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【展覧会レポート】生誕120年河井寛次郎 生命の歓喜(京都高島屋グランドホール)

2011/04/21

CIMG1314.JPG4月20日(水)から京都高島屋で始まった「生誕120年河井寛次郎 生命の歓喜」展。
こちらの公開初日に、早速スタッフSが行って参りました!

今回の展覧会は、大正~昭和にかけて京都を拠点に活躍した陶芸家・河井寛次郎の生誕120年記念の回顧展。
これまで、東京、大阪と巡回してきましたが、いよいよホームタウン・京都での開催です!
初日から会場はかなりの賑わい。沢山の方がいらっしゃっていました。


kanjiro120-2この日には、ちょうど河井寛次郎記念館の学芸員、鷺珠江さんによるギャラリートークが開催されていました。鷺さんは河井寛次郎のお孫さんでもあります。(いつも「京都で遊ぼうART」では何かとお世話になっています...!)
この展覧会の企画は鷺さんが全面的に担当されたのだそう。つまり河井寛次郎記念館の全面プロデュース展なんです!
また、会場となっている高島屋も、寛次郎が初めての個展から最後の展覧会まで、ずっと会場にしてきた場所なのだそうです。
(その際に出会った高島屋美術部の川勝堅一さんとはその後40年以上もパートナー関係になっていたそう。川勝さんはその後寛次郎作品の一大コレクターとなり、コレクションは現在「川勝コレクション」として京都国立近代美術館に収められています)


展覧会は「技」「暮らし」「交わり」「生命」「造形」「祈り」の六つのテーマで構成されています。
企画を考える上で鷺さんが意識したのは、寛次郎の生き方や暮らしぶりなど、「河井寛次郎」その人をどのように伝えるか、だったそう。
一応、全体の順序は若いころから晩年までの流れにそった形になっているのですが、その作風の変化と共に、寛次郎がどのような考えで作品を作っていたのか、どんな人だったのかが、テーマを追っていくと確かに見えてきます。


まだ陶芸家としてデビューしたてのころの作品は「技」のテーマの通り、とても技巧的。技術力の高さがよくわかる、形や絵付けの柄も凝ったものが多い印象。人物などの表現も、当時中国や朝鮮の焼き物を研究していた影響がよくわかるものでした。
あまり若いころの作品は数がないそうで、逆に「暮らし」以降の、民芸に出会って普段の生活で使うことに根ざした、シンプルなデザインの作品のイメージが強い分、新鮮に感じます。

「愛染鳥子」

kanjiro120-2.jpg
「愛染鳥子」
大正10年(1921)頃 個人像
印象深かったのは、展覧会の最初に登場する「愛染鳥子」という作品。
これは寛次郎が初めて個展を開催したとき(大正11年)に出品したもので、なんと今回90年ぶりの公開!
というのも、個人の方が所蔵しているため外に出ることがなく、今回生誕120年の記念展ということで、特別に出品されたのだそうです。
菩 薩のような人が二人よりそっている、中国の焼き物のようなデザインの作品なのですが、表情はとにかくやさしくて穏やか。手乗りの小鳥をとても暖かい目で見 つめています。こういうのを、慈悲の表情というのでしょうか。見ているこちらも、穏やかな気持ちになってくる気がします。

民芸の「用の美」に根ざした作品も、思わず見ていると手に取りたくなるような、持ってみると思わずほっとする暖かさが随所に感じられます。
この暖かくて穏やかな視線は、その後の作品に、どれも共通しているように思えました。


 

いのちの表現

生き物が大好きだったという寛次郎は、動物や植物を好んで作品のモチーフとしています。
「もちろん、見れば「ああ、これは鳥だ」「猫だ」「犬だ」とわかるような具体的な形なものもあるのですが、晩年に近づくほど、その形は段々と抽象的なものになっていきます。
どことなく模様や装飾が顔のように見える作品も多く、今にもひとりでに動き出しそうにも感じます。
釉薬のかけ方や描かれた文様も、ほとばしるエネルギーをぶつけるような勢いがあって、生命力に満ち溢れています。
まるで、自分の中にあふれる「いのち」のエネルギーを、作品にひとつひとつ注ぎ込んでいるような...そんな感じがしました。

ほとけさまの「手」

私は何度か河井寛次郎記念館にお伺いしているのですが、初めて訪れた際に印象的だったものが、「手」をモチーフにした作品でした。
ものをつくる仕事をしていることもあり、ありとあらゆるものを生み出す「手」に対し、寛次郎は神々しさのようなものを感じていたようで、好んでモチーフにしているそう。
今回の展覧会では最後の「いのり」のところに多く展示されていました。
天を指している手、花を持っている手、合掌している手...
それは陶芸であり、木彫であり、素材も形も様々なのですが、そのどれもに、力強さと同時にどことなくやさしさや暖かさを感じられます。

たとえるなら、仏さまの手。

展覧会の最後に登場する「手」は、玉をそっと包み込もうとしている形をしているのですが、まるで小さな生き物を手のひらで掬い上げているようです。
そして、その手と玉を見ている私たち。
これは、最初に見た「愛染鳥子」が、手に乗った小鳥を眺めている視点と重なります。

寛次郎の作品は、時代により様々に表現を変えています。
でも、本当に根っこの部分、「いのち」を見つめる暖かなまなざしは、全く変わっていなかったのでしょう。
展覧会を最後まで見終えたとき、なんだか本当の意味で「寛次郎さんに出会った」そんな気がしたのでした。



ほかにも、柳宗悦や濱田庄司といった民芸運動の仲間をはじめ、親交のあった人々に関わる作品も沢山展示されていました。それぞれには解説パネルがついており、作家や作品にまつわるエピソードも書かれています
思わずくすくす笑ってしまいそうな微笑ましいものや、人の絆を表すような感動秘話まで。ついつい読みふけってしまいました。
また、記念館のスペースを作品のしつらえで再現したコーナーもありますし、とてもよくまとめられた映像展示も用意されています。
寛次郎さんのファンでも、「河井寛次郎って誰?」という方でも、十分に楽しめる展覧会だと思います!

生誕120年河井寛次郎 生命の歓喜は、5月5日まで。
23日、24日にはギャラリートークが開催されます!

関連リンク

生誕120年河井寛次郎 生命の歓喜

河井寛次郎 誕生120周年記念 特集ページ
 → 河井寛次郎ってどんな人?
   詳しいプロフィールや、昨年全国で開催された記念展覧会情報などを特集しています!
京都ミュージアム紀行 河井寛次郎記念館
 → 河井寛次郎の自宅兼工房をそのまま公開している河井寛次郎記念館の取材記事です!

河井寛次郎記念館についてはこちら

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