「マッチ」という言葉は、いまや死語になりつつあるのかもしれません。
実際、今の子ども達にとってはマッチよりもライター。火遊びの原因の多くもライターになっているといいます。「マッチ一本火事の元」の標語も、どこまで通じるのかわからない節があります。
しかし、かつてマッチは確かに、常に生活の中心にある存在でした。
花火や蚊取線香をつけるのも、鍋料理で活躍するのもマッチ。そして、喫茶店や居酒屋、旅館などには必ず、その店の名前を記したマッチが置いてあったものでした。
客が出入りするほとんどの店が、独自のマッチを名刺がわりに作っていたのです。
マッチは小さな「広告塔」でした。そのため、それぞれの店はお客の記憶に少しでも残るよう、他の店とは違う印象的なマッチを作ろうと、趣向をこらすようになりました。
小さなその世界には、様々なデザインや字体、絵柄が展開します。時代の最先端をゆくものが描かれたり、時世の様子を反映した図柄が使われたりもしました。またその一方で、定番化した古典的な絵も見られます。
しかもマッチは無料で頒布するものでしたから、安価に作る必要もありました。
そのために色数を減らし同時に人の目を引くデザインが求められました。その点に、マッチラベルの多様な工夫のおもしろさがあります。
だからこそ、その「小さな広告塔」の魅力にとりつかれて、普通なら使い捨てられてしまうマッチラベルを収集しようとするコレクターも現れるようになったのです。
京都工芸繊維大学美術工芸資料館には、そのようなマッチラベルコレクターたちが集めたマッチラベルが大量に収蔵されています。それは、印刷技術やデザイン、さらには当時の社会風俗を反映している、「教材」としてのマッチラベルです。
今回の展覧会では、それら資料館が所蔵するマッチラベルコレクションを展示、ご紹介します。
人びとが小さな広告塔に託した思い、そして懐かしささえ感じさせるマッチラベルの多様で豊かな世界を味わってみて下さい。