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アートを支えるひとたちのことば。

vol.
03

山野英嗣さん(京都国立近代美術館・学芸課長)
「川西英コレクション収蔵記念展 夢二とともに」

今回は、京都国立近代美術館で11月11日(金)より開催される展覧会「川西コレクション収蔵記念展 夢二とともに」の企画を担当された学芸課長の山野英嗣さんに、お話をお伺いしてきました。大正~昭和に活躍した芸術家・竹久夢二の作品を中心に、抽象表現など新たな美術を生み出そうとした「前衛」的な作家たちの作品も紹介するこの展覧会。その企画においては、どのような思いがこめられているのでしょうか。企画された展覧会のお話を通して、ミュージアムのアートに対する役割、展覧会を開催することの意図と意味を考えさせていただきました。

憧れ・原点・交流。川西英と竹久夢二がともにあって生まれた「川西英コレクション」。

■今回の「川西英コレクション収蔵記念展夢二とともに」展の、開催の経緯についてお話いただけますでしょうか。

川西英貼り交ぜ《竹久夢二千代紙》 (京都国立近代美術館)

今回展示する「川西英コレクション」は、神戸で活動されていた版画家・川西英さんによるコレクションです。

川西英さんの三男に、祐三郎さんという方がいらっしゃいます。彼も同じく神戸ではよく知られている版画家で、以前神戸の小磯記念美術館で展覧会も開催されています。祐三郎さんと京都国立近代美術館の関わりは非常に深いものがあります。当館の歴代の館長や学芸課長が川西英のご夫人や、祐三郎さんとも親しく、川西英や祐三郎さんの版画作品を寄贈頂いてもいたからです。
今回寄贈頂いた「川西英コレクション」の作品は全部で約1000点ほどあります。私どもの先輩にあたる京都国立近代美術館のスタッフが、これまでの経緯もあって「ぜひ譲って頂きたい」という希望を祐三郎さんにお伝えしました。そして2006年から順次コレクションの購入を進め、今年2011年の10月、寄贈も含めて全ての購入が完了したところです。今回の展覧会の開催はコレクションが揃って初めての披露の機会となります。また、この展覧会は元々作品の購入を決めた当初からの、祐三郎さんとのお約束でもありました。
近代美術史に「竹久夢二」をきちんと位置づける展覧会にしたい。

■ 今回の展覧会の展示のポイントを教えて頂けますでしょうか。

竹久夢二《セノオ楽譜 no.44「蘭燈」》(京都国立近代美術館)

川西さんのコレクション約1000点余のうち、3分の1にあたる320点が竹久夢二の作品です。

川西英さんがなぜこれだけの数の夢二作品を集めたのか。その理由は1960年に出された「これくしょん」という季刊誌から知ることができます。驚いたことに、最初のページに川西英さんが「夢二追憶」という文章を寄せられていたんです。この冒頭には『私の青春時代に一番感動を受けたのは夢二であった』と書かれていて、十五、六歳のころから川西さんが夢二に憧れを抱いていたことがわかります。また当時の夢二は「コマ絵(挿絵・カット)」を沢山雑誌や本に描いていたのですが、夢二のコマ絵を川西さんが模写したものも数多く残っています。

コレクションのもうひとつの特徴となっているのが、「肉筆画」。掛軸に描かれた日本画がそれが数点含まれています。夢二の肉筆画はこれまで殆ど公開されたことがありませんでしたので、"新発見"といってもよいかと思います。
他には「セノオ楽譜」。ヨーロッパや日本の様々な曲を収録した楽譜で、表紙を夢二が担当していたもので、これも余り数が残っていない貴重な作品です。これも川西さんが自ら買い求めてコレクションされていて、展覧会では58点全てを展示します。

川西さんと竹久夢二の直接的な交流を示すのは、夢二が晩年になってからの手紙のやりとりでした。川西さんが作品を集めていることを夢二に手紙で書き送ったんです。それに対して夢二も「よくここまで丹念に集めて下さって...」とすぐにお礼の返事をしています。これは川西さんにとっても本当に大切な宝物になっていたようで、封筒まできちんと残されています。こちらも展示でご紹介します。

今回の展覧会を「夢二とともに」としたのは、川西さんが終生続けたコレクションの大半が夢二の作品であることはもちろんありますが、同時に、川西さんがその後版画家になるその原点が夢二だったから、という意味もあります。川西さんと夢二がともにあって生まれたコレクションである、ということですね。

■ 竹久夢二の展覧会は今までも全国あちこちで開催されてきましたが、これまでの展覧会と特に異なる部分はどこでしょうか。

竹久夢二《榛名山賦》(竹久夢二伊香保記念館)

実は国立美術館での竹久夢二展は今回の展覧会が初なんです。夢二のコレクションを持つ美術館は沢山あるのですが、実は国立の博物館・美術館では、竹久夢二の作品はこれまで1点も収蔵されたことがなかったんですよ。当館でも、夢二には関心は持っていたのですが、展覧会を開催するまでには至らなかった。

