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100年目の集結《佐竹本 三十六歌仙絵絵》単眼鏡必携です。(京都国立博物館|前期)

投稿:2019年10月31日

京都国立博物館で開催中の『流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』(前期)に行ってきました。私にとっては、#絵巻、#近代数寄者、#茶の湯 という大好きキーワードが3つもそろった今年度後半一番楽しみにしていた展覧会です。
 

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といいながら、基本的なことから私はスタートです。

平安時代の公卿で歌人・藤原公任(966-1041)によって選ばれた36人の優れた歌詠み(歌仙)が「三十六歌仙」で、飛鳥時代から平安時代に活躍した歌人たちです。伊勢物語の主人公・在原業平や美人の誉れ高き小野小町、歌聖と呼ばれた柿本人麻呂、「土佐日記」の作者・紀貫之などが居ます。 鎌倉時代以降、歌仙の肖像画(歌仙絵)が多く描かれるようになり、中でも旧秋田藩主・佐竹侯爵家に伝わった『佐竹本三十六歌仙絵巻』は、最高傑作とみなされているそうです。通常の絵巻よりサイズが一回り大きく、最高級の料紙と絵具が用いられ、似絵(肖像画)の名手と言われた藤原信実(ふじわらののぶざね)が描き、歌は関白九条兼房の二男、後に摂政となる後京極良経(ごきょうごくよしつね))の筆になると伝えられています。

佐竹家にいつ伝わったかは明らかになっていませんが、それ以前は下賀茂神社に伝来したようで、そのことを若冲や大雅などとも親しかった木村蒹葭堂(1736-1802)が、佐竹本であろう三十六歌仙絵巻を見たことが『蒹葭堂雑録』に記載され、それも展示されています。

大正期になると旧大名からの売立が出るようになり、秋田の佐竹家も膨大な所蔵を売立に出しましたが、《佐竹本三十六歌仙絵巻》あまりの高額に買い手が付かず、結局、古美術商が合同で落札します。一時期「虎大尽」と呼ばれた山本唯三郎の手に渡りますが、また引受先を捜します。海外への流出も憂えることもあり、当時財界のドンにして、近代数寄者の第一人者である益田孝(鈍翁)らの主導で分割へとなり、運命の日を迎えた訳です。

今からちょうど100年前、大正8年(1919年)12月20日、舞台は東京品川・御殿山にある鈍翁邸「応挙館」(東京国立博物館に寄贈されて現在に至る)です。分割された1枚1枚の歌仙絵の運命は「籤」に託されることになりました。2階最初の展示室には、佐竹家に伝わった、佐竹家の家紋を散らした絵巻が納められていたお箱や、12月20日に先立って取り決められた申合書、歌仙絵の運命を背負った籤、それをいれる竹筒(京都の道具商 土橋嘉兵衛が店近くの鷹ケ峯の青竹から作ったものと伝わり、後に花入れとし、箱書きは鈍翁だそうです)、応挙館の襖も展示され、佐竹本断簡式の緊迫感が伝わるようでした。

「佐竹本三十六歌仙絵」は、1歌仙ごとに値段が事前に決められ、人気は艶やかな女性歌仙絵でした。籤の結果、当の益田鈍翁には、なんと二人しかいない不人気な「僧侶」が当たってしまい、鈍翁の機嫌はみるみる悪くなり、その場は凍り付いたに違いありません。最終的に「斎宮女御」は鈍翁のものとなったとのお話も伝わります。歌仙絵最高額の4万円の「斎宮女御」に1万5千円の表具を施した鈍翁は、この斎宮女御お披露目の茶会を披きました。その折に用いられた茶釜や茶碗が展示され、「斎宮女御」にちなむ取り合せを揃えての茶会と知ると、鈍翁のご満悦な様子も伝わるようです。

残念ながら本展には「斎宮女御」は展示されていません。しかしながら、佐竹本断簡式に合わせて、古筆研究家・田中親美による「佐竹本三十六歌仙絵巻」の模本が制作され、各断簡の所有者や皇室・帝国・帝室博物館に納められ、本展では京都国立博物館蔵の模本が展示されています。展示されているのがちょうど「斎宮女御」のところで、「斎宮女御」の姿を観ることが出来ました。田中親美はかの「平家納経」をも模写した人で、料紙のしみや絵の損傷までも正確に写しているそうで、分割時の状態を伝える資料としても重要です。佐竹家に伝わった三十六歌仙絵巻が納められていた箱に今は親美の模本二巻が納められているそうです。

 

 

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さぁ、これからが本物の佐竹本三十六歌仙絵とご対面です。

この佐竹本三十六歌仙絵は「詠まれた歌の情感や情景に合わせて、歌仙の表情や姿勢、仕草が描かれている」ところが他の歌仙絵と比べて優れている特筆すべき点です。さらに断簡となった歌仙絵は、所蔵された先で所蔵者の思いがこもった表具でお軸となり、ここも見どころとなっています。秘蔵されここぞという時に床に掛けられた歌仙絵です。展示にも工夫が凝らされ床に掛けられたお軸を拝見しているような展示となっており、1点ずつ丁寧な解説と和歌の現代語訳が付き、元の和歌も書かれています。大きくとられた余白にある詠み人たちは、2点ずつが向かい合うように展示されています。必携の単眼鏡を通して歌仙の顔を観てみる。確かに一人一人が違うのです。秋風の気配に驚いてハッと、月を歌いながらもうつむき、寒い雪の日に頬がかすかに赤くなり、その歌に合わせて表具は雪山模様です。「解説」から着ている装束にも目が移ります。そして在原業平のお隣の小野小町は…。

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所蔵先が美術館、博物館であればこれからも拝見する機会があるかもしれませんが、個人所蔵となると容易いことではありません。それが36歌仙絵+住吉明神絵の37点のうち31点も一度に拝見する機会はそうはないでしょう。100年の節目だからと展示できた歌仙絵もあるそうです。 本展は「佐竹本三十六歌仙絵巻」だけでなく、継色紙「いそのかみ」、升色紙「かみなゐの」、寸松庵色紙「ちはやぶる」三色紙が展示され、「ちはやぶる」は軸装も美しい。料紙装飾の傑作と伝わる 国宝「三十六家集」(京都・本願寺蔵)の料紙の美しさに目を奪われます。 女性歌仙は「小大君」と「小野小町」が前後期展示替えでお目見えします。それでもやはり残りの女性歌仙絵が心残りで、「佐竹本三十六歌仙絵巻」女子会の開催を願うばかりです。

絵巻が分割されることはそれほど稀なことではなく、本展でも展示されているもう一つの歌仙絵の名品『上畳本三十六歌仙絵』の様に一部海外へ流出したものも少なくありません。このような展覧会が開催されることは、所在の確認と現状を記録に残して後世に伝える意義もあるように思います。出光美術館所蔵「柿本人麻呂」と「僧正遍照」は10月29日~11月10日です。31/37全部を観るには展示替えリストをチェックして後期展示に出かけたいと思っています。
 



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