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「美の跫音(あしおと) ―1952年のパリ・ローマ・フィレンツェ―」 堂本印象美術館|都ログ。VOL. 3

投稿:2014年5月 2日

3月某日、「美の跫音(あしおと) ―1952年のパリ・ローマ・フィレンツェ―」展(2013/12/4(水)~2014/3/30(日))に行ってきた。

「次は、立命館大学、堂本印象美術館前、終点です。」

堂本印象美術館は、立命館大学の真正面にある。立命館大学の学生だった私は、堂本印象美術館の名前を毎日のように市バスの音声案内で耳にしていた。当時日本文化や日本発の芸術に興味のなかった私は、「印象」「美術館」と聞いて「印象派」を連想したものの、人名と分かるまで時間がかかったほどだった。そして、美術館の外観も何か白っぽく一風変わった病院のようで、どこか自分とは無縁の世界のように思っていた。

だが今年1月、18年ごしに堂本印象との再会を果たした。「御釜師400年の仕事 大西清右衛門 茶の湯釜の世界」展を見に行ったとき(※以下、それぞれリンク設定をお願いいたします)に、目に飛び込んできた「堂本印象下絵」の文字。確か松の絵だったと記憶している。もう一人、下絵を描いていたのは狩野探幽だった。鑑賞時は、釜の味わい深さ、時代の技術を結集した作品に心を奪われていたのだが、さらに精鋭の画家とコラボレーションしていたこと、そのうちの一人があの堂本印象だったことと、二重の驚きがあった。これは、ついにあの場所に行かなくてはと思った。

さて、お昼前に御釜師のおわす釜座町から北区平野を目指して自転車で出発した。咲きはじめた桜の枝の下をくぐり、緩やかな長い坂をのぼる。

初めて足を踏み入れた堂本印象美術館には、光が溢れ、聖母マリアの宗教画やステンドグラスをより一層美しく見せていた。随所に施された金色の装飾が華やかで、少し古ぼけた外観とはまったく趣を異にした。印象が細部にまでこだわって設計した美術館だけあって、ドアなどの調度や家具はもちろん、サロンからの風景も含めそこにいること全部を楽しむことができる。

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美術館内部
京都府立堂本印象美術館を訪ねた。京都で遊ぼうART より

さて展示は、印象が1952年から約半年間滞在したパリを中心に、ローマ、フィレンツェの街並みや人々の暮らしを捉えたスケッチや大型の作品の数々である。この頃に、女性の横顔にも見える、イニシャルIDを入れはじめたとのこと。彼をIDと呼ぶとちょっと通っぽいではないか。

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小品ながらもこの展覧会で注目して鑑賞したのは、墨とインクだけの濃淡で描かれた街並みのスケッチの小品群だ。瞬間的に空間を切り取り、白と黒の表現に落とし込むセンスに感心させられた。なんというか、迷いのないペンの走りにスピード感があり、そして構図がかっこいい。私が言うのもどうかと思うが、天性の才能を持ち合わせた人なんだろうなと感じた。ピカソの青の時代とシュールレアリズムが合わさったような構図の大型の作品も目を引いた(メトロ: 1953年)。迷いなく、様々な技法や作風を取り入れていく旺盛なチャレンジ精神と、それを可能にする技術があったということだろう。

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メトロ 1953年(京都府立堂本印象美術館蔵)
堂本印象美術館 ギャラリーより

作品もさることながら、サロンで流していた堂本印象の生い立ち、作風の変遷などを紹介していたビデオがとても見応えがあった。この時の展示品だけでなく、作品への取り組みを通して彼の人間像が浮かび上がってくる。そして、彼の障壁画家としての活躍は素晴らしい。具象、抽象、その時々でまったく作風が異なる。そして最後には、その二つを超越した華やかで大きな作品。東福寺の蒼龍、大阪カテドラル聖マリア大聖堂の聖母マリア、そして目を見張る晩年の法然院の香雲満堂。

下の写真は借り物だが、この映像が映し出されたとき、自分の中で何か崩れた。寺院の襖絵は華美であってはならない。墨絵のような控えめの彩色、または侘びを感じさせるような動植物の絵。無意識に自分が持っていた既成概念をつき付けられた。「こんな大胆で晴れやかな襖絵をお寺に!?」というショックに似た驚き。そしてすぐさま「それがいけないの?…いや、いけなくない!」と自問自答。


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法然院  雲華西来、香雲満堂
京都美術館巡り(1)より

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正太寺・悟道の道より

京都では、平安神宮、大徳寺、仁和寺、西芳寺、東寺、智積院、他にも四天王寺(大阪)、高野山金剛峰寺(和歌山)など、名だたる寺院にその作品を残している。宗教画というジャンルということもあり、その精緻な筆遣いに一心に打ち込む印象の姿を想像してしまう。それは瞑想的な静謐な体験だったのだろうか。それともその鮮やかな色彩に照らし出されるような神々しい体験だったのだろうか。

春の入り口のお天気と新しい美しさとの出会い。思い込みを突き崩された心地よさ。映像を流していたサロンも居心地良くて、少しうたた寝してしまった。豊かな気分で美術館を出て、行きつけのカフェに。夕刻までいい気分で古い茶の湯の本を読み、お抹茶に思いを馳せて最高の一日になった。

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立命館大学正門から見る堂本印象美術館。




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