京都の若手アーティスト特集【KYOTO NEW WAVE】

エントリー詳細

アーティスト 井口真理子

作家/ )

September 01 Sat, 2012

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『KYOTO NEW WAVE』 第15回目は京都市立芸術大学に在籍し、油画を学びながらアーティスト活動を行っている井口真理子さんにインタビューさせていただきました。


取材/佐々木梨乃 写真/佐々木 テキスト/西尾明日香、小川智美 編集/後藤あゆみ 

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『ASIAN PEOPLE』 展示風景@HOTEL ANTEROOM KYOTO(2012年)

現在どのような活動をされていますか?

最近の活動では、HOTEL ANTEROOM KYOTOで開催されたANTEROOM PROJECTという展覧会に出展しました。ホテルのエントランスや、喫煙室など、今まで展示したことのないような場所に挑戦できたのは面白かったし、 作品の見せ方について勉強になることが多かったですね。展示のときに気を付けたことは、ホテルという特殊な空間をどのように作品に生かし、コントロールするか、という点です。ホテル備え付けのソファーやテーブルなどは一見、立体作品の展示台として組み合わせたら雰囲気が出そうですが、逆にホテルという空間になじみすぎて作品が見えにくくなってしまう。なので、あえてちゃんとした真っ白い展示台に、一点ずつ、彫刻作品としての印象が際立つように展示しました。エントランスには、『ASIAN PEOPLE』という立体作品のシリーズを、また喫煙室には『ラブレター』という高さ2mのペインティングを展示しました。

 

『ASIAN PEOPLE』はどのような思いで制作されましたか。

もともとギリシャ彫刻は神、女神のような聖人たちをかたどったもので、昔の人も相当気合いを入れて作ったものだと思います。みんなが崇めたくなるように、聖人たちは毅然とした態度で佇んでいる。そういう、畏怖の存在である彼らの、額、鼻、目、頬、顎などあらゆる彫りの深い西洋人的な部分を私が削り取り、さらにフラットに磨きあげて東洋人顔に変えてしまうんです。東洋人顔のベースができたら、絵具で独自の漫画調のオリジナルキャラクターに塗り替えていく。するとギリシャやローマ時代の古代彫刻が現代に蘇って新しいキャラクターを持ち出します。昔の神聖な人々が東洋人に「乗り移られた!」という感じです。西洋ARTのルール、といったものが世界的に根強く支配していると思いますが、この『ASIAN PEOPLE』はそれに対してのある種のアンチテーゼ、あるいはアイロニカルな態度も示していると思っています。ただ、アンチテーゼと言ってもできるだけ可笑しく批評めかす程度で、西洋と東洋がコラボレーションしてみんな仲良く、面白くやろうぜ!といったような明るいイメージの方がメッセージとしては強いですね。
 

 

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『ラブレター』(2011年・2050mm×1500mm・oil on canvas)

 

『ASIAN PEOPLE』以前はどのような作品を制作されていましたか。

ペインティングを制作していました。独自の漫画調で、コンセプチュアルな油絵などを描いていました。自分はいつもどこか心の中で、「昔」や「過去」に対して憧れのような感情をもっています。『ラブレター』と『バイバイデンワ』という作品は、80〜90年代におけるラブレターや公衆電話といった、どちらも現代人の意識からはもうほとんど失われてしまっている象徴的な“時代のアイコン”の例です。『バイバイデンワ』では、ヒロインが恋人へ告げる「バイバイ」と、公衆電話が時代に告げる「バイバイ」という、二つの意味を込めています。私はちょうど1990年生まれなのですが、90年代初期やその少し前の80年代後半辺りの“少しダサくて、でも格好いい“みたいな、その頃の少女マンガやトレンディドラマに3歳くらいからずっと憧れがあって、その思い入れから作った作品ですね。雨が降っている夜に、公衆電話に女の人が駆け込んで涙を浮かべながら電話をする、というようなトレンディドラマの十八番的シーンがたまらなくロマンティックで。今はみんな携帯電話を持っていて誰とでもどこへでも繋がれるけど、昔にはそういうものがなくてこの時間に電話に出ないと恋人と話せないとか、一度電話を切ったら次いつ話せるのだろう、という感覚がありますよね。「待ち合わせ」一つをとっても、今では当たり前になっている携帯電話というツールなしに、相手と連絡が取れないままある場所で誰かを待つ、昔はそういうロマンがあるじゃないですか。特に90年代初期の、これまでのアナログ時代のなごりと、デジタル時代へ突入していくことへの期待が織り混ざったような時代の、なんともいえない甘酸っぱい空気感に惹かれていてそれを大切にして制作しました。『バイバイデンワ』が「話す」、『ラブレター』が「書く」という行為をそれぞれ表していて、現代ではコミュニケーションの形がインターネットを通じて多様化してきていますが、その原点ともいえる行為を、作品で訴えたかったんです。

 

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『バイバイデンワ』(2010年・1167mm×909mm・oil on canvas)

 

『バイバイデンワ』や『ラブレター』は90年代初期をテーマに、『ASIAN PEOPLE』は古代ギリシャ・ローマ時代へと一気に過去へ遡ったのは?