というのも、一般の方には竹久夢二はよく知られていて大変人気も高いのですが、「近代美術史」という流れの上では、竹久夢二は余りきちんとした評価や位置づけがされてこなかったからなのです。それは、彼はあまりタブロー、いわゆる「絵画」を残していないとされていたことにあります。

夢二は画家としてよりは、むしろイラストレーターとしてよく知られていますね。夢二は日本のグラフィックデザインの基礎を築いた重要な人です。資生堂のロゴをデザインした山名文夫さんも、若いときは殆ど夢二調の絵を描いています。また、大丸や高島屋の宣伝部出身で関西電力のシンボルデザインなどを手がけた今竹七郎さんも、初期は全くの夢二調の作風でした。竹久夢二は、日本のグラフィックデザインを支えたデザイナーやイラストレーター皆の憧れで、原点だったんです。が、その面ばかりが一人歩きしてしまっていたんですね。

しかし、実際の夢二はイラストの仕事と並行して、水彩や油絵など、かなり意欲的に絵画制作も行っていました。夢二は海外に渡って絵を学んでいたこともありますし、当時の西洋の新たな動向もしっかり吸収しています。印象派風の油絵も描いているんですよ。でも残された数も少ないので、ほとんど今まで外に出てこなかったのです。今回はコレクションの肉筆画の他にも、所蔵元にお願いして夢二が描いた油絵なども特別に出品して頂いています。

また、夢二は晩年、浜名湖畔の榛名山に「産業美術研究所」という施設を作ろうとしていました。
夢二が志半ばで亡くなったため実現はしなかったのですが、彼は手工芸品、生活に密着したデザイン作品の研究所を作ろうとしていたんです。
また、現代でいうなら草間弥生さんとか村上隆さんがやってらっしゃいますが、夢二は自分で制作・デザインしたアート作品をお店で販売しようとしていたました。夢二は現代アートの「原型」を作ったとも言えますよね。
そして、ドイツ・バウハウス創設時の教師の一人だったヨハネス・イッテンという人がいるんですが、ベルリンにあった彼の学校に夢二は招かれて、ここで日本画に関して講習会も行っています。これも夢二の知られていない別の側面ですね。夢二がもう少し長生きしていたら、きっと彼の評価は今とは全く変わってきたはずです。

以上から、今回の展覧会は今までの竹久夢二像とは全く違う側面の夢二を紹介することになると思います。夢二の展覧会と聞いて美人画がずらっと並んでいる様子をイメージしてこられると、ちょっと驚かれるかもしれませんね。
この展覧会では、竹久夢二が絵画創造にもとても力を入れていたことを明らかにして、「近代美術史」に竹久夢二をきちんと位置づけたいと思っています。それが美術館の仕事でもありますからね。

芸術は「前衛」である。 コレクションが伝える、最先端のアートを追い求めた作家たちの軌跡。

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■今回の展覧会には、竹久夢二だけではなく、他の作家の作品も多く展示されるとお伺いしました。抽象的な作品も多いようですが、川西さんのコレクションに竹久夢二と一緒にそのような作品が含まれているのは何故でしょうか。

恩地孝四郎《サーカス(ハーゲンベック・サーカスの印象)》 (京都国立近代美術館)

川西英さん自身も、創作版画家として重要な位置を占めていた方でした。

版画は一点ものではなく数点を刷りますので、それを同時期に活躍していたほかの作家に譲ったり、交換し合ったりしてたんです。その中で川西さんは、同時代における最先端をいっていた芸術家たち...いわゆる「前衛」的な、アヴァンギャルドな作家たちともつながりを持っていたんですね。
例えば、抽象画の創始者といわれるカンディンスキー(※)に影響を受けて、日本に初めて抽象的な表現を持ち込んだといわれる、恩地孝四郎の全くの未公開作品もコレクションの中には含まれています。彼は川西さんと親しくしていた作家の一人で、川西さんと同じく、竹久夢二に憧れを抱いていた一人でもありました。

※:カンディンスキー(1866-1944)
ロシア生まれの画家。抽象画の創始者といわれる。ドイツやフランスでも活躍し、特にドイツでは現代芸術のさきがけとなった芸術グループ「青騎士」を結成したほか、後に芸術・デザイン学校バウハウスでも教官を務めた。

また、高見澤路直...後に漫画「のらくろ」の作者として知られる田河水泡の版画作品もあります。
彼は戦前、若い頃に前衛美術の活動に参加していたのですが、戦争の間に焼かれてしまったのか、当時の彼の作品は残っていません。そのため現代美術家としての彼については殆ど知られていないんです。実際私たちも、コレクションを整理していた当初はその作品が誰のものかさえ分かりませんでした。恐らく、現存する高見澤路直唯一の版画作品ではないかと思います。
その他にも、ほとんど作品さえ残っていない作家の作品が沢山、コレクションに含まれています。。私たちも整理をしているなかで本当に驚かされました。
時代の先端に立っていた作家たちの動きも知ることができる。この点でも、川西コレクションの重要性を分かって頂けるのではないでしょうか。

