を変えることが、何より大事なことですから。

―― 本日はありがとうございました!

 

デザインって、何のために、誰のためにあるものだろう。今回の取材で、そんな問いに対する新しい答えをいただいたようでした。

「designgoods」の商品は本当に欲しくなるファッショナブルなものばかりで、「福祉」に対するイメージをがらっと変えてくれました。

このプロジェクトが世界中に広がっていることに、なんだか希望を感じずにはいられません。

私の好きな本に「世界を変えるデザイン」というものがありますが、個人的にはぜひこのプロジェクトを本に加えていただきたい。

だって、実際に世界を変えている人が目の前でまっすぐ語ってくれましたから。

日本語で熱心にお話してくださるカセムさんを見て、そんなことを思いました。

【今回お話を聞いたひと】

ジュリア・カセムさん(インクルーシブデザイン・チャレンジワークショップ プロデューサー)

文筆家、デザイナー、研究者、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術大学)ヘレン・ハムリン研究センターシニアリサーチフェロー。 マンチェスター芸術デザイン大学で美術品と美術史について学んだ後、東京芸術大学に留学。ニューカッスル大学 国際文化財研究センターより博士号を取得。 1971年から1998年まで日本で過ごし、ジャパンタイムズ紙のアートコラムニストとして活躍。視覚障害を持つ人々のために、美術館所蔵の美術工芸品を鑑賞する方法を研究する非営利団体、アクセス・ビジョンを設立。 英国に帰国後、2000年にヘレン・ハムリン研究センターに入り、インクルーシブデザインに関する技術知識の共有を目的とした”The Challenge Workshops”を企画・運営する。 2010年には、英国のデザイン雑誌「Design Week」より「Hot 50:デザイン業界で最も影響のある50名」に選出された。

【展覧会情報】

我が家のひなまつりへようこそ!~京の食の伝統と技が彩る雛まつり文化~

本イベントでは、ジュリア・カセムさんをはじめ、京都で活躍する8人の女性たちが、個性あふれるひなまつりの楽しみ方を提案します。アート作品の展示から京ブランド食品の販売まで、様々な角度からひなまつりを楽しむことができ、2月16日(日)の15:00~15:30にはジュリア・カセムさんの講演会も開かれます。

■日時: 2014年2月14日(金)- 2月16日(日) ■会場: しまだいギャラリー ■主催: 京のひなまつり実行委員会・一般社団法人京都府食品産業協会

展覧会情報を見る >>



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