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千總ギャラリー 千總460年の歴史|中里楓のアーティスティック探訪 103

投稿:2015年2月13日

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“How beautiful it is…!!”

その場に立ちすくんで、動けなくなる…
長きにわたる精進が究極に達し、ひとを魅了する類まれなる美しさがそこにありました。

千總ギャラリー
千總460年の歴史 -京都老舗の文化史-
2015年1月6日[火]-2月11日[水・祝]

メジャーな展覧会とは違い、このギャラリーには両手で数えることのできるほどの作品しか展示されていませんが、その数点が群を抜いてすばらしいのです。

この日にボクが虜になった作品は、

「海棠に孔雀図」 一幅
塩瀬地 友禅染 刺繍
十二代西村總左衛門
明治十四年(1881)
宮内庁三の丸尚蔵館蔵

江戸時代後期に活躍した岸駒(がんく:1749-1838)が描いた孔雀図を元本とし制作されたものです。
その岸駒の「孔雀図」が絹本着色でとなりに展示されているので、両作品を見比べることができます。
展示ケースから離れて観てみると、改めて千總の技術、その再現性に驚かされるのです。
これは塩瀬地に色挿しの技法、写し友禅の技法と刺繍によって制作されたもの。

描かれた孔雀の扇形の羽の色と言えば…

一枚の羽の中に萌黄(もえぎ)から白緑(びゃくろく)の緑色の変化が生き、胸元から足にかけては井鼠(どぶねずみ)から銀鼠(ぎんねずみ)へと鈍く光る灰色が配され、孔雀の目元近くには目の覚めるような藍色から水色へ、その下から延びる長き羽にはあざやかな洗朱(あらいしゅ)から薄柿(うすがき)のオレンジへ、そして背から延びる羽はラメのような輝きを持つ黒が孔雀の身体を引き締めるように描かれています。

色に…惹かれます。

また孔雀が色鮮やかに描かれているのとは対照的に、その足がつかむ岩は水墨画で、一枚の絵の中でその違いを楽しむことができます。

絵を観て、説明を読んで、また絵を観て、たかだか2~3分で通り過ぎてしまうにはあまりにももったいない。ドラマや映画を1~2時間かけて見るように、このような芸術もそれくらいの時間をかけて、ゆっくり鑑賞するのが礼儀であり、観る側にとってもそれがお得だと思います。

そうすれば、岸駒が生きた江戸時代や、十二代西村總左衛門の生きた明治時代の息吹を少しは感じることができるかもしれない。

このアーティスティック探訪を始めてからそれらの時代にリンクできないかと考えるようになり、これらの作品の線をなぞる、または模写することによってその時間の壁を少し開けることができるのではないかと、そんな思いに至りました。

これは、ボクにとっての新しい芸術鑑賞の方法のひとつです。
だから、とても楽しい。

今回のこの展覧会には、他にもすばらしい作品が展示されています。
それらをご紹介します。

「水中群禽図」 一面
刺繍 
十二代西村總左衛門
明治三十二年(1899) 宮内庁

原図は今尾景年、刺繍は渡辺傳吉によるもの。
あひるや鴨の質感が事細かく縫われています。

「嵐山春秋図」 六曲一隻
刺繍
十二代西村總左衛門
明治二十三年(1890) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

黒い空が黄金色の山々を際立たせている作品。
泡立つ水の流れも刺繍ならではの表現で表されています。
まさしく、厳しさと優しさをあわせ持つ、日本の原風景だと思います。

「薔薇に孔雀図」 一幅
塩瀬地 友禅染 刺繍
十二代西村總左衛門
明治十五年(1882)頃 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

包みこまれそうに広げられた求愛の羽、その中に点在する瑠璃色の瞳、頭上の桜色の薔薇、その枝に戯れる小鳥たち…まことに美しい。

2回目にこのギャラリーを訪れたときにもっとも時間をかけて鑑賞したのが、次の作品。

「嵐の図」 一幅
天鵞絨(ビロード)地 友禅染
十二代西村總左衛門
明治三十六年(1903) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

嵐の空に今まさに飛び立たんとする鷲を描いた作品。
頭から背にかけての縦髪の黄唐茶(きがらちゃ)色が鮮やかに、翼の羽一枚ごとの黄唐茶から墨色へのにじみぼかしが絶妙で、荒れる大空へ向かって翼を広げるその姿はまさに王者の風格を漂わせるものです。
それはまさしくビロードの持つ光沢感のさせる業。

「おぉ…さすが千總460年の歴史…」

2日間にわたって千總の美を堪能いたしました~!

※文章内に出てくる萌黄や洗朱などの色の名称は、青幻舎刊 長崎盛輝著「新版 日本の伝統色」を参考に引用しています。



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