まず、媒体のことでいうと、平面から立体に移り変わったのはひらめきが大きかったです。知り合いからもらった石膏像をスタジオにインテリアとして飾っていたんですが、ある日漫画調のペインティングを制作しながら横目でそれを見て、ふと「これだっ!」と思いました。自分は確かに幼いころから90年代初期の世界観に惹かれていましたが、それ以外にも例えば「お寺」といった歴史物にもずっと興味がありました。京都に生まれ育った環境からか、街の中にたくさんあるお寺や神社に幼いころから慣れ親しんでいて、小学生のときの趣味は父親と一緒にお寺巡りに行くことでした。お寺は、災害や戦火などで修復が繰り返されていたとしても、何百年という時を刻み続けている威厳のようなものを漂わせている。その空間にいると、「そうした歴史というステージに自分も今、存在している」という意識がはたらいて、なんというか、感極まるんですよね。昔の人々と交信しているような感覚です。だから、私は80〜90年代という「身近な過去」に対してだけではなく、幼いころからそうした「悠久の過去」に対してもある意味同じ「歴史」として、過去の魅力を感じ取っていたんです。そんな風にして、『バイバイデンワ』や『ラブレター』から『ASIAN PEOPLE』まで遡ったのはあくまで自然な流れというか、もっともっと過去へ遡ってみてもいいなと思って。古代ギリシャ・ローマの建築や彫刻に対しても、お寺に行ってときめいたのと同じ感覚を抱きます。過去の世界から受けたインスピレーションを、現代に蘇らせたいという欲求があります。そしてそうした想いや情熱を、ポップで明快な造形として作品に起こしていきたいです。

 

あなたにとって「つくる」ということは?

一心同体です。自分自身と、モノをつくる、表現することは、今後の人生においても切り離せません。3歳のときに「絵を描くって面白い」と夢中になり、それから当たり前のように毎日絵を描いてきました。お寺へ行き、90年代のテレビドラマを見て、絵を描くといったような幼少期を経て、アートという世界に出会ってからは「絵を描く」ことから「モノをつくる」という意識に変化してきました。媒体が平面であっても立体であっても「なにか最高のモノ」、「本当に面白いモノ」に辿り着くために「つくる」、という概念が自分の中にあります。もちろん「絵を描く」ことを常に軸にしてきたからこそ、立体作品など媒体が変わっても自分らしく一貫した世界がつくれると思っています。そのつくる情熱は、自分が今まで出会ってきた歴史文化遺産や古美術や現代アートから受け取ってきた数々の「感動」が支えていて、その尊い世界に自分も参加して、その感動を「つくる」ことで更新していきたい、さらに新しい、面白いモノを生み出していきたいと思っています。

 

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『ASIAN PEOPLE』 左上ー「MR.BALD HEAD」 左下ー「MR.JAGUAR」 右ー「MS.NIPPLE」

 


 

中学3年生の頃から美術の世界に入りアーティストになると決意をしていた井口さん、早くからアーティストとして活動する覚悟と目標を決めた彼女は漫画、日本画、油画など表現を学び、力をつけて立体から平面まで様々なかたちで作品を生み出し発表されてきました。 自分の中でルールや概念を持ちストイックに制作を続ける井口さん、これからのご活躍が楽しみです。

 


 

 

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Artist Profile

井口 真理子 - Mariko Iguchi-

1990年京都市生まれ。3歳で初めて絵を描き、
中学生で「アーティスト」を志し、美術高校に入学。
80〜90年代の「ださロマンティック」をテーマに、絵画、彫刻などを制作。
2012年より京都の「StudioMI」を拠点に活動。
京都市立芸術大学を2013年卒業予定。

web: http://marikoiguchi.com
twitter: http://twitter.com/marikoiguchi
youtube: http://www.youtube.com/watch?v=Y-2TUb3mATA

About

展覧会・イベント企画やフリーペーパー発行など、積極的なアーティスト支援活動を行っている京都・関西の美大生団体「SHAKE ART!」による、「京都で遊ぼうART」特別連載コーナー!京都の新たなアートの波=KYOTO NEW WAVE を生み出す、旬の若手アーティストを毎回ご紹介していきます。

Profile

SHAKE ART!

関西の美大生団体SHAKE ART!は若手アーティストや美大生をプロデュース。人や作品を出会い繋ぐきっかけづくりをしています。イベントや展覧会の企画運営やフリーペーパーを発行しています。



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