そして竹久夢二も「前衛」芸術に関わりが深いんです。彼も1920年代の抽象主義とか表現主義といった「前衛」芸術の動きに非常に関心を持っていて、展覧会を数多く見ています。また、カンディンスキーが所属していたドイツの芸術グループ「青騎士」が出した唯一の芸術雑誌も持っていました。ヨーロッパに行った際にも、現地で実作品も見ているはずです。

ある意味、美術・芸術ということ自体が「前衛」性を持っているのですよね。「前衛」とは、新しいものに次々と挑戦する、古いものから新しいものを生み出していくこと。あの印象派だって、当時から見れば新しい芸術の動き、すなわち「前衛」芸術です。その時は理解されなくても、年月が経てばそれが普通になり、伝統となっていきます。そしてそれを乗り越えようとしてまた新しいものが生まれる。竹久夢二や、川西英、同じ時代の作家たちもその例外ではありません。今回の「夢二とともに」展でも、この流れを見せたいと思っています。

美術館自身のコレクション展だからこそできる、「繋がっている」展覧会。

yamano03.jpg 実は竹久夢二をドイツに招いたヨハネス・イッテンに関しては、昨年私が企画を担当した「日本画の前衛」展でバウハウスと日本の関係を取り上げた際に紹介しています。
この「日本画の前衛」展も、以前に当館で開催した「日本の前衛」(1999)という展覧会から生まれたものでした。「日本の前衛」展の最後の章に少しだけ日本の画家による「前衛」芸術の動きについても取り上げました。その補完の意味も込めて、将来もっと大きな展覧会として取り上げようと思って企画したのが昨年の企画でした。
今回の「夢二とともに」展も、その延長線上にあるものといえますね。今回ご紹介する中にも、以前の展覧会で取り上げた作品・資料が含まれています。また、今回の展覧会でご紹介する作品や作家を、今後また別の展覧会でとりあげることもあると思います。実際、今回の出品作に村山知義という人の作品があるのですが、彼の初めての展覧会も来年4月に開催する予定です。

これまで開催してきた展覧会はみな「連続」してきたものである、ということを展覧会を企画する際には心がけています。展覧会としては別個のものですが実は何かしら繋がりがある。これは展示する作品が美術館自身のコレクションであるからできるものだと思います。

収蔵品、コレクションというものはその美術館の生命線です。その点においても、今回の「夢二とともに」展も、自分たちのコレクションを中心とした展覧会として、とても重要なものといえると思いますよ。

川西コレクションの中には、陶芸家による版画も含まれているんです。富本憲吉とか、バーナード・リーチとか、河合卯之助とか。ちょっと意外に感じますが、皆若いときには版画もやっていたんですね。見ると、彼らの陶芸作品の文様や絵柄にも通じているのがわかります。
元々京都国立近代美術館は工芸に力を入れてコレクションをしてきた美術館なので、そんな陶芸家とも結びつきが強いんです。もちろん、彼らの陶芸作品もこれまで美術館では収集しています。
ですから、川西コレクションは、この美術館に加わるのに、とてもふさわしいコレクションであるといえると思います。

終始温和で、とてもわかりやすい語り口でお話くださった山野さん。インタビュー中には、実際の資料もその場で見せてくださるなど、本当に貴重な体験をさせていただきました。

今回の展覧会を、きちんと画家・芸術家としての「竹久夢二」という人を位置づけるきっかけにしたい、と山野さんは繰り返し仰っていましたが、 その中で「それが美術館の仕事でもありますから」という言葉は大変に印象に残りました。 ミュージアムやギャラリーが何故、展覧会を開催するのか?その役割とはなんなのか?山野さんのお話からは改めて考えさせられた思いがします。

竹久夢二という人を改めて考え、川西さんや恩地さんといった彼に影響を受けた芸術家たちへの新たな流れを感じられる「夢二ととも」にたどる日本の近代美術展といってもよいかもしれません。 ここでしか見られない、大変貴重な作品や資料も沢山展示されます。 夢二ファンの方も数多くいらっしゃるかと思いますが、きっと新鮮な気持ちで見ることができるのではないでしょうか。夢二と最初に出会ったときの、川西さんのような心境で。 ぜひ、この秋冬は京都国立近代美術館へ!

お忙しい中、お時間をいただいた山野さんに、この場を借りてお礼を申し上げます。

※山野さんの講演会が展覧会期間中の12月3日(土)に開催されます。こちらもぜひ足をお運びください。

【今回お話を聞いたひと】

山野英嗣さん(京都国立近代美術館・学芸課長)

京都国立近代美術館 学芸課長 「川西英コレクション収蔵記念展 夢二とともに」企画担当

【展覧会情報】

川西英コレクション収蔵記念展 夢二とともに

本展覧会は、2011年10月、京都国立近代美術館が<川西英コレクション>のすべてを収蔵することを記念し開催するもので、その全貌を紹介する初めての機会となります。

■会期
平成23年11月11日(金)~ 12月25日(日)
■会場
京都国立近代美術館
■お問い合わせ
電話:075-761-4111
Web:川西英コレクション収蔵記念展 夢二とともに

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